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55 金欠の錬金術師①

「参ったな……素材を買い過ぎた」

「散財は駄目ですよマスター。今後はお金の管理はリアナがしますからね」

「ご主人様、おかず減らすわよ!?」

「わ、わたしのも……?」

「当然ね!」

「あるじ、めっ」


 イドからの視線が特に痛い。いや、家計を圧迫するほど散財した訳ではない。

 なんだかんだ言ってお店の収入は大きいのだ、おかずを減らさなくても全然やっていける。

 何が問題だったか。

 この間ダンジョンにいったのがいけなかった。


「色々素材見たんだもん! しゃーないじゃない!」


 この街に最初に来た時は、街の周りの魔物の素材や植物素材を調べただけだった。なんだかんだいってそれ以降あたらしい情報を入手していなかったのである。

 そんな中でダンジョンの中に行ったものだから、真新しい素材がいくつも目に飛び込んできたのである。

 バーゲンセールだ。

 オレとセーナである程度採集を行っていたが、当然ながら数も足りない訳だ。

 何が蘇生薬のヒントになるかわからないので、それぞれの素材の特徴を調べたり、実際に各種水溶液に作り変えたりしていた。

 そうなると、更に足りない素材が出て来る。

 オレとセーナとイリーナだけでダンジョンに入ろうとしたら、門前払いをくらった。

 絶対におっさんの差し金だ。


『数少ない錬金術師殿を、危険なダンジョンに入れる事など出来ません。どうか護衛と共に入って下さい』

『錬金術師とメイドだけのパーティなど正気か? ダンジョンに入れられるわけないだろう。護衛を最低でも4人は雇ってこい』

『すいません、すいません、入れるなって言われてるんです、すいません、ごめんなさい!』


 嘗めやがって。

 強行突入してもいいが、ダンジョンの受付をしている人間も冒険者ギルド職員や、彼らに雇われている冒険者達だ。

 怪我をさせれば更に当たりが悪くなる。

 面倒だが必要な物は多い。冒険者に依頼をかける形を取った。意外と持ってきてくれる人が多くて、予想より買取量多かったし質も良かった。

 しかし依頼を出した素材は実験優先だ。

 それとクリスに支払ったマグマ鳥の卵5個の代金に、烈火の護衛依頼。

 結構いいお金がオレのお財布から飛んで行ったのである。

 悲しい。


 買い取りの管理をしてくれていたリアナが、その状況に気づいて冒険者ギルドでの依頼も止めた。

 そのころには、ギルフォード様が用意してくれた店舗開店の準備金も吹き飛んでいたのだった。

 しかし良い買い物だったのは否定しない。

 この街出身の冒険者達は、意外と錬金術師が求める素材という物を理解しているので、状態がいいのだ。

 買取を拒否してきてリアナに突っかかってきた外様の冒険者をボコッてくれる程度には理解力も高い。

 危なかったね、もう少しでイリーナをつっかけるところだったよ。


「金策かぁ」


 クラスメート達といた頃は連中が取りに行って来てくれたし、足りない分はミリア様にお願いしたら騎士達を動かしてくれた。

 ジジイから提供される物もあったので、実はあんまり現金でお買い物をしていなかったのである。

 ミリア様は冒険者に依頼を掛けて回収している物もあると言っていたから支払いもしていたのであろうが、オレは知らない。


「なんか売るかなぁ……」


 正直気が乗らない。

 オレが持っている魔道具はどれもこれも、その時に必要だと思った物ばかりで汎用性の乏しい物ばかりだ。

 しかもデザインが日本的だ。中には日本語で書いたボタンを付けている物もあるくらい。

 先日、烈火に渡したような魔道具はあるが、安定して売りに出すとなると更に多くの素材が必要となる。


「ライトも、一緒に依頼受ける?」

「冒険者として? そもそも冒険者としての活動を冒険者ギルドがさせたくないんだから無理だろ」


 錬金術師は冒険者を使って素材回収をしろと言われている気がする。

 あれ? これおっさんに喧嘩売られてる?






「と、いうわけで売られた喧嘩を買いに来た」

「や、おいちょっと待て。イドリアルは汚いぞ!」

「そうか?」

「ご飯の為なら国も滅ぼす覚悟」

「「「 おいおいおいおいおい 」」」


 受付にいたおっさんに(イドを使って)お話し合いを申し込む。


「待てって、この通知はジブラータル卿の所からの通知だ!」

「あ? なんでギルドが国の貴族の命令聞いてんだ? お前ら中立じゃねえのか?」


 冒険者ギルドは税金こそ納めているが、その実態は国に属していない。

 冒険者がある程度自由に動けるようにするために、国や教会といった組織とは協力関係にあるが対等な関係性であるのだ。


「はあ、引っ越すか。工房はすぐに畳めるし」


 貴族と争うのも面倒だ。


「はあ? おい、ちょっと待てよ!」

「仕方ない、ついていく」

「イドリアルも待てっ!」

「わたしは自由な女」


 フリーダムな女なのは間違いないと思う。


「ここのところ、お前さんの所に金が溜まりこみ過ぎだから吐き出させろってお達しが来たんだ」

「うんうん」

「ギルド内で販売しているハイポーションの利益は全部お前に還元されるし、解毒剤から一般人への薬の販売に、怪我人の治療費。それでいて自分にとって必要な素材は自分で回収にされちまうと、お前の懐の中にばっか金が溜まるじゃねえか! その金でお前、この街で買うのは食料品ぐらいなんだろ!? ジブラータル卿はこの街から現金が消えるのを防いでるんだよ!」

「それで、せっかくだから冒険者ギルドを通して金を使わせればギルドも儲かるし乗っかろうと?」

「そうだよ、はっ! 違う違う!」

「イド、ギルティ」

「お空の旅にご招待」

「どうせなら火薬も持たせて花火にしてしまおう」

「そうだな」

「いい案」

「ちょ、テメエ! なんか一人裏切り者が混じってるぞ! 気づけ!」


 おっさんの首根っこをイドが掴んだところで、スピードリーから素敵な提案が出たので飲んだのだが、おっさんから待ったがかかった。


「久しぶり、スピードリー」

「お久しぶりですライトさん、打ち合わせの時以来ですね」

「ああ、あれ? 今回の件、もしかしてお前も噛んでる?」

「主犯の一人だ!」

「失礼な。ただの共犯者ですよ」

「ギルティ追加で」

「ん、腕は2本ある」

「ぎゃー! 助けて下さい! まだ死にたくないー!!」

「待て待て、簡単に持ち上げんな! このっ! 元Sランク冒険者を舐めんなよ!」

「えるふぱわー」

「「 ギャーーーーー!! 」」


 イドリアルに引きずられて、入り口へと運ばれていくギルドマスターと元ギルドマスター。

 冒険者の皆様は道をあけつつも、優しい目をしてそれらを見送るのであった。

 あれこそが諦めの境地。素晴らしい連携である。






 お空の旅(物理)を楽しんだ二人を見送ったのだが、思いのほか早く帰って来たので、今度は普通の話し合いをすることに。


「いや、そもそもですね? こちらとしてもこんなに物凄い速度で依頼を掛けて来るとは思っていなかったんですよ。街の南の錬金術師の店と違って、ライトさんのお店は繁盛しすぎな上にこちらはハイポーションまで卸して貰ってるんですから、蓄えは相当あるのは分かっていたんです。しかし、ライトロードさんの希望する素材を持って行っても、別に新しい物が店頭に並ぶわけじゃないらしいじゃないですか。そりゃそちらの資金が目減りするのも当然でしょう?」

「そもそもオレは錬金術師として研究をするためにここに居を構えているんだよ。ソフィア様の紹介でこの街に来たのは、この辺りで獲れる素材がオレの研究に合ってるからなんだ。回収出来る素材は回収するのが当たり前だろ」


 元々、生命に関する素材がこの地域では多く入手できるとジジイに聞いたからここに来たのだ。

 オレは本来の目的の為にお金を使ったのだ。散財しているわけではない。


「いきなり増やし過ぎだと言ってるんですよ! なんですかこの依頼書の束は!」

「だって欲しかったんだもん」


 オレにはダンジョンが宝の山に見えたんだもん。


「それで金が減るのは当たり前でしょう! こちらとしては冒険者達にライトさんの依頼を最優先でやらせてたんですから!」


 ああ、だから素材の集まりが良かったのか。


「金が減るのは当たり前だが、オレのダンジョン入りを拒むのは話が別じゃないか? オレだって自分で獲れるなら獲る、そうなればそんなに依頼をかける必要なんかないんだ。別に冒険者ギルドに依頼をかけてなくても、自分の店に掲示板作って買取するだけでもいいんだが、わざわざお前さんたちの所を通してやってるのはこっちだぞ? 手数料かかるのに」


 クリスがやってる方法だ。

 冒険者ギルドに通すと手数料がかかるが確実に持ってきてくれる、それに対して店頭で応募を貼っておく場合、誰がいつ持ってきてくれるか分からないが手数料がかからない分安く済む。


「むぐ、そう言われると」

「オレの店の大半の客が冒険者だな。リアナとセーナとイリーナの口から冒険者共にお願いさせたらイチコロだぞ?」


 可愛い可愛いメイドさんからのお願いだ。破壊力抜群である。


「そ、それに先日の火竜の討伐だってそうです! わざわざ危険な場所に身を投じるなんて!」

「烈火の連中には悪いが、あの程度で命の危機は感じんよ。あいつらには道案内の役目くらいしか期待してなかった。あの連中に頼んだのはおっさんからの紹介だったからだ」


 ミーアちゃんの一件もあって、そこそこ信頼はしていたからな。


「それでも危険なんですよ! 普通の火竜じゃないんですよ!? 怒ってる状態の火竜です! 大体最前線で戦う錬金術師なんて、錬金術師なんて……」

「有名人がいるなぁ」

「うう、先々代領主様……」


 ジジイ様はとても元気に最前線で爆弾を投げるタイプの錬金術師である。


「とりあえずだ。吐き出し過ぎて金が足りなくなってきたからこういう嫌がらせはやめてくれ。それとなんかオレに依頼を流せ」

「なんでそういう話になるのかなぁ!?」

「お前らはオレから依頼を引き出しておきたいんだろ? それで街の冒険者連中に仕事として回したいと」

「あ、ああ」

「それでいて、危険な場所での採取をオレにはいかせたくないんだろ?」

「その通り、です」

「じゃあお前らに依頼を出す為にオレは金を作らないといけないから依頼をしろよ」

「なんなんですかこの人はー!!」


 そんな文句言われても、お金がないと依頼がかけられないんじゃしょうがない。


「それとオレみたいな錬金術師としての知識が無いと採取出来ないようなものは自分でいくからな? そういうのは邪魔するなよ?」

「せ、せめて護衛依頼を」

「イドより強けりゃ考えてやろう」


 月齢樹の樹液の様に取り出す時に魔道具を使う必要があったりタイミングを知らないといけない物だったり、そういう素材もあるのだ。

 それとは別に、ギルフォード卿の所にも顔を出さないといけないかな。

星になれ(物理)

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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