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18 錬金術師と不足気味のマナポーション②

「【魔力回復薬(マナポーション)】がない?」

「はい、マスター」


 お店の準備はあらかた終わったようだが、いくつか足りない売り物があった。

 その一つがマナポーションである。


「あんなにいっぱい作ったのに」

「あ、あれはリアナ達の分ですから!」

「セーナが貰ったのよ 他の人になんか売るもんですか!」

「ああ、そういえばそうだった……」


 クラスメート達が帰って、しかたなく王都に帰った時にリアナとセーナと別行動になっていた。

 その間直接魔力の供給が出来なくなるからオレが個人で使う分のマナポーションを除いて、残りのマナポーションは二人にあげたのだった。


「マスターがどうしてもと言うのであれば……どうしてもというのであれば手放しますが」

「ご、ご主人様が困るなら、セーナ我慢する」


 この世の終わりみたいな顔をしないで欲しい。


「仕方ない、作るか。てか魔草も足りないよな」


 二人の為に魔草をありったけ使ってマナポーションを作ったから。


「ちょっと向こういってくる」

「お供します」

「いらないいらない。お店作っておいて」


 手をひらひらさせて地下へと続く階段に。あ、酒樽いくつか持ってかないと。手提げに入れておこう。

 階段を下りたらすぐに1枚の扉だ。この扉は魔力を登録してある人間にしか使用出来ない扉だ。

 中に入ると廊下が伸びており、左右に扉がいくつも並んでいる。

 その扉は過去に冒険した際に世界中に作った隠れ家への転移魔法陣となっている。どこでも的なドアだ。


「オーガの島っと」


 扉に目的地をちゃんと書いてあるので、間違える心配はない。

 何気に世界樹の隠れ家にも繋がってるから、イドを里帰りさせる事も可能だ。

 扉を開けると、同じように廊下に出る。ここは一本道だ。

 オレの工房が中心なので、こちらには工房へ続く扉しかない。

 やはり地下に作ってあるので、廊下を抜けて階段をあがるとそこは工房と比べると小さな一軒家。

 特に用はないのですぐに外に出る。

 外に出ると、海の臭いが鼻をくすぐる。


「みんな、久しぶり」

「おひすしぶりっす、道長様」

「おっさすぶりです!」


 家の外は海に囲まれた広い島である。

 オレに気づいて駆け寄ってきたのは、赤い肌と筋肉質な大きな体。そして頭に角の生えた種族、オーガ族だ。

 人族の一種だが、魔物のオーガと見た目の区別がつかない種族である。

 魔物と間違えられる事が多く人族との諍いが多い為、人里でその姿は見ない。

 ここは彼らの祖先が移り住んだオーガだけの島だ。

 ビーストマスターの篠崎宏美と心を通わせたドラゴンの依頼によりたどり着いた孤島。

 ダランベール王国のある大陸とはかなり離れているし、海には陸上以上に魔物の種類が多く危険だ。船を出す人間もいない為たどり着く事はほぼ不可能。

 オーガ達も緩やかではあるが、衰退の危機に瀕していたし、いっその事自重せずに開拓してしまおうと色々やった。

 彼らが安心して住めるように、村の建物の強化と村の安全性を高める柵の配置。

 稲作や野菜の栽培、薬草や魔草の栽培なんかの農業。

 凶暴性を減らし、品種改良した牛の魔物やイノシシ、鳥の魔物の畜産。

 安全に海に出れるように改良した船と、強力な魔物が入り込めない様にしつつも弱い魔物の侵入を拒むことのない特別な結界で囲った入江と近海。

 島に突如現れる魔物と戦うための武具の提供などなど。

 結果として、江戸時代の後期クラスの文明レベルになっている。


「魔草、あるかい?」

「ええ、しっかり育ってぇますべさ。すばらく取りに来らんてなかったで、かんなり上質になってますっぺ」


 オレが来たことに気づいたオーガ達が、こちらによってきた。


「今日は泊まれるんで? ハクオウ様にも会っていって下さいよ」

「泊りは無理だね。ハクオウが戻って来てるのか?」

「ええ、お土産に巨大な魔物を貰いますだ。解体するのが大変で嬉しい悲鳴を若いのがあげてます。必要あんば持って帰ってください」

「ありがとう。これ、いつものね」


 街であらかじめ買っておいたワイン樽を3つほど置いておく。


「おお! ありがたいっ! よーし、今日は宴だべ!」

「「「 おおー! 」」」


 ここでは基本物々交換だ。お金なんて概念がない。

 色々世話をした結果、こちらの欲しがるものをなんでも渡そうとする信者のような存在になってしまったので、なるべく彼らの欲しがるものを渡すようにしている。

 まあ酒だ。

 連中は昔から稲作しかしていないので米酒しか作れない。

 島の森の中には酒の材料になる木の実や果物があるが、森に入るのは狩りが目的だ。酒を造れる量の果物など持ち帰る事は出来なかった。

 あまり贅沢品を渡すのも、彼らの為にならないと大神官にして生徒会長の時巻小太郎が言っていたのでお土産は大人の為に度数の高いお酒、子供の為にジュースを渡す事にしている。

 たまに調味料も。


「そいつは任せるよ。魔草は畑1枚分くらいで」

「わかりました! おいっ! 酒は夜だ! 道長様に魔草を準備すんべ!」

「「「 おお! 」」」


 オーガ達は体が大きく声もデカイ。

 そんな時に空から影が落ちた。


『道長、よく来たのじゃ』

「ハクオウ、久しぶり」


 オレが視線を上にあげると同時に、空から声が降ってきた。

 そこにいたのは真っ白の鱗が輝く、美しくも超巨大なドラゴン。

 白竜のハクオウだ。






 ハクオウが村に降りると畑や家を踏みつぶしてしまうので、村の外れに移動して降りてオレを待っていてくれた。


『道長、今日も取引かの』

「ああ。お前がこの村を守ってくれるおかげだ」

『世辞はよい、オーガはもう立派に独り立ちしておるからな』


 確かに食事の供給も安定した。病が流行るとかが無ければ彼らだけで生活も出来るだろう。

 絶滅に瀕していたからどうしても人数が足りていないが、海や森で魔物と戦う機会も減ったし、武具も強力な物を渡したので以前より被害は少ない。

 即死さえしなければ、オレの【最上級回復薬(グランポーション)】で助かるしね。


『リアナに聞いた。やはりヒロミはもういないのだな』

「……無事自分の家に帰れたみたいだよ」


 学校から全員帰宅したと、女神様が教えてくれた。

 それ以降を視る気はないとのこと。


『そうか、人は本来の住処に帰るべきじゃ。いい事だの』

「そうだな」

『お前は仮初の住処と言っていたが、お前の作った家もヒロミの大事な家だったのじゃろう。色々自慢されたのじゃぞ』

「そりゃ悪かったな。お前の寝相が悪くなければ招待するんだがな」

『はは、いまだ練習中だ。100年ほど待つのじゃ』

「100年たったらオレが死んでるよ……」


 言葉を操る竜は生物として上位の存在だ。人に化ける事も出来る。

 集中力が途切れて竜の姿に戻るときがあるから、危なくて家には入れられない。

 家が壊れるならいいが、世界樹で作られたウチの工房で元のサイズに戻ろうとしたら家の中で圧死してしまうからだ。


『どれ、修行の成果を見せようか』

「や、元々普通に出来るだろ……」

『ふ、我は常に進化する生き物ぞ』


 ハクオウは顔を持ち上げ空を見上げると、体を光らせる。

 体が徐々に小さくなり、その白い体が収縮していく。


「どうじゃ!」

「どうじゃ、じゃない。服はどうした」


 何着かあげたじゃないか。


「汚したくないし破りたくないのじゃ」

「気持ちは分かるが着てくれ」


 オレの前で全裸で腕を組むのは、白く長い髪を腰まで伸ばした長身の男である。

 オーガの里の中では小柄な方だが。

 とりあえずバスタオルを渡す。

 人化しても尻尾が残る為、バスタオルでは隠しにくい。


「お、頭」

「クハハハハ! その通りじゃ! 我はとうとう頭の角を隠す事に成功したのじゃ!」


 今までは頭に2本の角が残ってしまっていたのだ。

 それが今はきちんと消えている。


「ふ、次は尻尾じゃな」

「寝ながら元に戻る癖は?」

「ふ」


 遠い眼をしている。

 まだなんだな?


「角や尻尾より先にそっちを片付けないとお泊りは無理だな」

「風呂は我慢できるようになったじゃぞ!」

「そりゃ何よりで」


 寝てる時以外にも、温泉でリラックスしてると気を抜いて元の姿に戻る事がある。

 そのせいで何度もオーガの里の温泉を壊しているのだ。

 一緒に入ったオーガの男達に何人か怪我人も出たのである。

 オレが見た中でこの里で、一番の怪我人が出た瞬間である。スーパー厄介だ。


「何枚か生え変わりがあった。オーガ達に渡してあるから持って帰ってくれ」

「ああ、鱗ね。いつも悪いな」

「気にするでない。宏美の望みであるし、何より手間がかからん」


 上位種のドラゴンの素材は入手したくとも簡単に入手できる物ではない。鱗もそうだが、たまに角や爪を研がせてもらって爪の粉をもらったり、生え変わった牙を受け取ったりしている。

 武器の素材に出来たり、薬の素材にもなる。とてもありがたい存在だ。


「さて、今日の分だな」


 勿論タダで貰うのは気が引ける。ハクオウにはお菓子や料理の大量に入った魔法の袋を渡す。

 逆に空になっていた以前渡した魔法の袋を受け取った。


「また菓子か? そろそろ酒が欲しいのじゃが」

「酒癖悪いからダメ」

「むう、酒は気持ちいいのじゃ」

「覚えているの序盤だけだろ……」


 こいつ、お酒は好きだがめっぽう弱いのだ。竜の姿に戻ってゴロゴロ転がったり、ブレスを突然撃ちだしたがるから絶対に酒は飲ませられない。

 オーガの連中と友諠を結んでいるのが不思議でしょうがない。


「何か変わった事は?」

「この島では特に。じゃが、人間の住んでいる大陸は気を付けた方が良いのう」

「どういう事だ?」

「魔王が死んだ時に、その強大な魔力が世界を覆ったのじゃ。かなり消費されたようじゃが、魔素溜まりになっている場所がいくつかある。強力な魔物が生まれかねんの」


 オレを元の世界に戻すのに使ったり、傷ついた世界樹の再生に使ったと女神様が言っていたが、それが全てでは無かったらしい。


「特に海中はすごい。あまり海に潜らない方が良い」

「ほとんどの人間は海に入る習慣はないから安心しろ」


 一部の漁村は海に入るらしいが、それでも近海だけだ。

 貿易等で海路を使うのもリスクが高いからほとんど行われない。


「その分、美味い魚が増えたのじゃがな」

「そりゃ何より」


 久しぶりに会ったハクオウと情報交換を行い終えたころ、オーガが魔草の準備を終えてくれた。

 マナポーションの素材、消耗品は水と魔草だけだ。帰ったらまとめて作成してしまおう。

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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