49 ダンジョンへ行く錬金術師④
「壁の外には来ましたけど」
「もうちょっと離れようか。ここは出入りしている人がいるし」
ダンジョンからの帰りなのだろう。冒険者が多くいた。
おっさんやAランクのパーティにオレとイリーナもいるものだから、奇異の視線を感じる。
「さて、この辺でいいかな。ズンバラ君7号を出してと」
先日ハクオウに踏まれた6号はお亡くなりになったので7号だ。
彼を地面に固定する。
「カブラさん、起動させてその藁人形の首にかけてあげて」
「起動?」
「その炎の石を手に持って、石が赤く輝くまで魔力を込めて」
「ああ、わかった。あれ? 全然魔力食わないんだな」
すぐに動き出したようだ。しばらく使ってなかったが問題ないらしい。
「魔力があまりない人でも使えるようになってるからね」
「それは便利だな。でもその分不安だが」
ズンバラ君7号の首にネックレスがかけられたので、準備完了だ。
「火系の魔法使える?」
「もちろん、『フレアランス!』」
察してくれたジャックさんが炎の魔法を放ってくれた。
強い炎のエネルギーを収束させて槍状にして放つフレアランスだ。
中々の高威力。
身動き出来ぬズンバラ君7号に、フレアランスが到達する直前に薄いバリアの様な物が7号を包んで炎のダメージから守ってくれる。
地面は焼け焦げているが、7号は無傷だ。
「「「 おおー 」」」
「いや、私の炎の魔法では火力が火竜よりも低いはずだ」
「ブレスより圧縮されてる分、瞬間火力は高いと思うけど。まあいいか」
オレも魔法の杖を取り出して、魔石を炎の魔石に変更する。
「店長さんも魔法が?」
「道具ありきだけどね」
杖の先を7号に向けて、杖に魔力を流し込む。
「『大火球』」
杖の先より人も呑み込めそうな炎の球を生み出し、7号に射出する。
再び7号の前に薄い膜が生まれ、オレの大火球を防ぐ。
直後、7号の周りが大爆発をおこす。
「ぶはっ!」
「あちっ! あっち!」
「バカかライトッ!」
「ありゃ、ちょっと近すぎたか?」
オレはローブを着ているが、残りのみんなは普段着だ。
オレの起こした炎の魔法の熱がこちらに伝わってくるので、みんな大慌てで下がる。
「あるじすごい!」
「ありがとう」
ちなみにイリーナのメイド服もオレのローブ同様全属性に耐性を持つ素材でできている。
色合いの関係上、最高品質の物ではないが。
オレの魔法の直撃を受けて、先ほどよりも地面が抉れて一部は炭化し一部はガラスと化している。そんな中、7号とその周りだけは無事だ。地面の雑草まで残っている。
「どう? 欲しくない?」
「「「 めっちゃ欲しい! 」」」
「じゃあ依頼、受けてくれる?」
「「「 受けますっ! 」」」
「ありがとう」
「むう、こりゃあ。規定には背かないが、いいのか?」
「何事だ! 今の爆発音は!!」
壁の警備をしていた兵隊が隊列を組んで走ってきた。
この後、めっちゃ怒られた。
「ここがダンジョンか、知らないと遺跡にしか見えないな」
「そうだろうな。まあ冒険者でにぎわっているから一目見れば一発だけどな」
「おおきいです~」
カブラさん達の案内の元、街から半日も離れてない地点にあるダンジョンに到着。
カブラさん達4人と、オレ、セーナ、イリーナの7人パーティだ。
「またかわったかっこうの人がいるです」
「見ちゃいけません」
露出度の高いビキニアーマーな人がいますが気にしてはいけません。
「店主殿!」
「お、おう。ケーシー、お前もダンジョンか」
「ああ! 店主殿の依頼あっただろ? 私も挑戦しようかと思ってな!」
「え? 一人で?」
「もちろんだ! とはいえ、火竜は怒らせる前しか倒したこと無いけどな」
「一人で狩れるんかー。あれ? この人Bランクじゃなかったっけ……」
「店主殿の武器と、ゲオルグ様の防具のおかげだな!」
「ちなみに、烈火眼を入れるケースか何か用意してるのか?」
「え?」
「真紅に染まった火竜の瞳は、そのまま持ち出すと魔力が逃げるから専用のケースや魔法の袋がないと持ち帰れないぞ。というか魔力が逃げて色が元に戻ってしまう」
「そうなのか!?」
「知らんのかい」
「すまぬ……」
ケーシーが項垂れる。
「あとお前の剣、火属性だけど?」
「それは大丈夫だ! 属性を乗せなくても強化するだけで奴の鱗はスパスパ切れた!」
なんかすごい人になってたらしい。
「とりあえず、怒り状態でも倒せるかだけ確認してくる!」
「おー、死ぬなよー」
ケーシーが一人でダンジョンに潜っていくのを見送る。
「マジか、確かにゲオルグ様の作られた装備があれば一人でも……」
「そう簡単な物じゃないのはあたしたちが良く知ってるでしょ? 実力が違うのよ」
「確かに、我等よりも若くて我等より強い者は多い」
「自分達も店長殿の魔道具があるではないか!」
護衛の人たちの鼻息が荒い。
「とりあえず入ろうか?」
「ああ、受付してくる」
受付なんかあるんだ。
「店主殿とお付きのお二人は冒険者ギルドの会員証をお持ちで? というかその子を本当に連れていくんですか?」
「オレはあるけど2人は無いな」
イリーナに関しては個人を証明するものを何も持っていないし。
「そうですか、まあ貴族が道楽で子供と一緒に入る方もいますけど……浅い階層ですが」
「イリーナはオレより強いから問題ないよ。戦闘経験も積ませたいんだ」
戦闘能力という点だけでいえば、セーナよりも。
「イリーナ、がんばりますっ!」
「ちなみに、今まで戦闘は?」
「ゴブリンと戦ったくらいかなぁ」
数の桁が違うけど。
「その歳でゴブリンを倒せるのは、確かにすごいけど……」
「護衛任務だからそういう物だろ、割り切れ」
「ああ、そうだな」
4人が表情を引き締める。
さあ、楽しいダンジョン探索の始まりだ。
ようやくたどり着いたっ!




