04 街に降り立つ錬金術師④
「あれだな。寝不足&魔力欠乏症のダブルパンチだな」
ミーアと呼ばれた子が倒れたので、錬金術師であるオレが診ることに。
患者に必要な薬を錬成するには、患者の症状をしっかりと把握しなければならない。間違った薬を処方する訳にはいかないからだ。
「大丈夫なの?」
「取りあえず、休ませるしかないな。起きてくれなきゃ薬も飲ませられない」
「そう、ありがとう。ライトロードさん」
「ライトでいいよ、長いし」
偽名だし。
「でも、こんなになるまで頑張ってたなんて」
「さっきポーションを飲んで分かったが」
「うん?」
「苦すぎる。生成過程で何か間違ってるんじゃないかな、それを誤魔化す為に多めに魔力を錬成時に注ぎこんでるんだろう。だから大量に薬草を消費しなければならないし時間もかかる」
「そうなのか?」
「ああ、使ってる薬草はホジョル草だろ? 薬草の使用量が多いせいか、普通のよりも苦みがきつい」
「そうだったのか……回復量に不満は出てないから気にも留めなかったな」
「回復量がしっかりしてるのは、その分薬草を大量に消費してるからだろうな。一度に多く使って無理矢理圧縮すればごまかしが効く」
「う、うう」
「ミーアちゃん!」
「ここは……」
「あなた、倒れたのよ? ダメじゃない、無茶をしちゃ」
「ごめんなさい」
「いや、無理をさせてたのは俺達大人だな。ポーションが足りないってのを見せてたから」
「そう、ですね」
「とりあえずだ」
反省会は後にして欲しい。
「これを舐めて。噛まないで、口の中で舐めるだけ」
オレは青い飴を取り出した。
「これは?」
「甘いお菓子だよ。疲れているときには甘い物が一番だ」
「そんな、おかしだなんてたかきゅむぐ」
問答無用で口に押し込んでみた。
「~~~!」
目を見開いている。
魔力も微量回復する葡萄味のマナドロップだ。魔力回復薬と違い急速に魔力を回復する物ではない。
小さなこの体では急速な魔力の回復は体に毒だ。ゆっくり回復させる方がいい。
「おいひいでふ」
「そりゃよかった。気分も楽になったでしょ」
「はい!」
可愛い笑顔で返事なんかするもんだから頭を撫でたくなる。
撫でよう。
「あう」
「さて、小さな錬金術師さん」
「はい?」
「このままじゃ、あのポーションで死人が出るから作るのやめよっか」
「ぇ……」
「ちょ!」
「おいっ!」
あのポーションは、ダメだ。
「ホジョル草は普通にサラダにしたり、香辛料に出来るのは知ってる?」
「はい、お父さんにおしえてもらいました」
「その時に、何か注意された?」
「えっと、食べてしたがピリピリする人は食べちゃダメって」
「それはアレルギーっていう病気なんだ。体にブツブツが出来たり、熱が出たりするんだ」
「病気……」
「元気な人でも、それを食べたりしたら体調を突然崩すんだ。今まではたまたまそういう人が飲まなかったから大丈夫だったけど、もしそういう人が戦闘中にそんなポーションを飲んだら……」
「っ!」
「怖い魔物の前で突然体調が崩れたら、場合によっては人が殺される」
「おいっ!」
「たぶんこの街では、昔はポーションは腕のいい錬金術師しか作ってなかったんじゃないかな」
「それは、そうだが」
「抽出が甘いとそういう症状が出るんだ。だからしっかりと抽出が出来る人間以外作ってこなかった、と推測が出来る」
「そんな……」
ミーアちゃんの瞳に涙が浮かぶ。
「でも、あたしお父さんがやってたとおりに」
「お父さんの道具を使って?」
「もちろんです!」
「それが原因だなぁ」
「なんでですか! お父さんは! お父さんだったら!」
「お父さんじゃなくて、ミーアちゃんが悪い」
「てめぇ!」
「これは錬金術師同士の会話だ。素人は口を挟まないでくれ」
オレの錬金術師という言葉にミーアちゃんが反応を示す。
「でも、お父さんが作っていたのと同じ色で……かいふくも……」
「それが出来ちゃうのがすごいことだけど、だから問題なんだよなぁ」
並の子供の技術と魔力じゃない。ポーションといっても製作するにはそれなりの労力がかかる。
「回復出来ればポーションだと思った? でも人によっては毒だ。毒を作り薬と称して売る錬金術師なんか、暗殺者よりタチが悪い」
「うう、うううううう」
「ミーアちゃんは、出来ると思ってやったんだよね? でもミーアちゃんは子供なんだから、大人に聞かないとダメだよ? 悪い事をしたらお父さんが叱ってくれたでしょ?」
「はいぃぃ」
「今は叱ってくれる人がいないんだから、分からない事は聞かないと。お父さんと同じことしても、お父さんと同じポーションにならなかったから薬草を一杯使ってお父さんと同じ色のポーションになるように工夫したんだよね」
「です……ぐすっ」
オレはカテジナさんに視線を向ける、カテジナさんは目を見開いた後、頷いてミーアを後ろから抱きしめた。
「でもそれが正しいとは限らない。だから、自分の工夫が合ってるか大人に聞かないと」
コクコク、とカテジナさんの胸の中でミーアが顔を上下させた。
「わがりまぢだ」
「とりあえず、今日はゆっくり休むこと。ポーションは作らないように」
「あい」
言う事もいったし、オレは帰る事にする。
これ以上は、この子の保護者達の仕事だからだ。
ミーアちゃんの診断をしたあと、一人で扉からでたら冒険者や職員に囲まれた。
スーパー怖かった。
みんなミーアちゃんの事を心配してたようだ。
いい人が多すぎる。
とりあえず、診断の結果休めば問題無い旨伝えた。
病気じゃないと聞いたら安心して腰を抜かす輩もいたくらいだ。
お礼に奢るとか言われたけど、休ませたのはカテジナさんとおっさんの二人だ。はたから見ればオレは飴をあげただけだから実質何もやってない。
執事さんに手配してもらった宿に帰って、ゆっくり休んだ。
んで翌日。
「おねがいします! おししょーさま!」
「頼むよ、ライト」
「お願い、ライトさん」
「「「 お願いします! 」」」
ああ、うん。大人に聞けって言ったのはオレだもんね。
教えます、教えますから。
とりあえず朝食を一人で食べさせて。
3人ならまだしも、後ろの冒険者達いらないだろ。
他のお客さんにも迷惑だよ。