27 素材を求める錬金術師⑤
「大きな魔物がいるって言ってたけど、あれかぁ」
「たぶん」
「恐らくそうであろうな」
「大きいです」
「でもハクオウ様ほど大きくないね」
現れたのは超巨大なトカゲだ。
ゴブリンイーター。通称、ドラゴンモドキ。
でっかいコモドオオトカゲの見た目だ。
口は大きいが、舌が細いのが特徴で、その舌の細さでからめとるのにゴブリンが最適のサイズな為、ゴブリンを主食としている。
丸のみするので、偶にハラの中から攻撃されてのたうち回っている姿が確認される可愛い奴である。
「珍味」
「マジでか! あれを食うのかイド殿!?」
「前足の太ももがジューシー」
「あの巨体を支える足か、少し硬そうだが?」
「試してみましょう! 首領亀のスープも美味しかったですし」
そういえば作ってたね。
「オークのこんがり焼ける匂いに釣られたのかな?」
「オークの匂いに吸い寄せられたゴブリンに吸い寄せられている様に見えるのだが」
柵の外にゴブリンが大量に沸いていた。ほんと、どこから出て来るんだこいつら。
柵の内側は安全だし、死体を転がし続けるのも面倒だったので五月蠅かったけど放置しておいたのである。
そしたらあいつが湧いた。
まあ遠目から歩いてくるのが見えていたけど。2匹ほど。
「ゴブリンをたっぷり食べて貰おうか。死体を処理するのも面倒だし」
「あいつ、この結界を超えて来ないだろうか?」
「世界樹の柵、問題ない」
ゴブリンイーターは巨体ではあるが、魔力を使った攻撃はしてこないらしいので体当たりくらいでしかこの柵の結界に攻撃できないはずだ。
そして、魔力も伴わないただの体当たり程度でこの柵が破壊される心配はない。
「捕食が始まったな」
長い尻尾を引きずりながら、細長い舌を伸ばしてゴブリンを巻き付けて飲み込んでいくゴブリンイーター。
舌の動きが機敏で正確。1匹1匹丁寧にゴブリンを処理していってくれている。
体が巨大だから、ここのゴブリンの大半を食べてくれることを期待。
「食べ放題だなぁ」
「入れ食い」
二匹のゴブリンイーターが慌てて右往左往するゴブリン達を次々と舌でからめとって飲み込んでいく。
非常に機嫌が良さそうだ。
見ていると、体格の小さいゴブリンの中でも小型のものを優先的に食べている様子。魔物博士になるつもりも気取るつもりもないが、非常に興味深い。
ゴブリン達の中には粗末な剣を振り回して抵抗する者もいるが、ゴブリンイーターの堅い鱗を突破出来ず、偶に尻尾の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまっている。
ゴブリンイーターのドラゴンモドキと呼ばれる所以は見た目だけでなく、下位のドラゴンと同程度の鱗の防御力だ。
上級装備と言われる部類の物に使われる地竜や火竜と違い、魔法耐性そのものは低いが、子供サイズ程度しかないゴブリンの筋力で突破出来る物ではない。
食物連鎖の圧倒的な上位種による捕食劇が眼前で広がっている。
「む、お腹が満たされたか?」
「かも」
いくら巨体といっても、ゴブリンほどのサイズの魔物を20も30も食べれば満腹になるのだろう。
ゴブリンイーター達は満足気な表情で踵を返そうとする。
「どうせならこの木を守って貰いたいなぁ」
「マスター、声を掛けてみましょうか?」
リアナの言葉にオレは少し迷う。
「イド、倒さないでもいいか?」
「もっと美味しい物をくれるなら我慢する」
食いしん坊さんの許可が出たのでオレはリアナに頷く。
リアナは柵を乗り越えて、危険地帯に飛び込んだ。何をするのかわかったのか、セーナがリアナのガードについた。
イドにも頼む。
「お待ちなさい」
魔力の籠った力ある声が辺りに響き渡る。
右往左往していたゴブリン達の注目も集めてしまうが、セーナとイドがいれば問題はないだろう。
「お待ちなさい、力ある者よ」
セーナは瞳に更に力を込めてゴブリンイーターに問いかけを行う。
その瞳を受けて、ゴブリンイーターは首をこちらに向けた。
「ここは貴方達の安住の地。ここは貴方達に与えられるべき土地、そしてここは貴方達が守るべき土地」
ゴブリンイーター達に直接的な言葉はおそらく通じない。そこまで知性のある魔物ではないのだ。トレントディアの様に送られた思念とリアナの感情を思考出来るほど知能レベルは高くないだろう。
だからリアナが放っている言葉は、あくまでもリアナがイメージしやすい様に紡いでいるに過ぎない。
「この木が貴方達の餌を運んでくれます。この木を守りなさい。この木があれば、貴方達は食事に困らないでしょう」
ゴブリンイーター達は目を細めて首を上げ、月齢樹を見つめる。
足元のゴブリン達を無視して、こちらに悠然と歩いてくる。
セーナとイド、それぞれ持つ武器に力が入るが、それをリアナが手で制した。
ゴブリンイーター達はそこで体を伏せた。
「いい子たちね。私たちは今夜、ここを去ります。そこから先は貴方達の自由、いいわね?」
ゴブリンイーター達は鳴き声を発さない、でもなにか喉をゴロゴロと鳴らしているように見える。
「ご主人様、完了致しました……次来た時にはいなくなってるかもしれませんけど」
「いや、助かるよ」
気が付けばゴブリン達も姿を消している。
襲われる心配はなくなっても、近くにいるのは嫌なのだろう。
「さて、あとは夜を待つだけだな」
そして満月の輝く夜になったため、月齢樹の樹液を採取すべく蛇口タイプの魔道具を差し込んで樹液を獲得した。
この樹液は二人の亡骸を包み込む為に使用するので、量がいる。
最近採取されていなかったのか、それとも単純にこの木の樹液の保有量が多いからか、必要な分以上の量を無事に採取する事が出来た。
オレは緩む頬を抑えつつ、月齢樹の生えた山を後にするのであった。
でっかくなる爬虫類シリーズその2




