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01 街に降り立つ錬金術師①

 アリドニア領、領都。

 領都だけあって人が多く、その分入場に時間がかかってしまった。

 まあ魔王軍との戦いが終息した後だ、色々と人の動きも活発になっているからしょうがない。

 ジジイの言いつけ通り、領主の館まで魔導馬車をゆっくりと走らせた。

 城ではないが、でかい屋敷が見えてるし、ジジイの貴族紋と同じものが屋敷にはってあるから間違いないだろう。


「すいません、ゲオルグ=アリドニア様よりご紹介を受けました錬金術師のライトロードです。ご連絡をして頂いてもよろしいでしょうか」


 領主とは勿論貴族だ。いきなり会わせてくれと言っても会えない。

 先触れの手紙や使用人を使うのが通例だ(城でいっぱいもらった)

 馬車の御者台から降りつつ、領主の館の番兵にその旨を伝える。


「む? 先々代様からか? 珍しいな……」

「紹介状もあります」

「この紋章は、当家の物で間違いないな。馬車はお預かり致します。領主様のご予定を確認致します」


 ジジイの手紙は問題なく効力があるようだ。

 こうなると、オレは領主様のお客様になるようで屋敷に入ってすぐの比較的豪華な部屋に通された。


「ようやく来たな、錬金術師」

「はい?」


 紅茶を貰いながらくつろいでいると、燃えるような赤い髪をした綺麗な女性が部屋に入ってきた。

 流石に家の中ではドレス姿ではないようだが、ピシっと決まったその仕事着からスタイルの良さも伺わせる。

 すっげー綺麗な人だ。キラキラエフェクトと後光がさしているレベル。


「おじい様の紹介状を見た、ウチの領で商売をしてくれるそうだな」

「…………」

「おい、どうした?」

「あ、すいません。ゲオルグ様のお孫様なんです……よね?」

「非常に遺憾ながら、そうだ」

「あはははは」


 スーパー似てない。ジジイ小さいし髪も真っ白だし。

 あのジジイ、孫にもセクハラしとるんか?


「魔王軍の侵攻の際、ウチからも従軍して錬金術師が何人か連れていかれたが……その補充で間違いないんだな? お前さん、」

「はい、そのようにゲオルグ様から聞いております」

「……そうか、失礼ながら会員証は?」

「こちらです」


 懐から錬金術師ギルドの会員証を出して軽く魔力を走らせる。

 錬金術師は全員魔力持ちの為、会員証には本人確認の機能が付いている魔道具でもあるのだ。

 薬を扱い怪我人や病人を看る事もある以上、錬金術師という存在はギルドによってある程度管理されている……と教えて貰っている。


「【A】ランクか。おじい様も奮発してくれたな」

「あはははは……」


 やはり高ランクのようだ。

 オレは真面目な顔に表情を作り直し、椅子から立ち上がって改めて挨拶をした。


「ゲオルグ=アリドニア様のご紹介により参上致しました、凄腕錬金術師のライトロードで御座います、伯爵様」

「領主のソフィア=アリドニアだ。ソフィアでいい。しかし凄腕と自分で言うか。まあ座ってくれ、事務的な話をしよう」

「はっ、ソフィア様」


 ソフィア様が席を勧めてくれたので着席をする。

 ここでは目上の人より先に座るのがマナーらしいです。先に偉い人が座ると切りかかって来られると危ないからだとか。その考えに至るのが危ない。


「本当ならウチのジジイの工房があるここで仕事をしてもらいたいんだが、ここから離れた街で錬金術師が足りてなくてな、そっちで働いて貰って構わないか?」

「そちらには冒険者ギルドがありますか?」


 無いと薬草や魔物素材といった物が手に入りにくい。


「あるぞ。ダンジョンも近いから腕のいい冒険者が多い、だが腕のいい錬金術師がいなくなってしまって冒険者達が少し離れ始めている。お前さんの腕がよければ人も戻ると思うが」


 冒険者達は命掛けの仕事をしている、質のいい回復薬や便利な魔道具が無いと生存率が落ちてしまう。


「冒険者ギルドがあれば素材は手に入りますからね。多少時間がかかるかもしれませんが、少なくともこれ以上の流出は防げるんじゃないかなと」


 一般的な冒険者が必要とする回復薬なら素材さえあればいくらでも作れるからね。


「頼もしいな、助かるよ。錬金術師が住んでいた家に入るか?」

「いえ、他人の使っていた設備は魔力の波長が合わない可能性もあるので。土地さえ頂ければこっちでなんとかします」

「そうか! 助かる。場合によってはそこに住んでいる家族を追い出さなきゃいけなくなるからな」


 ああ、錬金術師がいなくなってもご家族が残ってる事があるのか。


「ダンジョンも近くにあるのであれば条件はかなりいいですね」

「海も近いし大きな森もあり、条件はいいのだ。だが腕のいい錬金術師は国や貴族に抱えられていることが多くてな。おじい様でもその辺の事を無視して人をこちらに寄こせないと言っていたんだ。まったく。国一番の錬金術師の権威だというのに」


 まああの人、実際は【ビルダー】だから錬金術師ではないけど。


「だがAランクの錬金術師をこうして寄こしてくれたんだ。感謝の手紙でも送ってやらねばならんな。ここまでの道中はどうだった?」

「王都からは遠いので、結構時間がかかりましたね。盗賊なんかもいましたし」


 ここからは旅人としての領主に報告だ。ジジイにも言われてた。

 盗賊の出る街道や夜盗の類が出る町や村の情報に領主達は敏感らしい。世間話をしつつ色々な情報を交換した。

 城では綺麗でも近づいちゃいけない類の人が多かったから、綺麗で話の分かる人との会話はなんか新鮮だった。




「今日は泊まって行くといい。向こうの街を治めている町長にも紹介状を書かないといけないからな」

「有難うございます、ご厚意に甘えさせて頂きます」


 ソフィア様から歓迎を受け、豪華な部屋をあてがわれたのでゆっくりする事に。

 とは言っても、自作したテントの方がゆっくりできるけど。

 貴族の部屋でテントを張る訳にもいかないので、お部屋の設備でリラックス。

 ジジイの残していった錬金術の本がいくつもあったので、それを読ませてもらったりも出来た。

 そして翌日は朝から出発する事にする。

 オレの行く予定の街まで、ここから1週間はかかるらしいからだ。まあオレの馬車なら早く着くけど。


「この手紙を町長のギルフォードに渡すといい。土地や使用人も用意してくれるはずだ」

「有難うございます。まあ使用人は……大丈夫です」

「そうなのか?」

「錬金術で使う素材の中には危険な物もありますから、基礎の知識が無い者を近づける訳にはいきません」

「なるほど」

「使用人は後程合流しますから大丈夫ですよ」

「そうか、すまんな。知らずに手紙に書いてしまったよ。そっちで上手く伝えてくれ」

「はい、お世話になりました」

「こちらこそだ、いくつか【上級回復薬(ハイポーション)】も貰えたしな」

「泊めて頂いたお返しです」

「正直助かるよ、決して安いものじゃないから」

「気にいって頂けたらご注文下さい。次からはお金を貰いますので」

「商売上手だな、Aランクの錬金術師殿ならばそのような事をせずとも客はくるだろうに……ライトロード、君には期待している。何かあった時には連絡をくれ」


 ソフィア様が握手を求めてきたので、それに応じる。


「ええ、落ち着いたら顔を出してよろしいですか? ジジイ……ゲオルグ様の著書で読んだ事のない物がいくつかあったのでそれをまた読ませて頂きたいです」


 生命に関する調合の考察のレポートなんかもあったからしっかり目を通しておきたい。


「ああ、いつでも来てくれ」

「はい、それでは失礼致します」


 きっちり挨拶を交わすと、馬車の御者台に乗り込んで馬を歩かせる。

 領主だけでなく、使用人の方々にも見送られたのでゆっくりとだ。

 新しい街、楽しみだな。

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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