16 ゴブリンを倒す錬金術師⑧
遠回りして対岸に渡れる橋まで行き、もう戦いが完全に終わった領主達討伐軍に合流した。
「すいません、緊急時につき勝手に持ち場離れました」
「いや、構わないさ。お前の仕事は香炉の設置をした段階でほとんど終わっていたんだからな。まあお前の戦闘力の方も見てみたい気はしていたが、次の機会に期待しよう」
大量のゴブリンの死体が出来てしまったので、それらを処理するのも大変だ。
唯一素材となる魔石もいちいち取っていたらいつまでも片付かない為、いくつも穴を掘ってそこに投げ込んでいる。
油もタダではないので、ソフィア様も含めた炎の魔法が使える者達が死体燃やしに励んでいた。
そんなソフィア様に、勝手に動いてごめんなさいをしにきました。
「遠目でしか見えていなかったが、トレントディアの対応をしていてくれたのだな」
「やぁ、あいつの素材が欲しくてつい」
「その辺の考え方は生粋の錬金術師だな」
「貴重な素材は逃せませんから」
職業的にはマスタービルダーですが。
物作りを生業としている人間は大なり小なり似たような傾向があるようだ。
「ところで、S級のイドリアルがそっちに行ったらしいのだが?」
彼女は未だに馬車の中でおねんねです。
「あー、色々あってオレの馬車で休ませてます。念のためセーナを置いてますので」
「そうか、無事ならいい。ボーガン殿にも伝えおこう。それよりもだ」
「はい」
ソフィア様が自分の魔法の爆心地に指をさす。
「なんで私の魔法であれ壊れてないんだ!? おかしくないか!?」
「壊れない様にしましたから」
香炉の周りの柵の防御はスーパー鉄壁だ。
香炉をまた作るのが面倒だから壊されたくなかったんや。
「ゴブリンの討伐具合はどうです?」
「壊れないように……結構魔法には自信があったのだが」
「あれはあくまでも侵入防御の為の柵ですから、でもあれだけの火力の中心にいれば中に人がいたら熱で死にますよ?」
「そ、そうか! そうだよな! それで、ゴブリンの討伐だが」
「はい」
「1000を超えた辺りで数えさせるのをやめた。燃え尽きたりバラバラになった個体も多いし、元々の数がいくらいたか分からなかったからな。まあそれでも頑張って数えてた奴がいて6000くらいいたとは言っていたがな」
まあ見える範囲、ゴブリンで埋め尽くされてたからね。
「まだ森にはいくらかいるだろうから今日と同じような事を何度かやるつもりだ。その香炉は他の人間でも使える様に出来るんだよな?」
「はい、防御柵もただ並べるだけですから誰でも出来ますし」
「そうか、今後は兄上に使わせたいと思っている。というか、お前を街に戻すのが兄上の希望だ」
「店舗の開店、早めたいんですね」
「というか冒険者達を戻したいのだろうな。ギルドの依頼も滞っているだろうし、冒険者の少ない街は安全性に疑問が出る」
どこででも冒険者はいる。いるはずの冒険者がいない街は問題がある街だ。
実際あの街もゴブリンの軍勢が近くに現れる問題に冒険者が駆り出されたからだ。
そろそろ街を平時に戻したいのだろう。
「わかりました。ギルフォード様は魔力の扱いは?」
「あいつは聖拳士だ、もちろん使えるよ」
「それじゃあ帰る前にギルフォード様で登録しておきましょう」
「助かる」
「こういう場合のレンタル料、いくらぐらいが適正なんですかね?」
「……ふむ、伯爵として徴収すれば問題無いか?」
これ以上報酬を払う気はないらしいようだ。
……………………まあ、ジジイのお孫さんだしサービスしときますか。
くうっ。
「……お腹空いた」
「おはようございます。ゆっくり眠れました、よね?」
色々と引き継ぎをしたうえで、戦場を後にした。
その間もイドリアルさんは起きず、おっさんに相談したらそのまま連れて帰る事になった。
街についても起きなかったので、とりあえず部屋に寝かせておいたのだ。部屋いっぱいあるし。
「どれだけ寝てた?」
「3日くらいですかね」
オレが使った睡眠粉はスーパー強力だったというのもあるが、彼女は1週間以上野宿生活だったのだ。疲労も溜まっていたのだろう。
「この家、壁板も床板も世界樹素材……あり得ない」
「あははは」
「起きられましたか?」
「ん」
「それじゃあ、まずお風呂です」
「お風呂?」
「野宿続きで、しかもその後寝ていたのですから。お休み中に、お体を何度かお拭きいたしましたが、やはり湯に入って頂かないと綺麗に出来ません」
リアナが意気込んでいる。
「セーナが食事を作っている間にお体を清めます。リアナもご一緒しますのでお風呂です」
なんかリアナ、妙に気合が入っている。
「不潔な方とマスターがお食事をご一緒されるなど、ありえません」
「ふ、ふけつ……」
あ、イドリアルさんが本気で凹んでる。まあ女性だもんね、汚い認定を貰うのは辛いよね。
「野宿が続けば当然汚れます、ですから綺麗にします」
「よ、よろしく」
リアナに連れられてイドリアルさんがトボトボと消えていく。
セーナは苦笑いしながらキッチンに向かい、色々と準備を始めた。
「ああなるとリアナは止まらないわね」
「そうだな」
キッチンからいい匂いがする。
程なくして、リアナがイドリアルさんを連れて出て来た。
「さっぱり」
「あ、うん」
長期間の遠征でくたびれていたその黄色い髪の毛は、艶やかな色を取り戻し彼女の顔を彩っている。
地下の扉の向こうのオーガ族の民族、チャイナ服の様な止め方をする部屋着から伸びる長く細い手足からセクシーさを感じてしまうのは、やはりエルフが美人だからだろうか。
スレンダーなスタイルに姿勢も良いため、一挙手一投足が絵になる綺麗な女性だ。
お風呂上りの女性特有の匂いも鼻孔をくすぐってくる。
「お風呂も世界樹、頭おかしいの?」
「拘りたくて」
一度に5人くらいまとめて入れる大きいお風呂である。
今はオレ一人とリアナ、セーナの2人しか使っていないが。
そしてセーナの配膳した食事を開始。
「……二人は食べないの?」
「オレ達の後でだな」
「ああ、あなたの……あなた、名前は?」
「ライトロードだよ」
「そう、ライトのホムンクルスね。食事要らないのね」
見た目は完全に人間のはずの二人の正体を。すごいな。
「飲み物は飲めるよ。味覚もあるから食事も作れる、味見したら吐き出すけどね」
「言わないでよ」
「ごめんごめん」
マナポーションを摂取する関係上、飲み物は受け付ける様に作った。
「美味しい」
「ああ」
「おかわり」
「はい」
「こっちも」
「はい。これもですか?」
「パン、ふかふか」
幸せそうに食べる人だなぁ。そういえばエルフ達との食事、賑やかだったな。
オレは早々に食べ終わったので、食卓に用意された紅茶を飲む。
「美味しかった」
「どうも」
「ここは里にいるみたい、落ち着く」
「そりゃ何より」
「ここに住む」
え?
「は?」
「え?」
「はい?」
思わず3人で聞き返してしまった。
「ここに住む、宿代も払う」
「いや、でも」
「ご飯美味しい」
「や、そうだけど」
「ここに住む」
「や、イドリアルさん?」
「イドでいい、家族にはそう呼ばれていた」
戦闘時並みに力のある眼力で言われました。
まあ、部屋もあいてるので……いいか? この人、強いし。
 




