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17 錬金術師と不足気味のマナポーション①

「おししょーさまっ!」

「いらっしゃい、ミーアちゃん」


 討伐隊から帰ってきて3日。カウンターやら棚やらは既に出来ていて納品するだけの状態だったので、すんなりと受け取り開店準備。

 現金がもっとあれば店舗なんかやらなかったが、色々作るのに自分が獲りに行ってたら時間がいくらあっても足りない。

 冒険者に取りに行かせるなら金がかかるし。

 まあ準備金としてもらった金とゴブリン討伐の報酬があるから懐は温かいけど。


「お店ができてますっ!」

「そりゃあ、お店だもん」


 元々は会議室だった、クラスメート全員でミーティング出来る広さ。

 工房部分や自宅等を含めれば、体育館くらいの広さだからだ。

 もっとこじんまり作りたかったけど、女子達がね。

 今は大工の人たちがカウンターやらを所定の位置に運び込んでくれている。

 ここは土間だが、壁は世界樹。釘で棚に固定なんて出来ないのでピンチで代用だ。


「カウンター、この辺でいいのか?」

「ああ、カウンター裏にも色々置くからね」


 金額の高いポーションや危険度の高い薬は一般人の手の届く場所には置けない。

 表の棚に置くのは安価な一般人用の薬と普通のポーションより高いがジュース感覚で飲める味付きポーション、それと解毒薬などの冒険者達の需要の多い物だけ並べる。

 診療所の代わりにも面倒だがなってしまうので、折り畳み式のベッドも設置してある。

 診察はリアナにお任せである。


「マスター、カウンターもっと寄せたい」

「ご主人様、カーテンの色はどうしましょうか?」

「わ、きれいな人ですっ!」


 青と白の基調としたメイド服からピンクと白の店員制服に着替えたセーナとリアナだ。

 こんな服が用意されているのはオレの趣味ではないと言っておく。

 本人達が嫌がった時の為にズボンも用意してあるが、二人ともロングスカートだ。


「ライト、このハイポーション美味しい」

「勝手に飲んでんじゃねえ!」


 役に立たないエルフはイドだ。

 オーガの里のチャイナ服風の服が気に入ったのか、部屋着にいつもソレを着ていた。


「え、えるふさんです」


 普通、子供はエルフに近づいてはいけません。と教育を受けておりますからね。


「子供、頭からバリバリ食べる」

「ひゃうっ!」


 ミーアちゃんが慌ててオレの後ろに隠れた。


「コラコラ」

「むう、エルフジョークなのに」


 悪い事をしたらエルフに食べられちゃうよって言うのは一般的な子供の躾に使われる事がある。

 神界の出入り口のある世界樹のダンジョンを守っているエルフは、神兵と崇められていた時代もあるからだ。

 出稼ぎに来ているエルフがいるとはいえ、やはりエルフを見る事は少ない。

 ミーアちゃんはここ一カ月、冒険者ギルドに出入りしていたからイドを見かけた事はあったかもしれないが、ここまで近づく事はなかったんだろう。


「マスター、弟子をとったのですか?」

「や、ちょっと教えただけ」


 正式に弟子にするつもりはない。

 生活を支える為にポーション作りと、魔道具の基礎を教えただけだ。

 やはり正規の手段で錬金術師を育てている学校に行くべきである。


「ふむ、小さいですね……可愛い」

「えっと、や。ひゃう」


 セーナはしゃがみこんでミーアちゃんの顔を覗き込む。

 頬を撫でたり髪をいぢったり、服をつまんだりした。


「いいですね。セーナとお風呂に行きましょう」

「へ?」


 セーナがミーアを小脇に抱えて居住エリアに向かう。


「あの? えっと、えええええええ!?」


 セーナは可愛いもの好きだからなぁ。扉の向こうのオーガの里でも子供をお着換え人形にしていたし。


「じゃあわたしはギルドにいくわ」

「あ、オレもいく。リアナ、あとは任せた。お前とセーナが店に立つんだ、働きやすい様に作ってくれ」

「え? あ、はい!」


 オレはリアナに後の事を任せる。ついでにミーアちゃんの事も任せる。

 うん、ホムンクルスは便利である。







 ギルドに到着したオレとイドだが、妙に注目をうけてた。


「おい、イドリアルさんが男連れてるぞ」

「しかもおしゃれだ」

「なんかいつも以上に綺麗……」

「お姉様……」


 イドは流石にエルフだからか、このギルドの有名人らしい。


「あいつ、錬金術師のライトロード様じゃないか?」

「なに? あいつが、我らが女神、ミーア嬢をお救いになられた救世主殿か」

「あのイドリアルをもてなづけるとは……」

「いけめん……」


 なあ、最後のイケメンって言ったやつ女だよな? そうだよな!?


「お待ちしておりました、ライトさん」

「ああギルマスはいるかい?」

「ええ、お部屋までお通しいたします」

「ライト。わたしは、適当に依頼見る」

「あいあい」


 イドを置いてギルマスの部屋に連れていかれる。ノックと共に中に入ると、幸の薄そうな青年が疲れた顔で座っていた。


「いらっしゃい、ライトロードさん」

「お疲れのようだな」


 不在の間におっさんがため込んだ書類と、おっさんに引き継がれた仕事で机の上が溢れていた。


「いやぁ、このドリンク。効きますね」

「だろ? 1週間は寝ないで仕事が出来るようになる代物だからな。その分2、3日寝込むけど」

「ああ、休みが欲しい。書類見たくない」

「事務員でも雇うんだな」


 ファイトな一発が出来る素敵なお薬だ。


「はい、予定していた書類です。ボクの印鑑は押しておきましたので、確認とサインをお願いします」


 オレは来客用の机を借りて書類を見る。

 それはハイポーションや解毒薬などの錬金薬の売買契約と各種瓶の回収契約書だ。

 おっさんとは口頭でしか約束をしてないから、こうしてギルドの代表者と正式に契約をしなければいけない(ギルド側が)。

 コピー機がないこの世界では全部手書きで、内容があってるかを双方見比べてからサインをしなければならない。

 ミーアちゃんとギルドとの契約、親父さんの名前でされていた為無効になっていたので一緒に手続きをした。家に戻ったらミーアちゃんにサインをさせないといけない。


「あ、誤字」

「え!?」

「うそうそ、冗談だよ」


 この手書き作業、すっごい面倒なのだ。

 片方書いたら、もう片方を全く同じに作らなければならない。

 修正液なんて素敵な物もないので、一か所でも間違えてたら書き直しなのだ。


「し、心臓に悪い冗談を」

「悪かったって」


 このギルドマスターさん。名前はスピードリー。

 元々Aランクの冒険者チームで魔法使いをしていたらしい。パーティメンバーが結婚、そして解散となった為浮いていたところをおっさんが捕まえて職員にしたらしい。

 スピードリーは字も上手だったため、ギルド内の書類全般を任される立場にするのがいいだろうという事で昇進。

 たまたまギルド内の書類全般を任される仕事というのはギルドマスターだったのである。

 おっさんが楽をする為抜擢されたと言ってもいいだろう。


「お店の方はどうです?」

「いま棚とかカウンターを付けてるとこ。不足な物が無ければ明日には開店出来るかな」

「よかった。ポーションはともかく、解毒薬なんかはミーアちゃんにお願いする訳にはいかなかったから助かるよ」

「解毒薬は色々種類が必要だからな」


 毒を持つ魔物の種類だけ解毒薬が必要になると言っても過言ではない。

 教会にいけば解毒魔法を使える人がいるだろうが、冒険に連れていけない以上解毒薬がない事自体がそもそも問題なのである。


「冒険者達も無知だと間違った解毒薬を持っていったりしますけどね」


 『解毒薬が効かない』なんて騒動の大半がそれが理由だ。マムシの毒を食らったのに毒蛙の毒用の毒消しを飲んでも助かる訳はないのだ。


「まあ契約書はこれで問題なさそうだ。オレのサインはここでしていくよ。ミーアちゃんのはオレから渡しておく」

「説明も頼むよ。我々が言うよりもジェイクさんと同じ錬金術師のライトロードさんから説明受けた方が安心するだろうし」

「オレは緩衝材かなんかか?」


 ご近所さんだからいいけど。





 ギルドの受付カウンターまで戻ると、依頼票の貼ってある掲示板の前でイドが手を組んで難しい表情をしていた。

 そして、そんなエルフがいると怖いからか掲示板とイドの周りから人が消えている。

 おい、冒険者共。オレに助けを求める視線を求めてくるんじゃねぇ。


「なんかいい依頼あったか?」

「ん、これ」


 イドが取り出したのはゴブリン討伐の再参加の依頼だ。

 この間参加した感じ、安定してゴブリン狩りが出来るようだが、怪我人も出るだろうしゴブリンの死体片付けなんかが続けば逃げ出そうとする人間も出るかもしれない。

 前回はギルフォード様がギルドに要請した強制依頼だったから報酬が良かったらしいが、この再参加の依頼は多少値下がりしている。

 それでもゴブリンを倒し片付けるという依頼の割には報酬が高い。


「おっさんも元Sなんだし、他にもSランクのパーティがいるからイドの出番はないでしょ。そもそも拘束時間が不明な依頼に今イドが出るのは不味くないか?」


 Sランクはギルド内でも特別な存在だ。


「むう、報酬はいいのに」

「マジで言ってんの? あ、ここに3枚の依頼があります」


 オレは壁に貼ってあった依頼書を3つ取り、イドに見える様に並べた。


「ええ」

「一つは10000ダラン、一つは5000ダラン、一つは3000ダラン。どれがいいでしょう」

「一万よ」

「違います」

「……なんで?」


 即答で否定したから、若干不機嫌そうに聞いてきた。


「こっちの依頼は期間が3日で1万、こっちは1日で5千、でこっちは3千だけど、依頼票をよく見て」


 この3千の依頼票はビッグボアで1頭の討伐依頼だ。


「複数買い取ってくれるのであれば、4頭で1万2千の報酬になる」


 はっとした表情になるイドさん。おい、大丈夫かこいつSランクで。


「こっちは5千だけど同じ依頼が3日続けられれば」

「1万2千!」

「1万5千な」

「「「 おおおっ! 」」」


 おい冒険者達、なんでお前らもどよめく?


「こういう風に依頼を選べば短い時間で多く稼ぐことが可能だ。それに日帰りの仕事を選べばイドの好きな屋台の串焼きが」

「毎日食べられる!」

「毎日は飽きるだろ……」

「飽きない自信がある」


 そこは胸を張るところじゃないと思うよ。


「今までどうやってたんだよ……」

「ボーガンが選んでくれてた」

「いい様に使われてただけなんじゃねえの?」


 討伐系の依頼であれば大体クリア出来るのがエルフだ。危険度の高い厄介な依頼や、人気のない塩漬けになった依頼なんかを押し付けられてたのではないのだろうか。


「次から依頼を受ける前に相談してくれ」

「そうする」


 おっさんが変な依頼をイドに渡すとは思わないけど、急に長期間依頼で街を離れられたりしたらご飯を作るセーナが困るだろう。

 5人前の食事から1人前の食事に代わるのだから(イド4、オレ1)。


「さて、今日は帰るかな」

「待って」

「え? 何?」

「私の依頼選んで、ボーガンがいない」

「薬草でも摘んでこい、面倒くせえ」

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言]  \   \   \ | /   /   / >圧 倒 的 ポ ン コ ツ エ ル フ<  /   /   / | \   \   \ (※酔っ払いの戯言なのであまり気にしないでください)…
[気になる点] 何か、リアナとセーナごっちゃになってね?読みづらい。
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