26 素材を求める錬金術師④
徒歩での移動になり、森に入る。山間から夕陽が差し込み視界の明暗がはっきり分かれている。
暗い場所では、夜の様に暗いので松明代わりに光の球をリアナが浮かせて照明にしている。
「調べによると、この森にはゴブリンやオークのほかに、トレント、小型のボア種の魔物それとカマキリの魔物が出るらしい」
勿論他にもいるが、人間に危害を加えて来る可能性のある魔物はそれらという事だ。
小型の魔物はもっといるだろうが、人間というか自分より大きい生き物から逃げ出すタイプなので滅多に襲い掛かってはこない。
「ご主人様、ここは月見草が多いですね! ほら!」
先頭の少し前を歩き、月見草を採取しながら周りを警戒するのがセーナだ。
その横にはイド。
オレの傍にはケーシーとリアナだ。
イドが広域で敵の感知を行う。大盗賊の才のあるセーナも感知は出来るが、採取を中心に行動しているのでイド任せだ。
ビーストマスターの才のあるリアナも魔物の感知は行えるが、イドやセーナの能力には劣る。二人が見落としていない限り出番はないだろう。
ケーシーも感知は出来るそうだが、イドが凄すぎて出番が無い。
「この先、魔物の数が多い。何かの群れがいるかもしれない」
「ご主人様、確認してまいりますね」
「頼んだ」
メイド服のセーナがスカートを気にしながらも木々に飛び移り、敵の位置を探りに移動を開始する。
森で育ったイドも中々だが、気配を消す能力はセーナの方が高いらしい。
イドはこちらに合流し、弓を構えた。その姿に、ケーシーも剣を取る。
「店主殿、どうする?」
「相手の種類と数によるかな。出来れば戦闘は避けたいが、月齢樹の位置によっては殲滅した方が安全に採取できるかもしれない」
村長からの話だと、オークの縄張りだ。数がまとまっているとなるとオークの可能性が高い。
オークは雑食の魔物だ。豚の顔と大きな体。そしてその体の大きさに見合う大食漢。人間を見ればほぼ間違いなく襲い掛かってくる。しかし頭はそこそこいいので、人間の村には襲い掛からないし、勝てない相手ならば逃げてくれる。
「問題は集落があった場合だな。逃げ場が無いとなればこちらに襲い掛かってくるかもしれない」
流石に巣を攻撃されて反撃してこない魔物などいない。
圧倒的な力の差を見せても死兵と化す可能性もあるのだ。
「臭いから考えて、雑食性の魔物」
「やはりオークか?」
「ゴブリンかもしれない。実際に見るか報告を受けるまで、決めつけるのは危険」
「流石はイド殿」
ゴブリンは小さいから魔法を当てるのは面倒なのだ。オークの方が楽に倒せる。
声を抑えて話していると、セーナが地面に降り立った。
「オークの集落でした。数は外に約30体、藁ぶきの家が20で中にそれぞれ2、3体といったところです。その先に月齢樹もあります」
「月齢樹の蜜の匂いに釣られる動物や魔物を狙う感じかな」
「恐らく。虫の魔物を多く捕まえているようでした」
「そうか」
それじゃあ殲滅するしかないかな。
「イド、ケーシー。任せていいか?」
「問題ない」
「ええ。この剣があれば負ける気はしないわ」
「炎の攻撃は使わないでくれよ」
「わ、わかっている! 私も森を炎上させる気はないぞ」
「オレ達も後方から向かう、前衛は任せた」
オレの言葉に二人は力強く頷いてくれた。
「はあああああ!」
「ふっ!」
イドとケーシーが剣を構えてオーク達に立ち向かっていった。
「せいっ!」
「はあ!」
そしてセーナは弓で、オレは魔道具の杖から氷の矢の魔法を放ちオーク達を迎撃していく。
オレ達の襲撃に目を剥くオーク達が、イドとケーシーに切り伏せられて行く。
「ウィンドカッター!」
少し離れた場所にいたオークの体を、イドの放った風の刃が切り刻む。
剣を慌てて構えるもの、素手のままこちらに向かおうとするもの、そして呆然とする者と様々いる。そして、立ち向かおうとする者はイドとケーシーに切り殺され、遠くにいるものはセーナの弓とオレの魔法が叩き伏せていった。
「ぐもおおおおおお!」
「ぶもおおおお!」
雄たけびを上げるオーク、集落の建物。というよりも雨を防げるだけ程度の家や木の葉などで囲まれた家からオークが追加で出現する。
「潰せ」
オレの両肩に浮かんでいた浮遊する絶対防御を飛ばして、逃げ惑うオークにブチ当てて地面に叩きつけ、潰す。
防御力の高い金属の塊だ。これで叩きつけるだけでもオーク程度なら倒せる。
更に杖の先端を地面に付けて氷の魔法を発動。
「フロストスネーク」
地面を氷の蛇が這いずり、オークに襲い掛かる!
この氷の蛇に巻き付かれたオークは全身が凍り付き、氷の彫像になり……砕けて死ぬ。
「店主殿も中々に強いな」
「道具のおかげだ」
手作りだけど。
「セーナのご主人様だもん! 強いに決まっているわ!」
「私達の、マスターです」
セーナは弓を引き絞り、次々とオークの頭を打ち抜いている。
リアナはオレの横でニコニコとセーナの言葉を訂正。こういった混戦で、リアナの能力は発揮されにくい。誰かが怪我をしたら回復魔法を出す役だ。出番が無い方がいい。
「これで、最後っ!」
イドが最後のオークを真っ二つに切り裂いた。
これで周りに動くオークの気配はない。
「終わったか」
オレは言いながら杖の先の氷の魔石を取り出し、大地の魔石に変更。
オークの死体の特にまとまっている場所の地面を陥没させて、オークの死体を飲み込ませる。
「あそこに死体と集落の残骸を投げ込んで。最後に火をかける。イドは周りの警戒を続けて」
「分かった」
「ん」
オレの指示にリアナとセーナ、それとケーシーがオークの巨体を引きずって穴に投げ込んでいく。
リアナが片手でオークを持ち上げて投げ込んだのをみてケーシーが驚いていた。
リアナは戦闘能力が高い訳ではない。でもホムンクルスだから力は人間以上ある。
「リアナ殿も強いのだな」
「戦闘は得意ではありませんけど」
そんな会話が聞こえてくる。
オークやオークが確保していた生きていた魔物もまとめて穴に投げ込んで、ある程度数が揃ったので、油を撒いて火をつけた。
穴はそこそこ深いので、多少強い風が吹いても森に延焼する事はないはずだ。
「さて、ここは広いから野営には向いてるかな」
満月は明日だ。
こんがりしたオーク肉の匂いで魔物が寄ってくるかもしれないが、月齢樹も近いので適している。
月齢樹を野営地ごと柵で囲って防御陣営をひいてしまう事にしよう。
豚A「ぶひぃ! ぶひぃ!」
豚B「ぶひゃ! ぶひゃう!」
豚C「ぶひょーーー!!」




