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24 素材を求める錬金術師②

「平和ね」

「それが一番じゃない」


 オレが馬車の御者台に乗り、リアナとセーナは馬車の中だ。

 左右には乗馬したイドとケーシーさん……ケーシーだ。一緒に旅に出るならと口調は楽にしてくれと言われたので呼び捨てで呼ぶことにした。


「まさかケーシーがついて来るとは」

「ギルマスからの依頼だ。それに店主殿には借りがある」

「普通に仕事を受けただけなんだがなぁ」

「ジェイク殿の例もあるし、末永く付き合っていければと思っているんだ」

「わたしがいるから問題ないのに」


 不満気な声を出すのはイドである。


「それは出る前にも話したであろう? 3人を1人で守るのは……イド殿であっても容易ではあるまい」

「問題無い」


 ギルドでひと悶着あったのが、護衛が1人では問題だということだ。

 いくらエルフのイドの強さが保障されているとはいえ、野営中の見張りや魔物の集団に出会った時には1人では手に負えない場面が来るかもしれないという懸念。

 本当はもう1パーティくらいつけるべきだと言うのがギルドの見解だった。

 人数が増えれば、その分移動速度に支障が出る。今回は満月の夜が来る日までに目的地に付かなければならなかったのでそれは却下させてもらった。

 冒険者ギルドのギルドマスターであるスピードリーを説得し、ケーシーの同行のみに踏みとどまらせた。


「今回の素材は、絶対に入手しないといけないからな」


 素材は死者の蘇生に使うアイテムの素材だ。満月の時にしか取れない以外は難易度は高くない。だが一度逃せば次に獲得出来るのは1カ月後。秋や冬になると素材の入手量が極端に減るからあまり逃したくはない。


「でも、食い扶持が増えると食事の量が減る」

「や、めちゃくちゃ買い込んだよな? 食料」

「増えた分だけ、わたしは食べたい」

「我がまま娘め」

「いい女でしょ?」

「意味が分からないが……」

「エルフは健啖家が美人の条件」

「そうなの!?」

「そう。それと腕っぷし」

「そっちは何となく分かるわ」


 良く分からない種族である。


「ん、前方に待ち伏せの気配」

「お?」

「人間、盗賊か?」

「エルフのイド殿がいるのに、剛毅な事だな」

「見えてないんじゃ?」

「それもあるか」


 この距離ではエルフの特徴である尖った耳を認識出来ないかもしれない。


「どうする?」

「わたしが先行する。わたしを見れば多分逃げる」

「逃がすのか?」

「倒しても食べれない」

「そうっすか」


 イドが馬に合図を送ると、早足に前へと進み出る。

 それに伴いこちらはペースダウンだ。

 挟み撃ちを警戒すると言い、ケーシーは馬車の後方に移動。この辺の動きはプロっぽい。

 イドが弓を使い矢を放っていた、その後手を挙げてこちらに合図を送る。

 問題無く通れるようだ。


「逃げたか?」

「だろうな」


 相手はエルフだ。オレも逃げる。


「しかしこちらの領は盗賊が出るのだな。珍しいとは言わないが、王都に近い領なのに荒れているとは」

「税が高いんだよなぁ。アリドニアに来るときに通ったけど、通行税も高いし食料品も高かった。そのせいで宿代も高いし」


 ジジイの命令書と言う名の紹介状が無かったら、街を通過する時にもっと金をとられていたかもしれない。


「あまりいい領ではないのだな。しかし、そんなところにも店主殿は向かうのか」

「素材は場所を選んでくれないからね」


 人間の都合で引かれた国や領の境界線など、動植物にも魔物にも関係が無いのだ。


「盗賊はアジトが近いと問題だな」

「殲滅するか?」

「必要な時に頼むよ」


 そんな事を話しつつケーシーと共にイドと合流。


「討伐完了」

「お、おお」


 適当に威嚇して散らしただけかと思ったが、しっかりと殲滅していたご様子。

 盗賊と思われる人間が3人倒れていた。


「エ、エルフだと思わなかったんだ! 勘弁してくれ!」

「畜生! もっと早く逃げ出せば良かった!」


 倒れている3人のうち1人は絶命している様子。残り2人は足に矢を受けて地面に転がっていた。


「盗賊は悪」

「そうだな」

「そして盗賊は宝箱」


 鼻をフンスと鳴らしてイドは嬉しそうに言った。


「ひいいいいい!」

「まあお宝を蓄えている盗賊はそうはいないけどなぁ」

「金はそこそこ持っている事が多い。それと装備や魔道具」

「まあなぁ」


 金品は消費されずため込まれる事が多い。連中や連中の蔓延るエリアでは装飾品などの貴金属は換金しにくいのである。

 それと護衛の武装した人間の装備品。盗賊たちがそのまま使う事も多いが、鎧などは体型の関係上使用出来ない事もあり、そういったものが保管されているのである。

 しかも鉄製の装備品は装飾品と比べると売りやすい。

 魔道具は鑑定して買取するのオレだよな?


「それで、アジトはどこか聞いたか?」

「これから」

「余り時間はかけないでくれ」

「こいつら次第」


 イドは倒れた二人の盗賊の足から矢を引き抜く。


「「 ギャッ! 」」


 連中の上着の袖を破って足に縛り付けた。止血のつもりだろうか。

 そのまま黙々と両手を縛りロープを結んで、オレの馬車の後ろにロープを括りつけて満足そうに頷いた。


「イドさんや?」

「大丈夫、拷問は得意」

「や、お二人とも泡吹いておりますが……」


 立ったまま。


「慈悲は無い」

「や、いらんけど」


 イドが自信満々に言うのでそのまま馬車を動かす。

 馬車の後ろで軽い悲鳴が聞こえた気がするが気にしないように。

 てか泡吹いてたのに意識戻ったか?






「ああ、見えて来たな」

「でも少し様子がおかしい」


 盗賊とおぼしき連中を捕まえた翌日、目的地に向かう途中で立ち寄る予定だった村が見えてきた。

 だが、どうひいき目に見ても戦闘中だ。

 しかも騎士団と……ゴブリンか。


「そこの馬車! 止まれ!」


 村から馬に乗った騎士がこちらに走ってきた。

 面倒事の匂いがするが、大人しく指示に従う。


「エルフだと?」


 イドを見て眉を顰める騎士。まあ滅多に会える相手ではないからねぇ。


「騎士様、何事でしょうか?」

「お前達こそこの村に何用だ? 通知は見ていなかったのか?」

「通知?」

「近隣の街や村に、討伐隊の通知を出しておいたはずだ」

「え? 見た?」

「見てない」

「そもそも近隣の街や村によってないではないか」


 そうだった。変な村に寄っても夜盗に襲われたり無駄に金を要求されると思ったのでスルーしていたのだった。


「錬金術師のライトロードです。素材回収とその情報収集に来ました。この二人はS級とB級の冒険者の護衛です」


 怪しげな視線を受けたので早々に自己紹介をして騎士に身分証明書を提示する。


「お前達だけか?」

「馬車の中にあと2名います。平民で冒険者でもないので、クラストの街の住民書しか持ち合わせていませんが」


 ギルフォード卿のとこの執事さんに発行してもらった物だ。

 というか、この騎士もなんでこんなところにいるんだ?


「王都の騎士様がなぜこちらに? ここはセインドル領かと思っておりましたが」


 掲げている旗が国の第3騎士団だっけか? の物だ。

 王領の守護をメインとしている部隊だったはず。

 第1騎士団が城を中心とした王都の守護部隊、第2が王領で第3が魔物討伐の専門部隊だったはず。

 各領には領主の領軍、騎士団と兵士の混合部隊がいるはずだ。


「こちらの事情だ。それよりも現在この村では我ら騎士団の作戦行動中だ、ご遠慮願いたいところだが」

「魔物に襲われているようですね。村人に生き残りは?」

「何とか間に合ってな、今は騎士団の防御の陣の中だ」

「ではそちらに参りましょう。聞きたい事がありますので」

「案内しよう、それと……後ろの2人は?」

「あ、忘れてました。そっちで世話して貰えます?」


 馬車の後ろには盗賊がくっついていたんだった。

 訓練された騎士達、ゴブリン程度なら物ともしない様子だ。

 ただ、村の中に入りこまれると厄介である。

 先日、うちの領に出たゴブリンの残党だろうか?


「旅人を案内してきました」

「そうか、後ろのは?」

「途中で確保した盗賊だそうです。引き渡しも求めております」

「分かった。そちらは……まあ問題なさそうだな」

「ええ、そう考えられてよいかと」


 案内の騎士の人が更に偉そうな騎士に声を掛ける。偉そうな騎士はイドの顔を見ると顔をひきつらせつつも、オレらを受け入れる事を決めてくれたらしい。


「エルフを連れられている所を見ると、何か重要な案件でこちらに参られたのですな?」

「オレ、私の護衛です。クラストの街の錬金術師、ライトロードに御座います。錬成に必要な貴重な素材の回収に足を運びました。連れは冒険者2名と従業員2名でございます」


 身分証明書の提示。


「Aランクであるか! っと、すまん。ダランベール王国第3騎士団特別遠征部隊、代表のグランベル=モード公爵である。錬金術師であるならば薬を売ってくれぬか? 不足している訳ではないがゴブリン達に家を荒らされている者がいて、病魔の発生の危険がある」


 なんと王族の方でした。会った事無い人で良かった。きっと直系の方ではないのだろう。

 馬車の御者台から降りて臣下の礼を取る。

 ダランベールの名を名乗らない事から、王位継承権からは遠いか辞退された方なのだろう。


「そういう事情であればお手伝いできるかと思います」

「楽にしてよい。同行しているシスターへの負担が思ったよりも多くて参っていたのだ」


 騎士団の遠征には色々と人が同行する。教会のシスターもその一人であろう。

 シスターではないが、リアナが同じような事が出来るので手伝わせることが可能だ。


「あちらのテントですか」

「ああ、薬は会計係を向かわせるから現地の村長と相談する形になる。料金はこちらで支払おう……後日支払いは可能か?」

「契約書を作ってもいいのであれば」


 口約束なんてあてにならない。


「問題ない。それではシスターのフォローを頼む。ああ、馬車のままで行っても構わない」

「了解しました。イド、適当に暴れてきて。ケーシーは引き続きオレの護衛を頼む」

「ん、体を軽く動かしてくる」

「分かった」


 ゴブリンの数はかなり多そうだ。多少手を貸して恩を売っておこう。

 それにイドは村人に怖がられる可能性があるから、戦場に出しておいた方がいい。戦いに出たエルフほど頼りになる存在はいないのだから。


「それと閣下に世間話を少々」

「む?」

「先週、いや。もう先々週かな? アリドニア領クルストの街の東、広大な森でゴブリンロードが発見、討伐されました」

「誠か!」

「ええ。その際に多数の上位種も確認されております。現在アリドニア領主、ソフィア=アリドニア様主導で残党のゴブリン討伐作戦が継続されております。相当数のゴブリンが討伐されました。私も魔道具の提供やポーションの供給で協力させて頂きましたので百を超えるゴブリンの群れをこの目で見ております」

「そうであったか」

「残党の可能性が考えられます。ロードは既に討伐されておりますが、ゴブリンの集落などは見つかっていないそうで、領軍の中の騎士達が森を何度も捜索しております。こちらからはかなり離れておりますが……」

「そちらから逃げ出したゴブリン達であったかもしれぬ、か」

「私もそう考えます。最初に確認されてから、日数が経っておりますので移動も可能かと」


 何か考える素振りを見せるグランベル卿。


「良い情報であった」

「いえ、お力になれたのであれば何よりであります」


 さて、シスターさんとやらの力になりに行きましょうか。


閣下はナイスミドルなイメージ

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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