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52 ダンジョンへ行く錬金術師⑦

「オーダー通りだ! 店長さん!」

「よし! 下がってくれ!」


 そう、本来であればケイブさん達はこの戦い方で翼ではなく首を落としていた。

 しかし今回は怒らせる必要がある。

 そして怒らせている時に警戒しなければならないのが、空中に飛び上がられてこちらから決定打を与える事が出来ない場所から攻撃されることだ。

 通常時の火竜であれば、空を飛びあがられてもこちらから攻撃を仕掛けることが十分できるが、怒り状態では鱗の強度も段違いに上がる為、イドクラスの上位の存在でないとダメージを与える事が出来なくなってしまう。

 イリーナも空中戦を物にしつつあるが、初見の魔物相手に自分にとって不利になる状況下でわざわざ戦わせるつもりはない。


「さて、それじゃあ怒らせないとな」

「はい、ご主人様」


 セーナが普段とは違う、特別製の矢を弓にあてがい放つ!

 この矢にはたっぷりと興奮剤が塗ってある。

 翼を失い、足を凍らされた状態だ。戦意が失われる可能性もあった。


「ふっ!」


 セーナの放った矢が、火竜の首筋に深々と刺さる。


『ギャウ! ガウ! ギャーーーウ!!』


 翼を失った痛みと、比較的柔らかい位置に突き刺さった矢の痛み、そして強力な興奮剤。

 火竜の瞳が真紅に染まると同時に、体から熱気が迸り始めた。


『GRAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 今までにない、熱気の籠った咆哮が戦場を支配した。

 その衝撃に下がろうとしていたケイブが吹き飛ばされる。

 炎のダメージはカットできる魔道具では、咆哮による音の衝撃は防げない。


『GRAAAAAAAAAA!!』


 なおも咆哮をし、体の熱気を溜め込んでいく火竜。

 その衝撃に、足止めをしてくれていた氷が解け始め激しく振動しヒビが入っていく。


「天魔の杖っ! 解放っ! 凍てつく世界の覇者たる蛇よ! その力を我が敵に示せ! フロストスネーク!!」


 オレの作った天魔の杖、それはオレの放つ魔法を増幅させるものだ。

 オレ自身が使える魔法の種類はそう多くない。

 攻撃魔法を得意とした大魔導士の海東と比べると、威力も低いし精度も悪い。

 それを補うのが天魔の杖。

 使用する魔法の属性に合わせて特別に加工した魔石を、自分自身の魔力回路の一つとして魔法を発動させる。

 その威力は普通の魔法使いの使う魔法の威力を遥かに凌駕する威力だ。

 先ほど放ったフロストスネークは、火竜を殺さない様に加減をした足止め用の通常の威力の魔法だ。

 今回の氷の蛇の規模は、火竜の全身をそのまま締め上げることが出来るほどの高い威力。


「締め上げろ!」


 声もなく地面を這いずる大蛇、その存在に火竜は気づくと、口から強烈な炎のブレスを吐き出した。

 今までの火竜の火力とはケタが違う炎。

 その炎を全身で受けるも、氷の蛇は体表の氷の一かけらも溶けることなく火竜にたどり着き、足元から素早く全身を締め上げた。


「イリーナッ!」

「はあああああああああああ!!」


 イリーナの小さな手が持つ大きな剣が光り輝き、ありえない程の大きさの魔力の刃を纏わせる。

 そして身動きを封じられ、頭を垂れた火竜の首を真横から一刀両断した。

 先ほどの炎のブレスでは輝きを失う事の無かった氷の蛇の体と共に。

 火竜は最後に咆哮を上げることも出来ず、その命を奪われる結果となった。






「あるじぃ! 持って来た!」


 角を掴んで火竜の頭部をひきずって、イリーナがオレの所に走って来た。


「ああ。良くやったぞ、イリーナ」

「ふふーん」

「セーナも、烈火のメンバーも助かった」

「あ、ああ」

「あたしら、必要だったかい?」

「店長強かったんだな」

「そ、その杖は購入可能なのだろうか!?」


 若干一名、杖の性能に気づいたらしい。まあ先端の派手な飾りと魔石がスーパー光ってたからね。

 そんなのを無視しつつ、火竜の顔を覗きこんだ。


「うん。綺麗な赤だ」


 オレは手袋を付けて、短剣を手提げから取り出して瞼を切り落としその巨大な瞳を引っ張り出す。


「うへぇ、まだかなり熱いなぁ」


 飛び出した目玉を視神経から切り離して、予め用意しておいたクーラーボックスもどきに入れて再び手提げにしまう。

 両目ともこの作業を行うのだ。

 そしてこの作業は早ければ早いほど良い。


「セーナ、イリーナと火竜を血抜きしてきて。血も回収ね」


 怒り状態の火竜の血は常に高温を保った錬金素材だ。


「はい、お任せください」

「それと烈火のメンバー、報酬とは別に背中の鱗を何枚かあげるよ。普通の火竜の鱗より硬い状態だから装備にしてくれ」

「いいのか!?」

「ああ、腕のいい鍛冶師ならば加工できるだろう」

「助かる!」


 肉は食えるし、爪や牙や角は武器に。鱗や被膜は鎧やローブの素材になる。

 目玉もそうだが心臓やら胃袋やらは錬金素材としても優秀だ。

 ドラゴンに捨てるところ無し。

 大きな金属製の樽に血液を詰め込んで、血の出にくくなった箇所から細かく解体。

 魔法の手提げがあれば、大半の素材は持ち帰る事が可能なのだ。


「魔法の袋いいなぁ」

「烈火なら買えるだろ?」


 魔法の袋はBランク以下の冒険者には売ってはいけない決まりがあるが、Aランクの烈火なら購入可能だ。


「容量の小さいのならあるが、大きいのは高いからな。しかも火竜の素材となると、安物じゃあ仕舞えないし」

「それもそうだな」


 ミーアちゃんの親父さんは薬が中心で、武器も芯の部分しか作品を知らない。ミーアちゃんも持ってなかったし、作っていなかったんだろうか?

 クリスは作れそうだけど、この辺で手に入る素材じゃいい物は作れないだろう。ダンジョンの下の階層にいけば分からないけど。


「ま、言ってくれりゃ作るよ。耐火用の魔法の袋は高いけどな」

「むう、考え物だ」


 話しながら、素材になる部分をドンドコ魔法の手提げに吸い込ませる。


「取りあえず帰ろうか。帰還の渦はもう出てるし」

「わかった。街に戻るまでが護衛依頼だからな。最後までやらせてもらうよ」

「必要なさそうだけどな」


 4人の視線がイリーナに向かう。

 まあ派手な立ち回りさせたからね。

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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