34 錬金術師の新しい従者①
月齢樹の樹液とドッペルゲンガーの躯を手に入れて数日後。
アリドニア領に無事戻り、ジジイから預かった手紙もソフィア様に渡した。
それと第3騎士団ナンテロカンテロってとこの請求書もお願いしておいた。
他にも採ってきておいた月見草をマナポーションに変えたり、いない間に流通の減っていた薬なんかの作成をし終えた。
ここからはオレの本領発揮の時間だ。
2日かけて全力で2つの窯と混ぜ棒に魔力をぶちこんでおいた。
色々と準備に時間がかかったが、仕上げだ。お店も閉めるし客も急患もシャットアウト。
「楽しみですねマスター」
「べ、別にセーナがいればいいんだけどね! 妹が出来るのは嬉しいけど」
工房での作業だ。イドがいないのでセーナがいつもの感じに戻っている。
それでは早速、心臓部分を作っていこう。
最初に使う窯はテーブルに乗るサイズの小さい窯だ。
「まず青の水溶液と生命の水溶液を窯の半分くらいまで入れて、ゴーレム核の真石を沈める」
青の水溶液と生命の水溶液はそれぞれ水の魔法と回復魔法を固形化させて溶かした水溶液だ。
それぞれの属性にあった液体に溶かしてそれらを馴染ませたもの。錬金術の基礎であり、これの良し悪しで作成するもののランクが変わって来る。もちろん今回は最高品質の物を準備した。
ゴーレム核の真石はその名の通り、ゴーレムの中心に埋まっている。
魔石とは別の器官で、魔石から供給される魔力を全身に届ける役割をもっている。その核の中央にある指令塔の部分だ。魔力の親和性を考えて今回はミスリルゴーレムの物を使用する。
無傷で手に入れるのが大変だった代物だ。
「白竜の角の粉を少し落として、魔力を込めてかき混ぜる」
ハクオウの角だ。ハクオウの角の先端が丸くなっていたので研いでやった時に手に入れた。色々な素材を繋ぐのに優秀な素材。あいつは全身が希少素材の塊なんだよな、流石に目玉をくれとは言えないが。
真石を中心に、真石に触らないようにゆっくりと丁寧にかき混ぜる。
窯に火を入れているわけではないが、ぐんぐん魔力が吸い上げられている感覚に体が熱を帯びて疲れていく。
「マスター、汗を」
「ありがとう」
リアナがおでこと首筋を拭ってくれる。
汗も不純物になりえる。窯に落ちてはいけないので、リアナも真剣な表情だ。
「セーナ、月見草の花粉を。真石にかからないようにな」
「は、はい。月見草の花粉、入れます」
オレはかき混ぜる手を止められないので、セーナが紙に乗せた花粉をゆっくり落としていく。
水溶液の色が徐々に薄くなっていき、逆に真石の色が緑がかっていく。
「次、紅の果実酒。真石の上から石を包むように」
「はい、紅の果実酒を入れます」
紅の果実酒は生き物の血液を餌とする吸血樹の実を加工したものだ。
ちなみに味は最悪だ、血の味しかしない。
吸血鬼のワインと呼ばれる事もある代物。製作の過程がお酒と同じだから酒と呼ぶが、飲用ではない。
「よし、上手いぞセーナ」
「あ、ありがとうございます」
「マスター、そろそろ上位魔力回復薬を」
「ああ」
リアナがストローを差したエーテルを飲ませてくれる。
オレの体調を常に看てくれるリアナが魔力の不足を指摘してきた。
「ふう、まだいけるな」
水溶液と紅の果実酒を真石が吸い込んでいき、窯の中身が減って来たように見える。
「青の水溶液、ビーカーの3目盛り分の物。それを入れたら緑の水溶液を同じく3目盛り分の物」
「はい青の水溶液を投入します」
魔力を込めて混ぜる作業を続けつつ、セーナに指示を出す。
間違いが無い様に入れるものを順番に並べているし、入れる前にセーナは入れるものを口にしてくれる。
「続いて緑の水溶液を入れます」
オレは汗が落ちない様に静かにうなずきつつも、混ぜる手を止めない。
「紅の果実酒。先ほどと同じく上から包む様に」
「はい、紅の果実酒を入れます」
この工程を3度ほど続け、魔力を更に注ぎ込む。
そして紅の果実酒をかけられた真石が、まるで鼓動する様に振動を放ち始めた。
……成功だ。
「少しこのまま様子を見る」
「「 はい 」」
様子を見ると言っても混ぜる手はやめない。
脈打つたびに赤みを帯びていく丸い真石、その様子にオレの表情が緩む。
窯を満たしていた液体がかなり減ったので混ぜる手を止めて、真石が窯の液体をすべて吸い上げるのを待つ。
その間にリアナの取ってくれた魔力を完全に遮断する専用の手袋を嵌める。
セーナが窯の横にクーラーボックスを用意してくれる。
中には神界で採取した海水が人肌程度の暖かさで満たされている。
液体をすべて吸い上げ、真っ赤に染まった真石をクーラーボックスの中の海水に沈めて蓋をしめる。
とりあえずこれで一度休憩だ。
ガチで自己満足章




