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33 ハクオウと国王

「緊急です! 陛下!」


 朝日が昇ったばかりの時間、前日のパーティで朝をゆっくりと眠っていたかったフリードリヒ=ダランベールは配下の近衛によりたたき起こされた。


「何事だ。まだ余は眠っていたいのだぞ」

「……ドラゴンです」

「ドラゴン?」

「はっ! 恐らくは王竜の種かと」

「なんじゃと! すぐ着替えを持て!」

「は? いえ、我等にご指示を……」

「王竜で間違いないのだろう? ならば全員手を出す事を禁ずる。先走って武器を掲げよう者は罰せよ!」


 フリードリヒは従者達に着替えを用意させると、すぐさまに王城よりバルコニーに足を運び目を細める。

 長い首をもたげて雄大に空を飛ぶ、朝日を帯びてオレンジ色に輝く竜の鱗はところどころ薄汚れていた白い竜。

 その姿に眉をひそめつつ、拡声魔法の代用となる道長の作った魔道具を取り出し声を上げた。


「伝説に聞く王竜ホワイト=ブレイブドラゴンよ! 其方が降りられる場所は王都にはない! 対話を望むのであれば、一度王都の外で体を休まれよ! 其方のような巨体、この王都に降りることはすぐには無理であるっ! 見える位置に降りてくれるのであれば、同じく人の王たるフリードリヒ=ダランベールが言葉を交わしにそちらに伺おう!」


 フリードリヒは、決して怒らせてはいけない相手に王としての威厳を崩せない事にもどかしさを覚えた。

 しかし、王竜と呼ばれる竜は一つ咆哮をあげ、王都の外壁の外へとその体を下す。

 フリードリヒの考えた通り、あのドラゴンは対話を求めていたのだ。


「陛下、何故」

「簡単な話だ。破壊や食事が目的であれば、すでにこの王都の半分は燃えておる、余とウォルクスしかおらぬでな」


 国一番の剣の使い手たる王女ミリミアネムは道長を追うべく姿を消し、国一番の軍は最高の指導者たる第二王子シャクティールと共に魔王軍の残党狩りで不在。

 魔物を専属とする騎士団も今は王都から離れている。

 第一王子ウォルクスであれば、戦いになるかもしれないが、空を自在に飛ぶドラゴンが相手となると心もとない。


「父上、すべての指示を完了致しました」

「うむ。冒険者ギルドには特に注意させよ」

「ええ、一部の冒険者の暴走でこの王都が灰燼に帰すのは許容できませんから」


 王竜と戦いが可能であろう人間は、フリードリヒとウォルクス。

 近衛兵と騎士団に何人かと上位の冒険者だ。今から対話を行うつもりなので、それらが先走って攻撃を開始するのは止めるべきだ。


「ダランベールの民達よ、あれは王竜だ。あれの相手は我等王族が行う。全員家や宿に閉じこもっておれ。これは王命である。もう一度伝える! ダランベールの民達よ、王竜の相手は王族が行う。家や宿、店や職場に閉じこもり、我の許可を得るまでは出てくるでないぞ」


 拡声魔法のかかった魔道具から、フリードリヒは魔力の乗った言葉を発した。

 フリードリヒの【王】の職業スキルである【王命】だ。

 国民の自覚のある人間に対し、命令を与えるスキルだ。

 しかしこのスキル、強制力が全然ないし、その人間が絶対に行わないであろう行為は強制できない悩ましいスキルだ。自分の言葉が聞こえやすくなる、といった類のものだとフリードリヒは自覚している。


「騎士団の人間には城下の見回りをさせよ。外に出すな」

「はっ!」

「近衛は馬車を持て、今より余とウォルクスが王竜の元まで行く」

「はっ!」


 フリードリヒは王竜の真意を考えつつも、頭を振る。今はあの強大な存在の怒りを買わない様にするにはどうすればいいか、そこだけに集中するべきである。






「待たせたことを謝罪する、王竜よ」

『構わぬぞ、人族の代表よ』


 王竜ホワイト=ブレイブドラゴン、ハクオウと異世界の住人に名付けられたその白い竜は目を細めてフリードリヒを見つめる。


『まさか本物の王であったか。この国の栄達は約束された物であったとも言えるのう』

「王竜たるホワイト=ブレイブドラゴンに認められるとは、存外嬉しい物であるな」


 いつでも武器を構えられる様控えていた近衛兵や騎士団員、それに王子ウォルクスに手を振るうと、彼らの頭が自然と下がる。


『クハハハハ! 我を前に王の威厳を見せるか! 良いぞ、人の王よ』

「して、此度はどのようなご用向きであるか? 我等で晩餐をするには少し難しいと思うが」

『何、力を借りに来たのじゃが……ミチナガはおらぬのじゃな』

「ミチナガ? 異世界の少年のミチナガで間違いないか!?」

『うむ。我一人では手に余る問題が起きたのじゃ。あの男の力が必要だ』

「王竜ほどの存在の手に余る問題? やはり、彼は神託を……すまぬ、王竜よ。ミチナガは今、この地を離れている」


 フリードリヒが苦々しく言葉を紡ぐ。この回答で王竜の怒りを買えば、下手をすれば国が亡びる危険性が大いにある。しかし嘘をつくことは悪手だ。いつ戻るか分からない道長を待つ事も出来ないからだ。


『そのようじゃな、あの男であれば我が姿を現した段階で顔を出すはず』

「おお、既にミチナガはあなた様と繋がりがおありか」

『もうこの言葉を使う事はあるまいと思っておったのじゃが、あれは我の友である』

「「「 おおっ! 」」」


 『友』と言う単語にフリードリヒのお付きの人間から声があがった。


「ミチナガの力を借りねばならぬほどの事態……まさか東か?」

『ほう、お主も知っておったか。王を名乗るだけの事はある』

「東の地の災い、誠であったか……」


 本来であれば白い輝きに身を包まれているはずのハクオウの鱗、それは赤黒い汚れがいくつも目立つ。王竜と呼ばれる最強の生物の一角がこのように薄汚れる程、激しい戦いをしてきたのが想像に難くない。

 更にその最強が一人の人間の力を求めている。

 女神様の啓示によりこの世界に残った、この世界の救世主の一人の力を。


『とにかく、ミチナガがおらぬのではこの地に用はない。我は行こう』

「もう行かれるのであるか?」


 フリードリヒの言葉にハクオウは目を細めた。


『クハハハハ! 我とお主では晩餐会は望めぬのであろう? 他をあたる、騒がせたのじゃ』

「次来るときは、何か別の形で歓待しよう」

『構わぬよ、我等は関わらぬ方が良い。お互いの為にのう』


 王竜と呼ばれる種の竜。それには様々な逸話があり、その多くが村や町、更には国の崩壊につながる逸話だ。

 それを知る王は、答えが出せなかった。

 そして、ハクオウはその答えを求めていなかった。その大きくも雄々しい翼を広げると、来た時の様に大空へと羽ばたいた。

 強風にあおられる王達だが、ハクオウの姿が視界からいなくなるまでその場を誰も動かなかった。

 そして、その姿が完全に消えると緊張が解けた王と王子、そして一部の人間を除き大半の人間は地面にへたり込む。


「東の災い、王竜が動くほどのものであったか。ミリミアネムは大丈夫であろうか」


 王は自分の娘を案じ、東の空を見つめるのであった。

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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