23 素材を求める錬金術師①
「結局、月見草の問題も解決しなかったし。そろそろ満月だ。素材の回収に出かけたいと思う」
「はい、マスター」
「いいわよ? いつ出るの?」
「明日から、長くても1週間くらいかな」
「お弁当の準備しないと!」
「お店に告知文と、教会へご挨拶をしないとですね」
確かに。冒険者以外の怪我人や病人は滅多に来ないが、ギルドに近いここが使えなくなると教会に患者が集中するだろう。ポーションなどの薬品類をいくつか納めておこう。
そんな夕飯時にリアナとセーナに言うと、イドがフォークをお皿に落下させた。
「わ、わたし、の、ご飯、は?」
「1週間分のお食事、用意しておいてもいいですけど……どこか宿に泊まられては?」
不安そうな言葉を口にするのはセーナだ。
うん、オレも3日で食事が消える未来しか見えてこない。
勝手に店に出入り出来ない様には出来るが、イド一人でお店も任せられないのに出入りしていると勘違いする人が出るかもしれない。
「セーナのご飯が、ちゃんと食べたい」
「あ、えっと」
「セーナのご飯が美味しい」
「あ、ありがとうございます」
セーナが照れた。他人相手には珍しい。
「仕方ない、わたしが護衛する。一緒に行けば食べ放題」
「や、限界があるからな?」
「セーナのご飯、野営バージョンに期待」
「頑張らせて頂きます」
食料品を多めに買っておいたほうがいいような気がしてきた。
オーガの里に行って家畜をいくらか分けてもらうか?
「でもSランクの護衛を雇うのはなぁ」
そんな難易度の高い場所にいくつもりはないのだが。
「ギルドでも街の貴重な錬金術師を危険に晒すのは良くないと言うはず」
「そんなもんかねぇ」
「街から出て、そのまま戻らない人間も多い。監視役も必要」
「そこまで縛られる云われは……あるな」
土地の貸し出しの優遇や準備金、それに一部の免税などなどかなり好条件で住まわせて貰っていたのを思い出す。
「でも出かけるなら護衛が必要……リアナは知らないけど、セーナの戦闘力では心もとない」
「セーナは対人戦のが得意だからな」
イドに負けたので何とも言えないが、セーナの戦闘能力は魔物戦よりも対人戦や探索向きなのである。
クラスメート達は魔物など物ともしない連中だったが、人間が相手となるとどうしてもブレーキがかかってしまうのが現代人の弱点だった。この世界ではそれが致命的であった。そこでセーナには室内や街中でも戦えるよう、様々な武具の扱いに精通していた【バトルマスター】の南明穂と罠探知や探索能力に秀でた【大盗賊】川北栞の特徴を用いて作ったホムンクルスだ。
「魔物相手では不利」
「不利ってほど不利じゃないわよ!」
「わたしより弱い」
「むうっ」
「セーナを作ったのはオレなんだから限界があるよ。セーナも気にするな。お前は弱くないとオレは思うし、弱いとしたらオレのせいだ」
「ご主人様……」
クラスメートの純戦闘職の連中と同じくらい強いのがエルフだ。あいつらと同じくらい強いホムンクルスなんてオレの技能では作れない。
まあ装備で色々誤魔化せばいけなくもないけど……色々誤魔化した結果ゴテゴテの戦闘マシーンと化すのでやらない。
「フルアーマー・セーナを見せてあげたいですわ!」
「フルウェポン・セーナよ」
「気になる」
「気にするな」
【上位魔力回復薬】を大量に使用するから燃費が悪いのである。
「それはそれとして、護衛する。報酬は一般的な額でいい」
「まあ、それならいいか?」
「わたしがいた方が、街からも出やすい」
「そういうもんか」
確かに、森に行ったときやケーシーさんの剣の試し斬りの時も街から出るのに渋られた記憶がある。
冒険者以外の人間の出入りに、街の兵士達も敏感になっているのかもしれない。
しんしょうしんしょー♪




