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37 錬金術師と新しい従者④

「ご主人様! 起きて! 全部入ってるわよ!」

「むう、もうちょい優しく起こせよ」

「液体が吸収されたら起こせって言ったのはご主人様じゃない! しっかりしてよね」

「起こし方に文句を言ったのだが……」


 メイド服に身を包んだ、銀髪ツインテールが元気にオレを揺さぶったのでしぶしぶ起きる。

 身支度を整えて、その間にセーナが用意してくれたウィンナーサンドを頬張りながら窓の外を見る。

 まだ空が暗い。

 首をコキコキ鳴らしながら、工房に足を運ぶとリアナとセーナがベッドを運んでいる所だ。


「どれ、具合はどうかな?」


 大釜の中を覗き込むと、青白い肌の人の形をしたナニカが沈んでいる。

 赤黒かった液体は色素を失い透明になっている為、中の様子が良く分かる。

 コップで液体を掬い、臭いを嗅ぐ。ほぼ無臭だ。

 液体内に充満していた濃い魔力も無くなっている。水の入ったコップをテーブルに置いて、袖をまくり大釜に手を突っ込む。

 ここまで作業が進めば普通に手で触れても問題ない。黒く、形だけ整っていた髪の毛は白く普通の触り心地だ。

 特徴的なキツネの耳も水中で揺れている。

 頬を触ると、肌の質感が感じ取れる。

 ……ホムンクルスの素体の完成だ。


「どうです? マスター」

「ああ、良く出来ている」


 オレの言葉に頷くリアナと嬉しそうに手を叩くセーナ。

 オレはビニールエプロン、まあ水生の魔物の皮のエプロンだが。を前掛け代わりに付けてホムンクルスの素体を大釜から抱き上げ、ベッドに寝かせる。

 青白い肌が水を弾いている。

 リアナとセーナが全裸のそれを綺麗に拭いていく。

 前は勿論、体の向きを変え、時には抱き上げ背中や髪。キツネの尻尾も手作業で丁寧に拭いてくれた。

 その間に生命の水溶液と魔力を込められる特別製の筆を準備。

 素体の全身がはっきり見える様に明かりを灯す魔道具の位置を調整した。


「準備出来ました」

「ああ」


 綺麗に拭われた素体は、相変わらず青白い肌だ。

 オレはその体の中心に、生命の水溶液を墨汁代わりにし筆で魔法陣を書き込んでいく。

 魔力を込めつつ、間違いのない様にびっちりと。

 ホムンクルスの素体と核の融合術式、作成者の魔力を登録する術式、それと趣味の良い物ではないが、登録者を主人と仰ぐ服従の術式。

 流石に量が多く、覚えきれないのでセーナが見える位置に魔法陣の書かれた紙を広げてくれているので、それを真似る。


「ご主人様、そこ間違ってる」

「はいはい」

「そこ歪んでる」

「ああ、くそ」

「定規当てましょうか?」

「ダメだ、なんか負けた気分になる」

「はぁ、まあ勝手にすればいいけど。セーナの妹なんだから丁寧にやってよね」

「分かってるって」


 体の胸の部分から放射状に広がる魔法陣。

 時々エーテルで魔力を補給し、生命の水溶液を補充したり、間違えた部分を布でぬぐい取って書き直したりと続けた。

 集中してその作業を行っている間、徐々に窓から光が差してくる。


「出来た」

「出来ましたか」

「ちょっと待ってね、うん。大丈夫、全部合ってる」


 セーナのお墨付きが出たので、小さい方の窯に入っていたホムンクルスの核部分を確認する。

 赤みを帯びたそれは、イドとミリア様の血液をしっかりと吸収している。窯の中を満たしていたエーテルの魔力もすべて吸収し終わっていた。

 核を胸の魔法陣の中心に置く。

 赤みがかった丸い球体は、魔法陣に反応して強く脈打った。


「よし、持ってけ!」


 オレは核に思いっきり魔力を叩き込んだ。

 核は脈打ち続けながらも、オレの魔力に押される。ゆっくりと素体の胸に、まるで液体の中に沈むように体の中に飲み込まれていく。

 完全に核が体の中に入り込むのを確認し、手を離す。

 その核に引っ張られるように体に書いた魔法陣の円や文字が、胸に吸い込まれていく。

 体の中にすべての魔法陣が収納されると、素体の体が寝たままのけ反った。


「あ、ああ………………………あああああ!」


 耳をつんざくような声が素体から発せられた。

 同時に、肌が人と同じ様に赤みを帯び、唇に血色が生まれた。

 同時に体にも変化が起きる。

 大きな耳と尻尾は勿論、リアナにも負けないサイズを誇っていた胸が縮み始める。手足も同様だ。

 先ほどまで、大人の女性の形をしていた素体は、核と結合した瞬間にどんどんと縮んでいく。

 最後に、真っ白だった髪の毛と耳、尻尾の色がリアナやセーナと同じように銀色の光沢を帯びる。

 ここまでくれば、失敗する事はもうほとんどない。


「リアナ、セーナ」

「「 はい 」」


 リアナがその素体の上半身を起こす。

 手足が暴れるので、セーナはそれを全身で抑える役だ。


「さあ、これを食べるんだ」

「あ、あ、あ、……」


 口の中に、さくらんぼ程度のサイズの金色に光るリンゴを入れる。

 これこそが、すべての知識の元と言われる伝説上の存在【知恵の実】である。神界とこの世界を繋ぐ世界樹のダンジョン。そのダンジョンの中の隠し部屋で育てられている【黄金樹】の実。大盗賊の川北が見つけた隠し部屋で、そこでしか見る事の無かった貴重な素材の一つだ。

 まあいっぱい生ってたからそれなりの数を持って帰って保管してあるけど。

 これを吐き出さない様に、頭と顎を抑えて口の中で消滅するのを待つ。

 そうしていると、暴れていた体が落ち着きを持ち、抵抗が無くなっていく。

 それでもオレとセーナは抑えるのをやめず、リアナも抱き起したまま動かない。

 しばらくすると『ちょんちょん』と、抑えていたオレの腕に指でつつかれる感触を感じた。

 それを感じたオレは、抑えていた力を抜いて頬を撫でる。


「口を大きく開けてみなさい」

「あ」


 口の中には何もない、無事に知恵の実は役目を果たしてくれたようである。


「頑張ったな」


 5歳くらいの大きさまで縮んだその子供のホムンクルスの頭を撫でる。耳の感触が心地良い。


「あるじぃ、くらぃ」

「ああ。目はまだだ」


 そこに手を出すには流石に魔力が足りない。


「はやくあるじのおかおがみたぃ」


 知識を得ても体がまだ出来たばかりだ。まだ言葉がたどたどしい。

 言葉を話し始めたので、セーナが体を離して解放する。

 手をオレの方に伸ばして上下させている。


「そうだな。でもその前に、一度体を休めよう」

「あい」


 オレはばたつかせている手を握り、ゆっくりと体を寄せて抱きあげる。

 核を意識して、二人にやるように魔力を込めてあげる。残り少ない魔力だが、ゆっくりと優しさを込めて。


「ふあぁぁぁ」


 何とも言えない声を出した。


「いいなぁ」

「そうね」

「我慢してくれ」


 更に2人に魔力を渡したりしたら、倒れてしまうのだ。今でさえふらついてるのに。

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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