22 錬金術師と不足気味のマナポーション⑥
「亀かぁ」
「首領石トータス。Bランクの魔物」
「いや、いくらなんでも試し切りで相手を取れる魔物じゃないのでは?」
「その剣でならいける」
自信満々にイドに連れて来られたのは、街の西側。近くの山への道に続く広大な荒野だ。
こちら側は大地が硬く、農耕に適さない土地なので開発もほとんどされていない。
凶悪な魔物はいないが、厄介なこの亀がいるので宿場町なども作りようがないのだ。山の麓まで行けば山の資源を回収するべく鉱山の街があるが、あまり人の通りの多い場所ではないのである。
「首領石トータスって剣で倒す魔物じゃないよね?」
「どうしても倒したい場合は、地面に穴を掘ってそこまで転がせて火あぶり」
「そうだよね……」
大きな陸亀だ。丸みを帯びた背の甲羅がいかにも頑丈そうな立派な亀である。
首領石トータスの甲羅は鉄よりも硬く、刃物が通るような代物ではない。
見た目以上に動きが鈍足なので、炎で窒息させて倒すのが確かに一番の近道に見える。
甲羅は硬いが動物素材なので、熱での加工が困難である。鉄と違う為、溶鉱炉で溶かすことが出来ず、溶鉱炉レベルの温度で熱すると熱に負けて割れて粉々になってしまうのだ。
専用のハンマーやヤスリで成形することは出来るが、時間がかかる上に強度が落ちる。
「でもそのまま盾として使っている冒険者がいるくらい硬いんだよな」
錬金術師としては弄り甲斐の無い素材だ。
「骨で出汁をとると美味しい」
「初耳だわ」
料理で使う考えはなかった。
「卵なら解毒剤の一種になるらしいね」
「卵は美味しくない、生だとお腹を壊すし茹でても苦いし。目玉焼きにしても苦い」
イドからの情報が食品としての情報しか出てこない。
「だが、斬れるのか? いや、店主殿に借りたあの剣でなら行けるだろうが」
「あれを基準に考えてはいけないぞ? あれは素人が適当に振っても鉄くらい斬ってくれる」
「試してみるべき」
この辺で最も硬い魔物がこの首領石トータスだ。こいつに通用するのであれば、この辺りの魔物すべてにこの剣が通用すると言う事だ。
「店主殿」
「大丈夫だと思うよ」
普通に振るっても切り込みくらい入れられるだろうし、魔力をある程度込めれば問題なく斬れるはずだ。
「店主殿がそういうのであれば、試してみよう」
ケーシーさんが剣を構えると、首領石トータスがその気配を感じて手足と首、尻尾を閉じ込めた。
更に体から灰色の魔力の波が全身に生まれる。
全身の防御力を上げる硬化魔法だろう。
こうなると、普通の刃物はおろか斧やハンマーでもビクともしないらしい。
「では、行くぞ!」
「あ」
ケーシーさんが剣に魔力を込めて構える。
そして上段から真っすぐ剣を振り落とした!
イドとオレの前に慌てて浮遊する絶対防御を浮かせて防御態勢を取らせた。
「すごい……」
イドの呟きが、発せられた熱量にかき消えていく。
いや、魔力を込め過ぎた。
「はあっ、はあっ!」
振り下ろした剣の姿勢のまま、肩で息をするのはケーシーさん。
その前には真っ二つになる絶命した首領石トータスと……。
「やりすぎだ」
大きく切り開かれた地面であった。
「す、すごいな店主殿!」
「普通に切ればいいのに……なぜ必殺技を」
「さ、最大威力を試してみたくて」
そう言ってマナポーションに口を付けるケーシーさん。
準備がいいことである。
なんとなく爬虫類を巨大化させたくなる