41 錬金術師と新しい従者⑧
『み~~ち~~な~~が~~!!』
「うっさいなぁ」
相変わらず馬鹿でかい図体と声である。
なんかいつもより小汚い。
強風を生み出しながら、オレ達の前に降下してくる。
巨大な竜が勢いよく地面に降りると共に、ズンバラ君6号が犠牲になった。
6ごおおーーーーーう!
それを無視する勢いでハクオウは、体が強く発光すると人間の姿を取った。
「道長! 助けてくれ!」
「突然どうした! なんで女の姿だ!? また全裸か!!」
「男にお願いをする時は女の姿が効果的だと栞に聞いてたのだ!」
「あいつの言う事を真面目に聞くんじゃありません」
手提げからバスタオルを取って投げつける。
「むう、我の扱いが悪くないか?」
「オレ、前にも服を着ろって注意したよな?」
「破りたくないと前にも言ったぞ?」
「着なくていい理由にはならん」
そんなオレとハクオウの会話に目を剥くイド。
「おう、りゅう?」
「ああ、お前はエルフだな?」
「イドリアルと、申します」
イドが膝を折り臣下の礼を取る。
「ああ、やめよやめよ。我に頭を下げる必要などない」
「ですが、あなたさまは王竜」
「構わぬよ、我の下には眷属だけいればよい。そもそもお主等は世界樹にしか忠誠を持たぬではないか」
「ですが……いえ、そこまでおっしゃるなら」
「こいつは王竜だが、友達だ。名前はハクオウ、ほらイリーナも怖がらなくていいよ」
「あるじぃ」
尻尾を股に挟んで怯えるイリーナを慰めてあげる。
「ほう、リアナとセーナの仲間か」
「ああ。イリーナだ、あまり脅かさないでやってくれ。イドも立っていいから」
「わかった」
確かにハクオウは強力な存在だが、話の分かる存在でもある。
一年近くもの間、何度となく顔を合わせた間柄。下手な人間より信用出来る。
「それより道長! 助けてくれ!」
「ああ、そういやなんか言ってたな。どうした?」
「我の湯が穢されたのだ!」
「我の湯?」
そういえば温泉にいくってオーガから聞いたな。
「ああ! ここから南西に1日ほど飛んだ場所に大きな風呂があるのだ! 我の体が全部収まる程の巨大な風呂だぞ! すごいのだ!」
「お、おお?」
そんな規模の温泉、温泉? 確かにすごいが。
「だが我が湯を汚した連中がおる! いや、別に我以外がその湯を使う事に文句を言うてる訳ではないのだが、連中は身も清めずに大量に中に入りおるのじゃ! しかも注意したら今度は武器を投げてきおった!」
「そりゃあ命知らずな連中もいたもんだ」
知識のない魔物でも力の差が歴然の相手からは逃げるものなのに。
「で、腹立たしくなってな。尻尾でこう、こうな?」
「尻が見えるからやめなさい」
バスタオルが尻尾で浮いてるんだから。
「なんじゃ、男はこれが好きなんじゃろう?」
「いいから話の続きをしろ」
「ライト、まず見るのをやめる」
ごきっ!
「くびぃ!!」
痛いよイドさん!
「あるじぃ、えろぃ」
「まず心配して」
後ろを向いて首をコキコキ音をさせながら調整。あーいてぇ。
「まあ尻尾でやってやったらものの見事に散りおってな。血肉で更に湯が汚れてしもた。我慢して湯に浸かったが、鱗が汚れてしもうた。道長、なんとかするのじゃ」
「自業自得じゃねえか!」
「思ったより数が多かったのじゃ! ほれ、見てみい。人の姿でも薄汚れておる!」
「見せようとするんじゃありません!」
「王竜様、ライトを誘惑するのは良くない」
「こうすれば大抵の男は言う事を聞いてくれると栞が……」
「分かったから服を着ろっ!」
「汚れるから嫌じゃ」
「風呂入れ!」
「風呂は汚れてるのじゃ」
「じゃあ水浴びしてこい! 海あんだろ!」
「塩が鱗の隙間に残るでなぁ」
「じゃあ洗ってやるから竜に戻れ!」
全身水の魔法でずぶ濡れにしてやる!
「人の家の風呂は狭いのぅ」
「ここは元々居住性は高くないんだ」
クルストの街の工房に連れてくと、下手なタイミングで元の姿に戻られると色々大変な事になるので転移用の家で風呂に入れる事にする。
ここは元々リアナとセーナ、あとたまにクラスメート達が使っていた隠れ家だ。風呂くらいある。
リアナかセーナを呼ぼうとも思ったが、ハクオウの前で向こうの扉を開きたくない。
絶対について来ようとするから。
早めに慣れた方がいいと思い、イリーナにお願いする。
イリーナの体にはハクオウの素材がいくつか使われている。ハクオウもそれを感じ取り、イリーナを可愛がってくれた。
イリーナがハクオウを洗ってくれたので今はリビングでくつろいでいる。
お風呂に一緒に入って気を許したのか、今はソファで並んで座っている。流石にハクオウは服を着た。
「それで、どうするんだ? 竜の姿用の風呂は」
多分広めの湖か何かだろう。そうでなければハクオウが入れるはずがない。
「うむ、浄化を頼む」
「出来なかないけど、時間かかるぞ? 相当広いんだろ?」
「むう、しかしお主以外に出来そうな者に心当たりがない。お主を連れてこようと人族の国までわざわざ飛んだのじゃぞ?」
「え!?」
「引っ越すなら前もって言っておかぬか。気の利かぬ男よ」
「お前、どこに行ったって?」
「待て、頭を掴むな! 力を込めるな! 出ちゃう! 角がでちゃうのじゃ!」
ハクオウが空を飛んで王都にいったのか? 王都大混乱になったんじゃねえか?
「安心せい、手は出しておらんぞ! 話の分かる王がいてお主の不在を教えてくれたのじゃ」
「陛下に会ったのか!」
スーパー迷惑なヤツめ!
「痛い痛い! 出たのじゃ! 角が出たのじゃ!」
「お前、陛下に変な事言わなかったよな……」
「当然じゃ、このオーガの里の事など口にするわけあるまい」
「そっちは信用してるけどさ。オレは今あそこを離れてるんだ、こうやって髪も染めてるし」
「ぬ? おしゃれではないのか? 海東の馬鹿が言っておったぞ」
「変装だ」
「そういえば、異世界の人間達は黒髪黒目と聞いた」
「ああ、イドにも見せてなかったな」
オレは染めている髪を軽くいじる。
「全員黒? 兄弟姉妹?」
「そういう人種、種族なんだ。オレ達の学校は髪を染めるの禁止だったから、全員黒髪に黒目。まあ多少色の薄い奴やハーフで色が茶色いのもいたが」
あと信仰系の二人は金髪に変わってた。
こちらの世界に来ると、髪の色が変わる者が何人かいたのだ。
「まあ浄化石は何個か作っておくよ。それをその温泉、風呂に沈めればそのうち綺麗になるだろ」
「あの小さい連中がまだいたらどうするのじゃ」
「倒せよ、勝てるだろ」
「細かい敵は嫌いなのじゃ! 手伝え道長!」
「えー」
面倒だ。
「なんじゃ! また鱗やるのじゃ! 牙も生え変わった奴をくれてやるのじゃ!」
「やるっ!」
「なんでイドが返事をするかっ」
「王竜様の牙でわたしの剣を注文する」
「はぁ?」
「きっと最強」
イドの手にハクオウの素材で作った剣が収まったら……。
うん、鬼に金棒どころではない気がする。
「さて、道長行くか」
「行かねえよ! 浄化石の用意もいるだろ」
「むう」
「準備の時間をくれ。お前の頼みだ、手はちゃんと貸すから」
これで本当に単純な風呂掃除だったら笑える。
「ところで、どうやって行くんだ?」
「前に使った籠に乗るが良い、我が運んでやろう」
「うええ」
アレにはいい思い出が無い。いやな旅路になりそうだ。
後ろからペロンってしたい




