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31 素材を求める錬金術師⑨

 そして夜になる、ジジイと合流。

 ジジイがコンパスを持ってにこやかに待っていた。


「気持ち悪いな」

「ゲオルグ様、ホムンクルスが手に入ると喜んでおいでなのです……不埒な事しか考えてないと思われます」

「錬金術の発展の為じゃ!」

「「 うそくさい 」」


 フィーナと声が揃ってしまった。

 いかんともしがたい表情でこっちを見ないで欲しい。


「どれ、さっさと行くかの。最初はほれ、そこの酒場じゃ」


 ガシャン! と大きな音がその酒場から聞こえて来た。


「間違いなさそうだな」


 オレの言葉にイドとケーシーも頷く。

 ちなみにドッペルゲンガーを捕獲できるロープはセーナとイドが持っている。

 この二人は武器を操る才能がすごいのだ。


「で、出たぁぁぁ! 影だぁぁぁ!」

「勝てっこねえ! 逃げろ!」

「俺の店がああああ!!」


 叫び声がバンバン聞こえてくる。

 そして早々に体格のいい男の姿を模した黒い人間サイズの何かが店から飛び出してきた。


「おお、あれがドッペルゲンガーか!」

「美味しい?」

「食べれんよ」


 口の中で消えるから。


「じゃあいらない」


 ロープの先に輪を作ったイドが頭の上でクルクルロープを回してそれを投げる。

 勢いよく投げ込んだロープの輪がドッペルゲンガーの首を絞める。


「こわっ!?」

「これなら逃げられない」


 イドはそういうと、ロープを引っ張りこんだ。

 ドッペルゲンガーは魔物だ、だがその形は二足歩行の人間と同じ。

 首を引かれたドッペルゲンガーは体勢を崩して地面に倒れてしまう。

 そしてそのままイドが引っ張る事により、こちらに引きずられていく。


「あんまり触りたくない感じの色ね」


 その状態のドッペルゲンガーを素早く簀巻きにするセーナ。

 更に身動きが出来ない様にケーシーがのしかかって足を抑え込んだ。


「のう、お主の仲間、せっかくのビキニアーマーなのにズボンなんじゃが」

「森歩きしてたからな」

「世界の損失じゃな。今度スーパーせくしぃビキニアーマーを進呈しよう。肌面積が減ると防御力の下がるすぺしゃるなやつじゃ」

「阿呆だな、呪いの防具かよ」


 危なそうな水着みたいだ。


「とりあえず、こいつを処置するか」


 オレは手袋をはめて仰向けになったドッペルゲンガーの心臓部分に手のひらを当てる。

 手のひらを介してドッペルゲンガーの魔力がどんどん抜けていく。


「これこれ、こんな魔力を空中に散布するもんじゃあないぞい」


 そんな事をいいながらジジイが何か魔石のようなものを懐から取り出して、その魔力を回収する。


「そうだな。魔力だけでも再生する可能性があるか」


 オレの言葉にジジイが頷く。


「こう見えて国を守る貴族の一人じゃ。この街に危害を加えるようなモノは消えるべきじゃろ」


 ケーシーが抑えていないと、ずりずりと動こうとしていたドッペルゲンガーの動きがどんどん鈍くなっていく。

 オレの手の甲から放出される赤い魔力も勢いが落ちていった。

 黒の墨汁の中に影が蠢いているような色彩だったドッペルゲンガーの色の動きも消え真っ黒になってただの躯になる。


「処置完了だな」

「ほほう! これがか!」


 オレは手提げから、時間停止の魔法陣が施された棺桶を取り出す。


「思念だけ残してあるが、外部から魔力を吸収するかもしれない。これに保管しておけば、外部からの影響を完全にカットできる」


 何度か動かないかつついたりして確認した後、セーナとケーシーはドッペルゲンガーの躯を持ち上げて棺桶に保管。

 その棺桶を再び手提げに仕舞った。


「さて、あと2体だな」






 街の中央広場で暴れていたドッペルゲンガーも同様に処理を施し、残り1体。

 ジジイのコンパスを頼りに最後の1体の所に向かうと、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。


「誰か戦っているな」

「倒されちゃかなわん! 急ぐぞい」


 オレ達が走りこんで路地に顔を出す。

 そこには昼間見たキツネ耳の女性が、自身の影と戦っていた。


「くそ、戦い方は同じなのに! あたいが使えない魔法を使いやがるっ」


 キツネ耳の彼女はギルド内でそれなりの発言力を持っていた。力のある冒険者なのだろう。

 ケーシーが剣を構えて、二人が離れた瞬間にキツネ耳の女性に並んだ。


「援護しよう」

「助かる、昼間のあんたらか。そういえばこいつを確保するとか言ってたな」

「ああ、店主殿の依頼だからなっ!」


 ケーシーが剣を横薙ぎに武器を振るい、影で出来た剣を叩き切った!

 地面に落ちた剣は、ドッペルゲンガーの足に吸い込まれると再び影の剣の形が元に戻った。


「あの剣、お主の作じゃな。それにしては……」

「あれは彼女の元々持っていた剣を改良しただけ」

「なるほどのぅ。どうせなら完全に打ち直してやれば良かったのではないか?」

「剣だけ良くなっても彼女が強くなる訳じゃないからな」

「はん、強い武器を手に入れるのもその人間の力じゃろ」

「身の丈に合わない力は本人の為にならない、いずれは自身や身近な人を滅ぼす羽目になる」


 オレのクラスメートがそうだったのだから。


「勇者殿は持ち直したじゃろ」

「……いきなり聖剣なんかに頼ったのが間違いだったんだよ」


 聖剣という強力な武器を、稲荷火は暴走させたことが何度かある。それにより被害を受けた人もいた。


「過保護じゃの。まあ今回はあの剣で十分のようじゃ」


 何度か攻撃しても体を素通りしてしまっていた二人の剣が、的確に相手を捕らえられるようになってきていた。

 目まぐるしく攻防が変わる上に、周りを警戒しているドッペルゲンガーが相手だ。セーナとイドもロープを仕掛けられずにいた。


「あたしゃあそこまで視野は広くないんだがねっ!」

「影の魔物ってのは、はあっ! 本人をトレースするんだろ? つまりあんたにはそれだけの能力が、ふっ! 備わっているって事だろっ!」


 先ほどまでは低位の冒険者や、街の人間のドッペルゲンガーだった。大した問題ではなかった。

 しかし今回は能力の高い冒険者をコピーしたドッペルゲンガーだ。二人掛かりでも動きを止められずにいる。


「なあ店主殿っ! 倒しちゃだめなのかっ!?」

「ダメ」

「ダメじゃ」

「あたいには関係ない話だねっ! きゃうっ!」


 キツネ耳さんが頑張って攻撃をかけようとしたが、逆に吹き飛ばされてしまった。


「くそっ! あたいはあんな馬鹿力じゃないぞ!」

「イド、ロープ貸して」

「どうするの?」

「イドが攻撃して動きを止めてくれれば、捕まえられるでしょ」


 ロープを投げる技術があるからイドに渡しておいただけなのだ。

 実はもう一人適役の人がいる。


「よろしくフィーナ」

「やっぱりこうなるのね」


 イドは腰から剣を抜くと、無造作に歩いて近づく。

 ドッペルゲンガーは無言のまま、イドにその黒い影の剣を振るう。


「カウンターのタイミングが二人とも甘い」


 近距離で剣を回避しながら、攻撃してきた瞬間に手のひらを切りつけた。


「それと動きを止めるなら体ではなく四肢を狙うべき」


 言いながら今度は右足の太ももを切りつける。

 ドッペルゲンガーの体のバランスが崩れ、一瞬だけ姿勢が悪くなる。

 その瞬間を狙っていたのはフィーナだ。

 剣を持っていない方の手にロープをうまくかけて引っ張りあげる。


「!」


 それをほどこうと手に持つ剣を振るおうとした瞬間、その剣をイドの剣が迎撃する。

 ロープで覆われた手が掴めるようになったので、イドはその手を捻って地面にドッペルゲンガーを叩きつける。

 スーパー馬鹿力だ。

 倒されつつも、顔をあげたドッペルゲンガーの体の周りに黒い影の玉が浮かび上がった。

 ドッペルゲンガーの魔法だ。

 イドとケーシー、それとキツネ耳冒険者がその宙に浮かび上がった玉を剣で切り捨てる。

 そのままイドはロープで固定されていない、剣を持った左腕を剣で貫いた。


「よくよく考えれば、わたしも魔法を使えば良かった」

「今更だなぁ」


 肩を固定されて、剣が振るえなくなったドッペルゲンガーの足をセーナがロープで縛り上げた。

 イドがこちらに顔を向ける。

 このまま魔力を吸えって事だろう。

 オレは頷くと、ドッペルゲンガーの胸を手袋を嵌めた手でわしづかみにした。


「むひょっ!」

「ちょっと!? どこ触ってるさ!」


 ジジイの興奮する声とキツネ耳さんの不満の声が出る。


「核から魔力を吸わないといけないんだ。我慢してくれ」


 うつ伏せだったら背中から吸えたんだが、言わない。


「なんか複雑な気分なんですけど!」


 自分の胸を両手で隠しながら文句を言って来る人はとりあえず無視である。

ちなみに感触は本物と変わりませn

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[良い点] 強制的に~から来ました。 あちらもそうだけど、本作も読みやすくてテンポも良いですね。 [一言] 作者様、大病中との事。 治癒される事を心より祈ってます。
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