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25 素材を求める錬金術師③

 騎士団の張ったテントがいくつか散りばめられ、そこに村人が着の身着のまま休んでいた。

 慌てて連れ出されたんだろうなぁ。

 村の人間は30人くらいだろうか? 小さな村のようである。


「錬金術師様、こちらで御座います」

「ああ」


 怪我人の処置はあらかた終わっているようだ。騎士や兵士の人間もポーションによる回復が既に済んでいる。

 死者もいないようだ。何よりである。


「怪我人はあまりいないようですね」

「毒矢を食らい、戦線から引いた騎士と兵士が何名かいます。毒の特定がまだです」

「毒矢そのものはあるかい?」

「地面に落ちた物も何本か回収致しました」

「了解だ」


 基本が出来ているのは素晴らしい。

 馬車からリアナに出てきて貰い、机と魔法陣の書いてある布を広げて貰った。

 持ち合わせのリアナ製の聖水も準備し、魔法陣の中心に矢を置いて解析する。


「蛇の毒だな。こいつの種類は……」


 毒の種類はまず毒の大元の持ち主が分かると早い。

 魔法陣が解析し、いくつも浮かび上がる文字に目を向けつつ保持している魔物図鑑を広げる。

 いくつか条件が合致する魔物がいたので、近くにいた村長さんと村人に質問。


「この辺りでこのヘビは見た事あるかい?」


 図鑑を開くと、何人かの村人が首を横に振っている。成分は近いから解毒は可能かもしれないけど、出来れば完全に判明した方がいい。


「村の狩人を連れてきます」

「ああ、頼む」


 狩人なら村の近くの動物や魔物に詳しい。

 村長や村の狩人、それに森を出入り出来る大人の男性何人かに声を掛けて毒蛇の種類を無事に断定。

 適合する解毒薬が無かったので、手持ちの解毒薬に対応できる薬を数滴垂らし変化させて矢を解毒剤に漬けて効果の確認を行う。

 問題なく作用したことを確認し、使用して毒に汚染された解毒剤を地面に掘った穴に入れて上から聖水をかけた。

 完成した解毒剤は同行シスター(おばあちゃん)に手渡した。

 おばあちゃんシスターはそれを受け取ると、手際よく患者に処方。

 騎士や兵士達の顔色が目に見えてよくなるのが分かった。

 即死系の毒じゃなくて良かったね。


「こんなものかな?」

「助かりました」

「いえいえ」


 頼られるなら人の役にしっかり立つに越した事は無い。

 おばあちゃんシスターが魔力温存状態だったので、リアナが軽症者や体調不良者を診断。

 リアナの笑顔に絆された男性陣が奥さんやらご家族やらにはたかれている光景を見るに、そこまでひっ迫した状況じゃない事が伺える。


 村人たちも落ち着いた事だし、今後の事を考えて疫病対策の薬と魔物に荒らされた場所に散布する消毒液を用意。これが無いと建物を燃やす羽目になるのだ。

 村の人たちに使い方の説明をし、ついでにこっちの要件の質問をする。


「この辺りに月齢樹があると聞いたのだが」

「ええ、御座います。ちょうどゴブリンが出て来る森の方角になってしまうのですが……」


 そう言って地面に村と森、そして月齢樹の位置を木の枝で簡単に描いてくれた。これは助かる。


「この辺りは昔からオークの縄張り、余り安全とは言えませんが」

「そのために腕利きの護衛を雇っております。ほら、あそこで暴れている女性、エルフですよ」

「おお! 神兵との噂もある戦いの神の一族で御座いますか!」


 実際には戦いの神様の種族ではなく、単純に戦闘民族なのですが。

 まあその辺はスルーして森の状況も聞く。


「ゴブリンが大量に出てきているけど、オークはどうなっているんだろう?」

「恐らくで御座いますが、ゴブリンは何かから逃げているようでした。逃げた先がオークの縄張りだった為、横に逸れて森から出てきているのではないか、と」

「何かから逃げたね」

「村の人間がドラゴンを見たと言っていましたので。それかと……しかし本物のドラゴンなど見た事がないので、何か大きな魔物と勘違いしたのかもしれませぬ」

「どちらにしろ、穏やかな状況ではないですね」

「ええ。村の衆もゴブリン程度には負けない戦士達で御座います。ですがそのような巨大な魔物であれば太刀打ちできるかどうか……そこで領主様へ救援の依頼を出させて頂きましたところ」

「何故か王国騎士団が来たのか」


 オレの言葉に村長さんが頷く。

 解毒を終えたが、矢を受けて出血もしたため休んでいた騎士の一人がオレに声を掛けてくれた。


「この領で、自分自身の影に襲われたという噂が流れていてな」

「まさか!? そうであれば……」

「ああ。もしそれが真実であれば、この領も長くはない。本来であれば第4・第5騎士団の仕事なんだが、まだ戻ってないからな」

「魔王軍の残党と戦っている最中ですものね」

「そういう事だ。確認作業に赴く前にこの村の救援に走っていた村人と会ってな。部隊を分けて我々はこちらに、残りは領都に移動している」

「自分自身の影、かぁ」


 やばい、欲しい。


「店主殿、自分自身の影というのは?」

「ああ、貴族達や騎士団にしか知られてないか? 多くの人間の不平や不満が同じ方向に向いていると発生すると言われる『ドッペルゲンガー』という魔物だ」

「魔物なのか」

「ああ。北の領で何度か戦った。昼間は人間の影に潜んで隠れて、影が広がる夜になると実体化し、影の元々の持ち主と同じ形をとってその人間に襲い掛かる。その後で同じ不平・不満を持っている人間に襲い掛かり、朝になるとまた誰かの影に潜む厄介な魔物だ」


 例えば疫病の流行の噂とか、例えば魔王軍の接近の噂とか、例えば領主の圧政への不満だとか。そういう噂が噂を呼び拡大すると発生する魔物である。

 王都側にまでそんな噂が流れれば、噂の内容によっては国が主体となって噂の真偽を確認しなければならない。

 『ドッペルゲンガー』はその噂が晴れるまで、発生し続けるのだから危険なのである。


「欲しいな」

「え?」

「ドッペルゲンガー、すごく欲しい」


 正確には、ドッペルゲンガーの躯が欲しい。


「魔物なのであろう? 討伐されてしまうのではないか?」

「何が原因で出てきているのか分からないが、原因がある程度解消されるまで発生しつづけるからな」


 専門の知識を持ったオレみたいな人間が対応しなければ、単純に討伐しても翌日には復活するのがこの魔物の特徴だ。

 ジジイも欲しがっていたから、ジジイの耳に入っていなければよいのだが。


「その噂は、国王陛下の耳に入られてるから騎士団の皆様が動かれているのですよね?」

「勿論だ。陛下の命令なくば、我らは動かぬ」


 どちらにしても明日が満月、早く月齢樹を片付けて早急に領都に移動しなければならないな。






 夕方になる少し前の時間、イドの活躍もありゴブリンはすべて討伐された。

 消毒液は勝手に使ってくれればいいと樽で村の中心においていき、急いで村を発つ。

 1日余裕があるとはいえ、広大な山林に向かうのだ。月齢樹の場所まで行くことを考えると時間に余裕があるわけでは無い。


「ライトロード、このままこちらに残ってはくれまいか?」

「申し訳御座いません。この機会を逃すと、次に採取できる保証が御座いません。それほどに貴重な薬の材料なのです。人の命に関わる話故、閣下のご命令でも聞くことは出来ません」


 はっきりと断っておくのが大事だ。

 人の命を蘇えらせるのに関わる薬。教会と敵対する可能性もある薬だが嘘ではない。


「そうか。護衛を付けるか?」

「その方がイドよりも強いのであれば喜んで」


 オレの言葉に頬をひきつらせるグランベル閣下。

 エルフより強い護衛じゃないと役に立たないよーって言っているのだ。

 確かに気分は良くないだろう。


「それでは御前、失礼致します」


 挨拶もそこそこにオレは馬車に乗りこむ。御者台にはセーナとイドだ。

 イドとケーシーの馬は村に預けて、ここからは馬車1台で山に向かう。

 馬車で行けるところまで行って、そこから先は徒歩だ。

メイド服は戦闘服

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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