56 金欠の錬金術師②
「お久しぶりに御座います、ライトロード様」
「お久しぶりです、執事さん」
昨日冒険者ギルドとお話合いをしたら、翌日には執事さんが来たでござる。
リアナが来賓室へ案内し、そこで話をすることに。
「先日は素晴らしい知恵と魔道具をお貸し頂けまして、ありがとうございます。つきましては、まずこちらを」
そういっておそらく金貨のつまっているであろう袋を3つと、何か別の物が入っている袋を2つ取り出してきた。
「こちらが先日のゴブリン討伐参加と魔道具の使用料の支払いです。続いてこちらがグランベル公爵様よりお預かり致しました、ポーションや解毒剤、消毒液の支払い分になります、それとお借りしていた香炉に御座います。こちらに関しては、買取も考えておりますが、一度返却させて頂きます」
そう言って3つの袋を示している。
最後の一つは?
「こちらはソフィア様からの謝礼だそうです。公爵家だけでなく、王家そのものとソフィア様が繋がりを持てた事に大変感謝をしておりました」
「繋がり? 公爵家を通して王家と繋がりが持てたってこと? というかジ、先々代様がいらっしゃるから王城での顔つなぎには事かかないのでは?」
「先々代領主、ゲオルグ様はあくまでも王家の相談役で御座います。すべてにおいて平等でなければなりません。彼の方は我らが領に対しても、ソフィア様やギルフォード様に対してもその姿勢を貫いております」
「なるほど?」
そうだったっけか?
「それにその、ソフィア様があまりゲオルグ様に良い印象を持たれておりませんので……」
「ああ、なんとなく分かります」
エロジジイ、孫に嫌われ、憐れじじい (五・七・六) 字余りだし季語ないや。あとセンスも。
「それともう一つ、ご依頼もございます。その謝礼金は、ご依頼に関する頭金とお考え下さい」
「はあ?」
そうして執事さんは、懐からハンカチにつつまれた、一つの……見た事ある種を取り出した。
「えっと、これは?」
背中に冷や汗が生まれる。
「こちらは、とある錬金術師様がおつくりになられた『ゴーレムの種』だそうです」
ウッドゴーレムの種だね。知ってます。
「先日の事ですが、ミリミアネム=ダランベール王女様を中心となされた討伐隊が東の大森林へと入りました。先ほど話に出られていらしたグランベル=モード様や我が町のギルフォード様もその討伐隊に参加しております」
「はあ」
ニアミスしてた! あぶねえ!
「その討伐作戦の折に使われていたのが、この『ゴーレムの種』に御座います。こちらの量産が可能であるか、ソフィア様からのお問い合わせに御座います」
「そ、そうなんですか、流石に材料も何も分からないと調べようが……」
「現状分かっているのがトレントの魔核と、ストーンゴーレムの魔核、カラブラの豆だそうです。こちらのゴーレムは地面に植えると、小さな芽を出し背の低く細い木になるそうでして、その小さな木が自分で動き、魔物の亡骸から養分を取り成長しトレントの様なゴーレムになるそうでして」
はい、そうですね。トレントの魔核とストーンゴーレムの魔核、吸血樹の根っことレッドトレントの葉を生命の水溶液に混ぜて作った液体を作って、カラブラの豆を煮だして殻を剥いて、殻の穴を塞いで注射したら完成だ。
殻の穴を塞いだり注射する作業が面倒臭くなったので、倉庫に大量の液体が残っております。
「そ、そのようなゴーレムがいるのですね! 驚きです!」
「ええ、錬金術師の皆様の中にはゴーレムの作成を生業とされている方もいらっしゃいますからね。変わり種のゴーレムの一つとも言えます。見た目はトレントだそうですが、役目を終えると、その大地に根を張り1本の木になってしまうそうなのです」
「そ、それならばそちらの方が調べてくれるでしょうね」
「ええ、ええ。ですが領主様は、領内の腕利きの錬金術師のすべてにご命令を出されましたので、Aランクのライトロード様も是非にご協力をお願いいたします。量産品の完成の暁には研究に掛かった費用と、5千万ダランをご用意しております」
「ごせんまん!?」
「それほどに有用なゴーレムなのでしょう。簡単な命令しか遂行出来ない様ですが、コンパクトにまとめられるゴーレムというだけでも十分に価値がありますから」
「な、なるほど」
く、目の前に5千万ダランが積み上げられているのと変わらない話だな。
「その種は王女様が保管していた物だそうです」
「それでしたら、王女様にその作成された方をご紹介して貰えば……」
「わたくしもそう思ったのですが、何やら事情があるとの事でして」
製作者、逃げました。ここにいます。
「そちらの種と、現状分かっている素材をいくつか置いておきます。どうかご協力のほど、よろしくお願い申し上げます」
「は、はい。可能な限り頑張らせて頂きますとお伝えください」
ソフィア様は領都にいるから、きっとギルフォード様から手紙がいくだろう。
ええー、お金は欲しいけど、簡単に作ったらオレの居場所バレるんじゃね?
先ほど頂いたお金は、リアナがどこかに片付けてしまいました。
ああ、無常。
とりあえず、5千万ダランは諦める。うん、何をするにしても蘇生薬が優先だ。
冒険者達に集めて貰った素材のいくつかで実験をしつつ、生命の水溶液や青の水溶液に作り変えたりする。
常備薬や一般消耗品に出来る物は水溶液じゃなくてそっちに作り変えた。なんだかんだ言って売れ筋だからだ。
「おい、ライトいるか?」
作った常備薬なんかを、一所懸命棚に台を寄せて並べてくれるイリーナを温かい目で見ていたらおっさんが来た。
「いるぞー、急患か?」
「昨日急患になるところだった」
「体には気を付けろよー」
頑丈な人だ。
「武器を作って貰いたいって人を紹介したいんだが、いいか?」
「どのレベルの物を欲しがるかだな。それとAランク以上にしか作らんよ」
昨日の今日で依頼を持ってきてくれたらしい。もちつもたれつの関係っていいよね。
オレの武器は結構危ない物が多い。変な人に持たせるわけにはいかない物ばかりだ。
ケーシーみたいに手持ちの武器を改造するのとは訳が違う。
ちなみにイドは別問題だ。あれはその辺の武器屋で買った頑丈なだけの武器が伝説級の武器に早変わりするので、何を持たせても危ない。
それにエルフはなんだかんだ言って弱い者いじめはしないし、力の使いどころを間違えたりはしない。使い始めたら苛烈だが。その辺は信用出来る種族だ。
「おい、入って来い」
入ってきた人間の顔を見て、オレは驚いた。
長身で紫色の長い髪が特徴的な絵にかいたような色男がそこに立っていた。
そして向こうも、こっちの顔を見て表情を明るくする。
「Sランクのレドック=ブラインだ」
「いらっしゃい、武器の注文か」
うん、知った顔で知った名前だ。
「槍が欲しい。作れるか?」
「出来なかないが、槍かぁ」
槍は武器の中でも奥が深い武器だ。
バランス調整が面倒臭い。
「その顔、槍の難しさを知っているのだな?」
「難しさというか、手間がかかるというか」
「フ、いいじゃないか。ゆっくり話がしたい」
「じゃ、まあ奥にどーぞ」
「ボーガン殿、顔つなぎ助かった。ここからは一人で話そう」
「そうか? まあそうだな。ライト、そいつはウチのエースだ! 頼んだぞ!」
おっさんが帰ったのでレドックさんと二人で奥の来賓室に入る。この人一応貴族だからね。
「それで、槍か」
「ああ、その前に挨拶がしたい。いつぞやは命を助けられた、有難う」
「やっぱ気が付くか」
「戦友の顔を間違う程、愚か者ではないさ。道長様?」
「今はライトロードで通している、敬語も敬称もいらないよ。むしろこっちが敬語を使うべきかな? レドック上級騎士爵殿?」
お互いに席に座り、顔を見合わせて笑いあう。
「久しぶり、そういや南の方に拠点を構えてるって言ってたな」
「ああ、お前だけでも残ってくれてて嬉しいよ。本当に久しぶりだ」
自然と握手を交わした。
レドックは魔王軍との戦いの際に、戦場を共にした戦友だ。そこそこ長い時間一緒にいた相手。
「こんなところで何を?」
「色々作りたい物があってな。王城では邪魔者が多くて集中出来ないから逃げてきた」
「あー、分かるなー。自分も逃げてきた口だし」
魔王軍との戦いの区切りがついた時、この男は男爵位を賜る事が出来た。男爵家となれば、半恒久的な貴族の仲間となるのだが、その分しがらみも多い。
そんなしがらみから逃げてきた男である。
「ダランベール王国の三騎士とまで言われたお前がよく逃げられたな」
「ありゃ戦場での通称だ。別に正式な役職じゃない。お前こそミリア様からよく逃げられたな。あの人ベタ惚れだっただろ」
「言わないでくれ、胃が痛い」
本当に、本当に言わないでくれ。
道長君の事を知っている人も中にはいるんです。




