29 素材を求める錬金術師⑦
「ってなわけで依頼変更お願いします」
カウンターにいた受付のおばちゃんに二人の依頼表を渡した。
「どんな感じだい。ああ、あんたあの村に行ってきたのかい。王都の騎士団の人が行ってたけど大丈夫なのかい?」
おばちゃんに依頼票を渡したら、目的地を見て目を見開いていた。
「ええ、騎士団の皆様の奮闘でなんとか。薬や包帯なんかも置いてきましたし、騎士団の人間が村を完全に守っているので心配はありませんよ」
おばちゃんが新しい書類に依頼内容の変更と新しい依頼内容の作成の書類を取り出した。
「素材の採取ねぇ。そんなもの冒険者に任せればいいのに」
「今回の素材は回収するタイミングで質も量も変化する素材ですから、戦闘という面で信頼できる冒険者でも完全にお任せは出来ませんよ」
「錬金術師は変わってるねぇ。そんで? 新しい依頼内容は?」
「ドッペルゲンガーの拘束とクレストの街までの護衛依頼」
「「「 はぁ? 」」」
オレが依頼を口にすると、おばちゃんの話が聞こえていたのか、他の冒険者達も驚きの声を上げた。
「待て待て、討伐じゃないのかい? 討伐なら依頼書は既に出てるよ?」
「ああ、じゃあそれは別で受けようかなぁ。でもドッペルゲンガーって討伐の証が普通は取れないでしょ」
あれは人間の負の感情の集合体だ。核となる部分はあるからそこを壊せば倒せるが、倒した後は綺麗に消滅してしまう。
「そりゃ、受ける人間にはギルド職員が帯同するからね。ギルド職員が目で見て確認するんだよ」
「でもまた復活するでしょ?」
「そうなんだけどねぇ、一応一度倒せば2、3日は形を潜めるから。ここんところはその繰り返しだよ」
「まあそうでしょうね。核を壊さずに拘束すればいいのに」
もしそれで拘束されていてくれれば、買い取ったのに。
「そんなのが出来る冒険者はAランクパーティかSランクだろうね。Bランクも数がいればいけるかもだけど、ギルドとしては余計な危険を冒険者達に負わせるわけにはいかんもの」
「確かにそうかも知れないですね」
ドッペルゲンガーは相手に襲い掛かる時だけ実体化する魔物だ。本当は魔物かどうかも分かっていないが、魔物という扱いだ。
拘束するには実体化している状態で痛めつけて、魔法や魔道具で拘束するしかない。
一般的な魔法使いが覚える魔法ではないが、覚えるのが難しい魔法というものでもなかったはず。
魔道具はぶっちゃけドッペルゲンガーの有用性を知っている錬金術師しか持っていないだろう。
少なくともオレはジジイ以外で持っている人間を見た事が無い。
「ちょっと待て、拘束してどうするんだ!」
「素材にする」
「素材っ!?」
「拘束して素材にすれば、ドッペルゲンガーを象っている思念も拘束できる。倒して2、3日時間を稼ぐよりももっと時間を稼ぐことが出来るし、運がよければ再発生しない」
第3騎士団が何を目標に活動しているか知らないが、人々から不満を取り除くことが出来ればドッペルゲンガーは発生しなくなる。
「そういえば」
「なんだい?」
「ゲオルグ=アリドニア様はこの街にいらっしゃっているかい?」
「第一錬金術師様かい? そんな話はトンと聞かないねぇ。なんでだい?」
「いないならいいんだ。あの方がドッペルゲンガーの素材を欲しがっているって話を昔きいたのでね、採集に来られるかもと思ったんだ。高名な錬金術師様だからな、一度お会いしたいと思っているのだが、彼は王城に常にいるからね」
「ほっほっほっほっ、嘘を言うもんではないのぅ」
げ、この声はっ!
「……既にいらっしゃいましたか」
「今着いたところよ、久しいのぅ道……我が弟子、ライトロードよ」
ギルドの扉を開けて入ってきたのは、背の低い妖怪ジジイ。
王城専属第一錬金術師にして国王のご意見番。
この自他共にオレ以外が国一番の錬金術師と認める老人がこの場に現れたのであった。
「おい、あいつ貴族だぞ。お前ら絡めよ」
「馬鹿かっ! なあ馬鹿なのかっ!? あの方はこの国の冒険者ギルドと錬金術師ギルドを繋げた偉大なお方だぞ!?」
「相手見て喧嘩売んなよ、格好悪いぞ冒険者」
「やめてくれ兄ちゃん! 頼むから! 悪かったから! 謝るから!」
「あいつも綺麗なメイドに綺麗なオベベきせて悦に至ってる変態貴族だぞ、さっきの気迫はどうしたお前ら」
「そこまで言ってないだろ! なあ! もうしゃべるな! なあなあ!」
「ほっほっほっほっ、この領の状況は分かっておる。その上でドッペルゲンガーを対処しに足を運んだのじゃ。皆の者、馬鹿な領主が迷惑をかけてすまないのぅ」
「そんな! ゲオルグ様にそのような言葉を頂く必要は」
なんだろうこの茶番は。
とにかく厄介な人が来てしまったとしか思えない。
「道、ライトロード様。ゲオルグ様を貶めるような発言はおやめください」
「ああ、悪かったよフィーナ」
だからその短剣を仕舞って下さい。
「お久しぶりで御座います。お師匠様、ドッペルゲンガーは不肖の弟子たる私が対処致しますので、有事に備えて王城でお待ち下さい」
「のうライトロードや、ワシお主にそんな嫌われる事したかのう?」
「分かりやすく言うと、ドッペルゲンガーは渡さねぇ」
「ほざくな小童が! 既に2人も持っとるじゃろう! ワシも欲しいのじゃ! ワシならもっとボンキュッボンで可愛らしい性格で尽くしてくれるグラマラスなれでぃーを作るのじゃ!」
「そもそも知恵の実持ってないだろ」
「そんなもんの代用品なぞ既に制作済じゃ!」
く、このジジイ優秀なだけに質が悪い。
「ゲオルグ様、ご自身の品位を落とす様な発言はおやめ下さい」
「わ、わかったのじゃフィーナ。わかったから短剣をワシに向けるでない」
「そのまま刺されてしまえ」
「ライトロード様?」
「はい、すいません。ごめんなさい」
フィーナはジジイの専属メイドだ。ホムンクルスではなく人間である。この人とても優秀なのだが冗談が通じない。
「まあいいや、情報交換といこうか」
「お主がワシに教えれることなどあるかのぅ?」
「ドッペルゲンガーを捕獲した事があるのはオレだけじゃないか?」
以前捕まえた時の手法は教えていなかったはずだ。
「ぐぬぬぬぬ」
「おばちゃん! 部屋借りるよ、依頼書作っておいて」
「あ、ああ。あんたゲオルグ様のお弟子さんだったんだね……」
「残念なことにね」
「一番可愛くない、違うな。一番教えがいの無い弟子じゃ」
「そりゃどうも」
ギルド内にある面談室の一室を借り、ジジイと話をする事にした。
リアナとセーナも一緒だ。イドとケーシーは同席させず、ギルドに残ってくれと伝えておいた。
JIJI登場。




