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40 錬金術師と新しい従者⑦

「はぁ、はぁ。やべ、全然勝てねぇ」

「ライト、運動不足」

「あるじ、いきあがってる」


 うん。馬鹿みたいに強い。

 影どころの騒ぎじゃない。そもそも速度のレベルが違う。

 出ちゃいけない範囲をちゃんと決めていたのだがかすりもしない。

 オレが半歩踏み出す時には10mくらい離れてた、君たち遊びって知ってる?


「遊びに、本気」

「あそびに、まじめ!」

「無理。とりあえず二人でやっててくれ」


 疲れたから椅子を出して休憩だ。

 そもそもオレは動かなくてもいいじゃん。イリーナの体慣らしなんだし。

 オレが鬼になるとなんかイジメみたいな雰囲気になるから、イド対イリーナに移行。

 黒い髪が金色に変化する宇宙人が出てくるバトル漫画みたいなノリで二人の体が入れ替わり交差し、範囲内をあちこち移動する。

 イリーナがギアを上げた為、イドもそれに合わせて更に速度を上げる。二人とも魔力で体の強化を行い始めたのだ。

 今まで素の身体能力であれだったの?

 二人の速度に風が巻き起こり竜巻が生まれる。

 影踏みってなんだっけ?


「ん、良くなってきた」

「もっとはやく、うごけるの」

「無理しないでいいぞ」


 イリーナの体はまだ成長するはずだ。今の体で動けるようになっても、大きさが変わったら動きの修正をしなければならなくなる。


「でも、もう飽きて来た」

「ふたりですし」

「オレに期待しないで欲しい。そうだな、剣を試してみるか」


 オレは手提げから何本か小ぶりの剣を出す。

 それと藁人形(ズンバラ君6号)も。


「試してみるといい」

「どれがいいです?」

「グリップがどれも太い」

「あー、そうか」


 子供の手では持ちにくいか。

 いくつか作り直さないといけないかなぁ。


「りょうてでならもてます!」


 一番大きい剣を持って正面に構えるイリーナ。


「かるいしちいさいです」

「え? それで?」


 軽いのは分かるけど小さいの?


「てい」


 ズバン! と小気味いい音と共にズンバラ君6号が真っ二つになる。


「もっとおおきいのが、あうです?」

「合わないと思うけど」

「合わないと思う」


 でも本人が言うので手提げから追加で剣を取り出す。

 そんな事をしているうちにズンバラ君6号は再生。


「ちいさいです……」

「え? これでも?」


 仕方ないので、もはや大剣と言われる部類の武器を取り出す。


「これくらいがいいです!」

「ええ?」

「や、持てないだろ」

「でもしっくりです」


 剣聖のミリア様でもこんなの使ってないぞ? それ、3メートルくらいのサイズのゴーレム用の剣だぞ?


「てい」


 ズンバラ君6号が吹き飛ばされる。


「ていてい」


 直ったズンバラ君6号が更に吹き飛ばされる。


「てててい」


 更にズンバラ君6号がバラバラに飛んでいった。


「えええ?」

「合って、る」


 イドも目を丸くしている。


「ちょうどいいです」


 そんな事は無さそうだけどなぁ。


「このくらいのおおきさで……」


 そう言いながら、大剣の握り部分を握力だけで潰して大きさを調整している。

 確かにゴーレム用の剣だからただの鉄製だけど、そんな粘土みたいに。


「魔力を握りに流している」

「ああ、なるほどね」


 元々ホムンクルスだから人間以上の握力があるのは知っているけど、もう魔力も扱えるようになったか。


「影踏みをしてる時から、使っていた」

「肉体強化使ってたな」

「それだけじゃない」

「そうなの?」

「まだ確証はない、けど」

「けど?」

「ん」


 顎でイドが指す先には剣に魔力を込めて斬り下しを試すイリーナ。

 ズンバラ君6号が地面ごと切り裂かれている。


「魔力が逃げてる、もっと凝縮させるべき」

「こうです?」

「違う、こう」


 イドがイリーナから剣をとりあげ、目の前でその剣を振り下ろす。

 先ほどと同じようにズンバラ君6号が宙を舞うが、地面は切り裂かれていない。


「魔力を逃がさないのにはコツがある……ただ、ここまでやると」


 剣が崩れた。


「なるほどです」

「今の半分くらいが許容範囲」

「こりゃ何本か用意しといたほうがいいな」


 ゴーレム用の剣はまだあるから追加を出す。崩れた剣は回収だ、魔鋼鉄の素材にする。

 ……もう4、5本くらい崩してくれないかね? 君たち。






 ズンバラ君6号が何度もその命を散らしている間、オレは今度は二人で模擬戦が出来る様に木材で木刀を作る。

 ゴーレム用の剣のサイズで使えるような木剣を作れるサイズの木材がないから、仕方なく世界樹の板だ。

 そしてそんな剣と打ち合えるのは同じく世界樹製の木剣じゃないといけない。

 削り出すのが大変なんだよこれ。


「なんて非常識な物をっ」

「だって他にないんだもん」


 世界樹の枝の価値を知っているイドから非難の視線が飛んでくる。

 下手な素材で作ったら二人の力に耐えられない。世界樹ならば非常識な魔力耐性を持ってるから鉄の剣のように崩れる心配は無いし。


「もうちょっとその剣で遊んでて。それとイドの剣貸して、極力バランスを合わせる。重さは無理だけどね」

「ん」

「ついでに飲み物とご飯も持って来たから食べたけりゃどーぞ」

「是非に」

「イリーナは魔力をあげるから減ってきたらオレに声をかけて。あ、でもその前にイリーナの手を計らせて」

「あい!」


 元気な返事でよろしい。

 イリーナは握りが太い方が好みらしい。結局普通のゴーレム用の剣と同じようなサイズの剣になってしまった。

 本人の大きさが今後変わるだろうから、なんとなくその大きさを感じ取っているのだろう。

 模擬剣はとりあえずイリーナの希望のサイズより少し大きめに作成をする。


「相変わらず硬ったい」


 世界樹は普通の金属のノミや彫刻刀では削れない。

 魔力の通りがいいミスリルの軸にオリハルコンと呼ばれる非常識極まりない神界でしか取れない金属で作成したダイヤモンドカッター、この場合はオリハルコンカッターか? で加工を施す。

 地面に落ちる木片も後で回収だ。世界樹はこまかい欠片の一つ一つが貴重な素材なのだから。

 世界樹自体にも魔力を通すので、加工はそこそこしやすいが単純に硬い。

 普通の木材と違い割れる心配もないしね。


「うまうま」

「あるじ、まりょくぅ」

「おいで」

「あい」


 イドの食事タイムが始まっていた。

 リアナとセーナはマナポーションやエーテルで魔力の補充が出来るが、イリーナはまだ魔力が不安定だ。オレの魔力を直接注入する方がいい。


 ぺいっ、とイリーナは服を脱いでオレに抱き着いてきた。


「じとぅ」

「口に出さないで、お願いだから。あと直接肌に触れて魔力を通した方がいいんだ」

「それ、リアナとセーナにも?」

「た、たまに」

「じとじとぅ」

「あるじ?」

「はいはいはい」


 抱き着かれたまま、背中に手を当てて魔力を通す。


「ふあぅ」


 くすぐったそうな表情でオレの体の中で身じろぐ。

 このくらいでいいかな。


「イド、もうちょっとイリーナの相手を頼む。剣の扱いも問題ないなら剣を持って影踏みやって? 剣を使って」

「剣を使って……フェイクなんかも織り交ぜるって事?」

「そう」

「やってみる」


 ズンバラ君6号がいくら不死身とはいえ、そろそろ彼も限界だろう。いくら不死身とはいえ休ませてあげるべきだ。

 二人が影踏みに戻ったあと、しばらくしてから模擬剣が完成。

 二人に渡して、今度は打ち合いが始まった。

 イリーナはやはり剣聖の血が色濃く出ている。素手で影踏みをしている時よりも動きがいい。

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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