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38 錬金術師と新しい従者⑤

 本来、ホムンクルスは眠らない。

 生まれてすぐ、錬成で使った素材の魔力と、今後供給される主の魔力を統合させる瞬間だけ、半日ほど眠りにつく。

 いつまでも裸ではいられないので、オーガの里風の子供服をセーナが着せてあげる。

 なんで持ってるの?

 その間にオレは体調と魔力を整えて、生命の水溶液と筆を再び取る。


「寝てる間に、瞳を入れるかね」


 取り出したのは魔王の城で見張りをしていた、やはり名称不明の悪魔の魔物の眼球だ。

 リアナとセーナを作成した時には持っていなかった。

 稲荷火達が魔王城に突入した時、オレは姫様率いる騎士団に帯同し陽動を行っていたので、こういう名前のついていない魔物の素材というか死体をいくつか持っていた。

 魔王がいた異世界の悪魔だ。向こうが名乗ってくれない場合、新しく名前を付けてあげないと一生名称不明になるのである。


「それは、すごい素材ですね」

「ああ、ミリア様が苦戦する程の相手だ」


 ミリア様は剣聖だ。彼女の剣は本来であれば見切れるものではない。

 その太刀筋を見極めて素早く回避し、更に広い視野でミリア様以外の攻撃にも反応していたスーパー悪魔。

 王国最強の剣聖に、王国騎士団の選抜隊、そしてエルフの混合チームを相手にして立ち回ってた悪魔、魔王と戦ったエルフの中には魔王より厄介な存在だと言っていた奴もいるくらいだ。

 見張りだけあって隠れて侵入しようとするたびに稲荷火達の行動も察知していたため、なかなか奇襲が成功しなかったのがこいつの仕業だった。

 小太郎や海東の分析だと魔眼なのではないかとの話、オレもその意見には同意見だ。

 魔王城での戦闘には参加しないはずだったオレが魔王城まで足を運んだ原因となった悪魔、こいつがいなければオレは元の世界に帰れたかも?

 まあタラレバか。


「さあ、仕上げだな」


 眠りについているこの子の顔に、生命の水溶液をインク代わりに再び筆を走らせる。

 先ほど核を入れた時と同じような形だ。

 魔法陣の種類も系統は同じ、内容が核ではなく瞳の同調を目的としている程度だ。

 オレの魔力量がもてば同時に進行する事も可能だったが、リアナの時に失敗しているので分けていれるようにしている。


「小さいわね」

「ふふ、セーナの時もそうだったわよ?」

「そうなの!?」

「ああ」


 眠っている間に魔力を同調させて緩やかに体の大きさを最適化させるのだ。

 リアナやセーナを作成した時にはこの段階で中学生くらいの大きさだった気がするが……なんだろうか? 使用した素材のレベルが高かったからか?


「すごい内包魔力ですね。私の倍以上ありそうです、セーナよりも多いかしら?」

「ほんとう!?」

「使用した素材の差だろうな。ハクオウの素材もそうだが、お前達を作ったのは世界樹に辿り着いてから手に入れた素材ばかりだ。魔王城で手に入れた悪魔の素材なんかも今回は使っているからお前達よりも性能は高くなるだろう」

「そうなんだ……」

「そうなの……」

「安心しろ、お前達とは違う役割を与える。こいつが出来てもオレにはお前達が必要だからな」

「マスター……」

「ご主人様!」

「わ、こら! 揺らすな! 筆がぶれる!」


 二人が後ろと横から抱き着いてきた!


「マスターは素敵です」

「ふん、今回だけなんだからね……でも嬉しい」

「分かったから。セーナ、魔法陣見てくれ」

「あ、はいはい」


 セーナが魔法陣の確認をして問題無しと言ってくれた。

 オレも確認するが、二人で確認した方が確実だ。

 ダブルチェック! ヨシ!!

 核を入れた時と同様に、目の窪みにそれぞれ書かれた魔法陣の中心に瞳を置く。

 上から魔力を込めると、瞳と文字が吸い込まれていき瞼が生まれた。

 自然と長いまつ毛も生えて来たので、完了である。


「さて、無事目を覚ましてくれよ」


 そう思いながら、長い時間この子が目覚めるのを待つ。

 リビングにでも行こうかなと思ったら二人に止められたので工房で。

 眺めていると、少しづつだが背も伸びていった。


「最初に目にするのはマスターのお姿であるべきですから」

「ちょっとは考えなさいよね?」


 とか言われた。なんかすいません。


「ふあ」


 小さな呟きと共に、瞳が開いた。

 何度か瞬きをしてこちらをその大きな紫色の瞳で見つめる。


「見えるか?」

「あるじっ!」

「おっと」


 小さな体が勢いよく飛び込んできた。軽い体だ、優しく抱き留めてあげる。


「おはよう、イリーナ」

「いりーな?」

「ああ、お前の名前だ。お前はイリーナ、オレの新しい従者、イリーナだ」

「いりーなはイリーナ、あるじのいりーな!」

「ああ、落ち着こうな。ちょっと力が強い」


 ミシミシとオレの体を締め付けているんだ。痛い。


「いりーな落ち着く」

「そうだ、いい子だ」


 イリーナの短い銀色の髪のある頭を撫でてあげる。


「リアナよ、あなたの姉です」

「セーナよ! イリーナのお姉ちゃんなんだから!」

「りあなとせーな」

「そしてオレが……光道長だ。ライトロードとも名乗っている」

「みちながさま! らいとろーどさま!」

「主でいいよ」

「あるじ!」


 瞳も完全に稼働しているようで、色彩の認識も出来ている。

 見た目はミーアちゃんより少し小さいくらいで止まってしまったが、これでこの子は完全に完成だ。

 こちらを見るイリーナの頭のキツネ耳がピクピク動き、同じく銀色のキツネの尻尾がゆらゆらしている。

 よろしく、イリーナ。






「おはよう」

「ああ、おはようイド」

「おはようございます」

「……誘拐?」

「違うわっ」


 オレがイリーナと手を繋いでリビングにいくと、イドが起きてきていた。


「イリーナ、同居人のエルフ、イドリアルだ。イドって呼んであげてくれ」

「よりしくおねがいします、いどさまっ」


 まだ舌が足りてない様子だ。


「? わたしはエルフ」

「えるふですか?」

「そう」


 イドは不思議そうな顔でイリーナの顔を覗き込み、膝を折って目線を合わせた。


「獣族……ホムンクルスね? リアナやセーナと一緒」

「ああ、そうだな」

「わたしはイド」

「いりーなです!」


 元気にイリーナが答えたので、そのイリーナのわきに手を入れて抱き上げた。


「わたしを怖がらない、可愛い」

「ああ、そういえばそうだな」


 人間や獣人は、昔の習慣のせいでエルフに畏怖の念を抱いている。子供の躾に『エルフに攫われるぞ!』って使われるくらいに。


「かわいい」

「え、えっと」

「わたしの血、この子に使った?」

「ああ、助かったよ」

「じゃあこの子はわたしとライトの子?」

「ちがうぞー」

「ちがわない」

「違う違う、それを言ったらこの二人はどうなんだよ」

「子だくさんの男、大歓迎」

「やめんか」


 エルフジョークであると願う。


「いりーなは、あるじのこ?」

「そう、わたしとライトの子」

「ぱぱとまま?」

「これ以上場を混沌とさせないでくれ」


 イドに抱かれるイリーナの頭をぽんぽんと叩いて、大人しくさせる。

 子供の見た目で、舌も足りて無いが【知恵の実】で人間以上の知識は与えられているのだ。自分の言っている意味が分かっているはずである。


「ざんねん、でもがまんする」

「そうしてくれ、イドも変な事を言わないでくれ」


 イドからイリーナを奪ってオレの所に抱き寄せる。

 軽く核を意識して魔力を注ぐと、目を細めて喜ぶので静かになるのだ。


「リアナ。今日は店を頼んだ」

「畏まりました」

「イリーナはオレと体を動かす訓練だ」

「あい」


 舌もそうだが、肉体の制御がまだ甘いかもしれない。

 体の使い方を覚えないと、他の人に迷惑を掛ける時がある。

 海東はよくリアナにちょっかいをかけてシバかれていた。


「わたしは?」

「や、いつも通り好きにしなさい」

「そう?」


 イリーナをソファに座らせて、オレはテーブルに腰かける。

 セーナが紅茶を入れてくれたので、それを口にする。

 イドはイリーナが気に入ったようで、イリーナの横に座り頭を撫でている。

 若干顔がだらしない。


「ミチナガ、この子は私以外の素体も使ってる?」

「ああ、剣の達人に知り合いが……」

「…………ミチナガ?」


 え? あれ?


「あ、え? や、ちがうヨ!」


 カマかけられてるぅぅぅぅ!


「……族長に剣の支払いの許可を得るために、証を持つ錬金術師に莫大なお金を払っていいか手紙を送っておいた」

「あ、ああ」

「そしたら『ミチナガ殿によろしく』と書いてあった。名前が違うので何度か手紙を出してたら、族長が証を渡した人間で現存するのは3人だけだと知った」

「そ、そう」

「一人はダランベールの姫、女性。一人は冒険者の男、もう初老。一人は異世界のビルダーの男」

「う……」

「イド様! これには事情が」

「黙って」


 リアナの言葉をイドが制する。


「証は本物だった。だけど名前が違えば調べる。当然ね?」

「ああ、そうだな」

「勇者は帰った。男で族長の証を持った人間は、異世界から来た勇者パーティの一人『光 道長』だけ」

「………………」


 金色のイドの瞳が俺を見つめる。


「族長に認められた男、婿には申し分ない」

「そっちの話でしたっけかねぇ!」

「? 『ミチナガ』は有名人。名前を隠すのも理解できる」

「や、だから……」

「それともこれは偽物? それともこの国の姫から盗んだ?」

「いやぁ、えっとぉ」

「隠さないで、わたしも人には言わないから。別に怒ってもいないし」

「…………そうだよ、オレが異世界から召喚された『光 道長』だ。間違いない。まさかクリムと手紙のやり取りをしていたとは」

「ん、剣を買うのに金をよこせって手紙を出してから何度か。髪は染めてるの?」

「ああ」


 お風呂で頭を洗う程度じゃ落ちない特別な染料で青く染めたから、黒髪は一度もイドに見せていない。


「危なかった。族長の証が偽物だったり盗んだものだと判断してたら、ライトを殺さなくちゃいけなかった」

「マジで?」

「ん」


 小さく頷くイドに戦慄する。


「盗品だったら一族みんなで報復」

「こわっ!」


 エルフの群れを相手するなんて地獄過ぎる。

ば、ばれたー! たー! たー……(ふぇーどあうと

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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