53 ダンジョンへ行く錬金術師⑧
街に無事戻り、冒険者ギルドで残ったままだった烈火眼回収依頼にストップをかける。
自分で獲ってきたので、烈火に護衛依頼の料金を支払って終了だ。
辟易とした表情のおっさんが印象的だった。
「とは言うものの、今回の本当の目的は火竜の烈火眼じゃないんだよなー」
そんな事を呟きながら、本日回収してきた烈火眼の錬成に入る。
オレが保持している魔道具のエネルギー源にする為の加工だ。
魔道具の中には魔力だけでは動かない物も多い。特別な能力を付与された物などは特にだ。
「そうなのね」
そんな工房に初めて顔を出しているのがエルフのイドさんだ。
武器の製作の依頼を受けるとは言った物の、そういえば工房で作業している所を見た事が無いと言っていたので見学にきた。
見るのはいいけど、勝手にモノを触るんじゃねえぞ?
今から行う錬成はデリケートなものだ。イドの魔力が錬成の阻害になるといけない。
魔力を完全に封じる手枷を嵌める事を条件に出したら、あっさり了承したのは驚いた。普通嫌がるものだから。
イドの細い手首の無骨な手枷に視線が行く。
「こんなものを付けられても、わたしは強い」
そうですね、エルフですものね。
「押し倒してみる?」
「NO!」
服をずらして肩を見せないでください。
「押し倒せ」
「舐めんな!」
「じゃあ押し倒す」
「出ていけ!」
「ん、大人しく見てる」
「そうしてください、本当に……」
疲れる。静かになったからオレの邪魔をする気はないようだ。
「さて、溶かす素材は今日はいい物が手に入った」
怒り状態の火竜の血液を大窯に流し込む。
見た目だけでいえばマグマのような素材だ、それだけで工房の中に熱気がこもる。
工房内は温度の操作がされているが、窯の近くはやはり熱い。
「暑い」
「だなぁ」
ハクオウの角は流石に勿体ないので、ハクオウの鱗を粉にしたものを中に流し込む。様々な素材をつなぎ合わせるのには、ハクオウの角が一番いいが今回は同じ竜種の素材が中心の錬成だ。相性は悪くない。
「すごい力を感じる」
「あのハクオウの鱗だからな」
「納得」
続いて入れるのは世界樹の葉を半分ほどすりつぶしたもの。某ゲームのようにこれで人が蘇生出来れば良かったのに、そんな効能は無い。
「世界樹の……」
「見ただけで分かるか」
コクリとイドが頷く。
世界樹は太くてデカイ。山の様な木だ、葉もかなり大きい。
蘇生は出来ないが、素材からエネルギーの抽出に役立つ。
それらを入れて、かき混ぜる。
「すごい汗、手伝う?」
「いや、魔力を込めて混ぜてるんだ。人には任せられないし、そもそも暑いだけ」
今回は溶けるのが早いからそんなに長時間混ぜる必要もない。
手袋を嵌めて、一抱えもあるような火竜の烈火眼を持ち上げて窯にゆっくりと落とす。
手袋には火耐性がしっかりついてるので手に熱は感じない。
顔は熱いけど。
「ふー」
中の液体がはねると危ないので慎重にいれる、火の水溶液を周りに流し込んだあと、烈火眼の上から炎象という火山に住む象の胃液を掛ける。
「すごい、すぐに崩れていく」
「炎象は熱された石や岩を好んで食べる魔物だ。こいつの胃液は温度の高い物を溶かすのに適している」
魔力を込めてまぜ棒でかき混ぜるだけでは、液体に溶けていかない素材も多い。そういった素材を溶かす為の工夫である。
ちなみに第一章に名前だけ出て来たポーション用の溶解粉も同じ部類の物である。
錬成する素材に合わせて、こういった補助を目的とした素材を使う場合は相性も大事だ。この補助を目的とした素材が、目的の物を作るのに邪魔になってはいけない。
炎象の胃液も、入れすぎると素材の良さを失わせてしまう事があるので余り多くは投入出来ない。
お玉(耐熱)で周りの液体を崩れた目玉にかけながら溶けるのをゆっくりと待つ。
「ブクブクし始めた」
「錬成反応って奴だ」
火竜の血の中で今まで投入してきた素材が一つになり、新たな物へと生まれ変わる瞬間だ。
反応が終わり、液体の波が収まるのを確認するとお玉でコップに移し替える。
「綺麗、これは何?」
「魔道具の燃料だな。名前は特にない」
「じゃあつけよう」
「燃料でいいと思うが……」
「これだけの物に名前が無い方がおかしい」
この世界、石油や石炭などの化石燃料が認識されていない。石炭はともかく、石油はそもそも見た事無いし。
液体を燃料とした物がそもそも存在していないのだ。
燃料といえば薪だ。
「とはいってもなぁ、イド考えてよ」
「そんなおこがましいこと、出来る訳ない」
「そうかなぁ」
オレしか使わない物だからなんとも。
「じゃあ火の錬成液でいいや」
「それでいいの?」
「うん。似たような目的で水や雷もあるから」
「ライトがそれでいいなら、いいけど」
眉を顰めないで欲しい。
「それで、それは何をする物なの?」
「魔道具の燃料だよ。今回は探してる物があるからそれで使うんだ」
「見たい」
「いいよ?」
まず机に以前錬成した魔道具『失せ物の羅針盤』と呼んでる手のひらサイズのドラ〇ンレーダーのような形の物を置きます。
CDドライブのように側面がスライドするので、スライドさせた器に今作った火の錬成液を流し込みます。
少し溢したので机を拭きます。てへ。
スライドさせた器を再び戻します。
「これで羅針盤を起動させて、上のボタンを押すと光が出るのでその光で探し物と同じものスキャンして」
「スキャン?」
「覚えさせるって理解でいいかな。この魔道具、精度はいいんだけど前もってスキャンさせた物しか探せないんだよな」
自分の持っていない物や、過去に入手したことのない物は探せない。
1個だけ持っていたマグマ鳥の卵を取り出してスキャンする。
スイッチ部分はダイヤルにもなっているので、ダイヤルでスキャンモードにするのだ。
「ダイヤルを左に回してボタンを押せば、スキャンした物がどの方向にあるかと大まかな距離が出るよ」
「反応しない?」
「この工房は外から影響を受けない様に強固な結界で守られているんだ。外に行かないと反応しないよ」
「じゃあ外いこう」
「や、外に出ても近くになければ反応は……」
イドが羅針盤を手に持ち、工房の外に出る。
「マスター、イド様をお縛りになられて遊ばれていたのですか?」
「リアナさん! 怖いですよっ! イド! イドー!!」
手枷嵌めたままだったさ。




