12 ゴブリンを倒す錬金術師④
移動の描写は割愛しております。
適当に何日か経ってると考えてくださいな
開店前だったお店だが、棚やらカウンターやらの納品があるのでそこら辺は一旦ストップさせた。
今はソフィア様とギルフォード様、おっさんとおっさんのお供のダンジョンから戻ってきた冒険者。それとソフィア様が呼んでいた騎士団のメンバーと共にゴブリンの群れが出たという森の近くの草原にやってきた。
オレは自分の作った錬金馬にしか乗れないから、お手製の馬車である。
戦場の匂いがする。
「マスター、かなり怪我人がいます」
「そうだな」
「傷も洗わず処理した人がいるみたいね。熱を出さないのかしら?」
オレに帯同しているリアナとセーナが周りを気にしている。
そしてオレの、というかリアナとセーナの注目度がやばい。
「目立つのもあれだし、さっさと目的を果たすか」
ソフィア様がギルフォード様の代わりに指揮を執っていた騎士の所で話を聞き始めたので、とりあえずオレは魔道具でゴブリンが誘引出来るかの確認だ。
「俺が護衛につくからお嬢ちゃん達は残していったらどうだ?」
「冗談でしょう!? ご主人様はセーナが守るのよ!」
「リアナは常に、マスターと共にあります」
「はいはい、二人とも信頼してるよ」
オレはお手製の魔法の杖を手に持ち、両肩の上にガード用の魔道具を浮かばせて準備完了だ。
「リアナ、お前はオレの護衛ね。セーナ、はい弓」
「これを使うのも久しぶりね」
「矢は悪いけど木製な」
セーナは弓の弦を引いて感触を確認している。
矢筒は魔法の袋と同じタイプの物で、腰に手を当てると勝手に手元に矢が出る仕組みだ。
リアナはリアナの背丈よりも長い杖を両手で握っている。彼女は回復魔法や神聖魔法が使用出来るからいざという時の護衛役である。
手提げの持ち手を外してを腰に回す。
こうするとポーチになるのだ。
「紹介する、護衛兼殲滅役のイドリアルだ」
おっさんが連れて来たのは背の高い女性、髪の短い金髪のエルフだ。エルフかぁ、この世界のエルフは怖いんだよなぁ。
「出稼ぎ組?」
「そう」
こちらをちらりと見たが、どちらかと言えばセーナに視線が向いている。
「……まあ、いいわ」
「ゴブリンが出たら矢で撃って下さい。矢が足りなければあちらで補充してくれるそうです」
「すぐ?」
「準備出来次第ですね」
「分かったわ」
頷くと共に矢の補充に向かうイドリアルさん。
彼女の準備が整うまで、あとギルフォード様が騎士から弓矢が得意な者と守りが得意な者を何人か連れて来るらしい。
「じゃあ一緒に来るのは? リアナとセーナと」
「私と従者が5人だ」
「俺もだ」
「私ね」
御者台にオレとセーナを乗せて馬車の中にはリアナとイドリアルさんを乗せて移動。
おっさんとギルフォード様、それと従者というか護衛の騎士5人は馬でついて来ている。
森から離れず、かつ本隊が見えない場所まで移動しなければならない。予定してた地点はあるが、本隊が思ったより伸びていたので更に先に移動だ。
「この辺りで良いか。森の手前が盆地になってるし」
「そうだな。本隊からも離れているしちょうどいいだろう」
小高い丘の上で馬車を止めて、ギルフォード様に声をかけた。
こちらの最高責任者はギルフォード様なので、最終的な判断はこの人次第だ。
騎士達が全員の馬を丘の下、見えない位置に固定しに向かい準備が出来るのを待つ。ウチの家を囲っている柵と同じような効果がある設置しやすいものを渡したので馬たちの防御も万全だ。
念のため丘の上、オレ達が陣を作る位置にも柵を横長に配置する。
全部囲うと逃げる時に邪魔になるから前面にだけである。
そんな作業を長々と行っていたのに、リアナとイドリアルさんが馬車から出てこない。
「お待たせしました」
「ん」
おかしいなと首をかしげてた時に、二人が出て来た。
イドリアルさんが小奇麗になっている。
「拭いて貰った、すっきり」
「お手伝い致しました」
ああ、そう言えば何日も戦い続きでしかも野営だもんね。
「忘れ物ないよな」
改めて確認し、馬車を魔法のポーチとなった手提げにしまう。
騎士達が驚いていたが、気にしないでと手を振って誤魔化す。
「さて、行ってくる」
「お供致します」
オレは馬車を外した馬に乗り、セーナを後ろに乗せる。
盆地の中央辺りで、とりあえず半径3km程度の範囲で魔道具である香炉を準備。
生肉と血の匂いだと、気分が悪くなる人がいるかもしれないので焼肉の香りだ。調理して香ばしい匂いを醸し出している大き目のステーキを香炉の中に入れて、馬と同じように簡単に設置出来る防御柵を周りに設置。
更に柵の周りの地面に、魔物が踏んだら風の刃が上に向かって発生する地雷式の魔道具をいくつか埋め込んだ。
風向きも確認し、一応森に風が向かっているようなので魔道具に魔力を込めて起動。念のため1時間たったら蓋が自動で落ちる様に設定しておこう。
「急ぎましょう」
「ああ」
セーナが森の中にいる魔物の動きを察知したようだ。
再び馬に乗り、急いでみんなの待つ丘の上に移動した。
そこで馬から降りる。馬は丘の反対側の他の馬が集まってる地点の近くに移動させた。
「ああ、腹が減るなぁこれは」
「メシ、到着してから食ったでしょ」
「そうなんだがなぁ」
「ははは、これからゴブリンが大群で出て来るかもしれないのに余裕だな」
ゴブリン達から見えない様に、丘の上で姿勢を低くしながら眺める事数分。
ゴブリン達が涎を垂らしながら次々と森から湧き出てきた。
「ええ? 多くない?」
「それだけうち漏らしていたということだ」
最初のゴブリンが早速地雷を踏んでバラバラに吹き飛んだ。細工は流々である。
その姿を見たゴブリンが足を止めるものの、後続のゴブリンは気づかずに臭いの元に突撃していって、同様にバラバラにされた。
「あの魔道具、エゲツねぇなぁ」
「本来はもっと厄介な魔物に使う道具ですけどね。その分ゴブリン程度ならば一瞬でミンチです」
森から続々と臭いに釣られたゴブリンが目を充血させながら突撃してきた。
かなりの数が一斉に臭いの元に向かっていってる。
相当に飢えてるようだ。
『ゲギャ! ゲッギャ!』
何匹かのゴブリンが異常に気付いて足を止めているのが見える。
それもそうだろう、目の前で仲間がバラバラに切り裂かれているのだから警戒するのも当然だ。
「そろそろ間引くか」
「それが良さそうだ」
その言葉に各々頷いて立ち上がる。
そして弓を持っていた者は構えて、矢を放った。
『ギャッギャッギャッギャ!』
『ギャーグ!』
今までは悲鳴も許さずにバラバラにされていたゴブリンであったが、頭や体に矢を受けたゴブリン達は死ぬ間際に断末魔の声をあげる者も多い。
セーナの腕は知っていたから安心していたが、おっさんやイドリアルさん、それに騎士達も矢の的中率は中々だ。
急所を外して即死しないゴブリンもいたが、矢を外す者はほとんどいない。
「ふむ、今のところ順調だな」
「ですが、思ったよりも数が多いですね。射手が足りない」
今はゴブリン達の注意は臭いの元に向かっているが、そのうち攻撃しているこちらに注意を向ける者も出て来るはずだ。
オレも手に持っていた杖を前に突き出して、起動させる。
連中の何体かがこちらからの攻撃に気づき、臭いの元を無視して駆け上がってきた。
もちろん、そういった連中から矢で射られていく。
手前側は騎士達の担当のようだ。
「マジックブースト、ライトニングシャワー」
杖の先からバスケットボールくらいの光の球が生まれ、空へと向かう。
その光の球から、大量の電撃が降りそそぎゴブリン達の群れに直撃した。
「おいおい、すげえな」
「ライトロード殿、戦闘もいけるのか」
「こういう道具を作るのも錬金術師の仕事ですから」
「ご主人様、追加が森からこちらを窺っております」
「しばらく様子を見よう」
お肉の香ばしい匂いの誘惑に連中が勝てるか、命の危険を感じこのまま森に帰るか……。
「出て来たな、相当飢えてるみたいだ」
「それだけ森の中の食材が枯渇しているって事だろう。近隣の村への食糧支援が必要になるかもしれないな」
「ダンジョン組の連中に狩らせるか」
地面に転がっているゴブリン達の死体を踏み越えて再びゴブリン達が走りながら香炉に突っ込んできている。
矢で殺されたゴブリンの死体が乗っかっているせいで、地雷式の魔道具が起動しない物が増えてきた。
香炉の周りの柵を殴りつけたり、上に登ろうとしているゴブリン達がいるが結界の魔法が掛かっている柵だ、ゴブリン程度が超えられる物ではない。
「まだまだ出て来るな。設定はどのくらいにしたんだ?」
「計画通り3kmですけど、相手の嗅覚次第ですし、風の強さによってはもっと広がってるかもしれませんね。忘れてました」
「ざっくり3km圏内程度でこれだけいたのか」
「森の中に討伐隊は入れなかったんですか?」
「流石に危険だからな。そこのイドリアル氏くらいの実力者が何人もいてチームが組めるなら話は別だが」
再び香炉の周りにゴブリンが溢れ出す。
もちろん地雷式の魔道具からは風刃が途切れることなく噴出しているが、もはやお構いなしだ。
「ライトロード殿、先ほどの攻撃をもう一度出来ますか?」
「構いませんよ」
オレは立ち上がり、再び杖を起動。
「ふっ!」
そんなオレを目掛けて矢が放たれた、その矢はセーナが放った矢で空中迎撃されている。
オレに矢を放ったゴブリンは、イドリアルさんが矢で仕留めている。
ゴブリンアーチャー的な魔物がいたようである。
「マジックブースト、ライトニングシャワー」
オレは気にせず魔法を放つ。
「迎撃っ」
ギルフォード様の号令の元、オレの魔法のうち漏らしや追加のゴブリンが次々と矢によって沈んでいく。
イドリアルさんはオレの設置した罠の魔道具の上に覆いかぶさったゴブリンを強弓で弾き飛ばしてくれたりもしている。
再び見える範囲から動くゴブリンが消えた。
匂いの届く範囲のゴブリンがいなくなったからか、それとも流石に危機を感じたのか。
散発的にゴブリンが現れるが、オレの設置した魔道具を踏んでバラバラになってしまった。死体だらけの中、死体が無い地点だからか、みんなそこを通りたがるからだ。
程なくして、カコン、と小気味よい音が鳴って香炉の蓋が閉まった。
1時間たったようだ。
セーナとイドリアルさんが慎重に森に近づき、ゴブリンが追加で来ないか確認をして問題無しとの事に。
使用した魔道具をすべて回収して今回の戦果を確認する。
……死体の片づけが大変そうだ。
大きめの穴を騎士達が掘り、そこにみんなでゴブリンの死体をまとめて落として油を撒いて火をおこした。
火が消えるまでオレは地面に埋めていた地雷魔道具のメンテナンスだ。真上でゴブリンをバラバラにしてたからか、血が大量についてて拭くのが正直嫌だが仕方がない。
20個もあったから、リアナとセーナはもちろん騎士の人たちも手伝ってくれた。
ギルフォード様はダメよ。
「あなた」
「なんでしょうか?」
「その弓、どこで手に入れた?」
「……ご主人様に頂きました、羨ましくても譲りませんよ?」
黙々と拭いてたらそんな会話が聞こえたので顔をあげる。
「世界樹の枝で作られた弓、普通は持ってない」
「クリムデス族長に若い枝を頂いたんだ、それを加工した物だよ」
「族長に? あなた何者?」
イドリアルさんの視線が厳しい。
エルフの一族を統括している長老会の長に貰った、木製のエンブレムを彼女に見せた。
これはエルフ達と友好を築けた者にのみ与えられる証らしい。
「魔王軍に世界樹が襲われていた時に国軍に所属していてな。世界樹の危機は世界の危機だ、人間の国からも応援が出ている。その時の礼にと頂いた」
魔王軍が戦力を最も投入していた戦場は世界樹だ。
そもそも連中の狙いは世界樹であり、そのダンジョンを通って神界に攻め入るのが目的だと魔王軍の幹部が高らかに宣言したのを聞いている。
そこから神界に攻め入り、神に成り代わり自分たちの都合のいい世界に作り替えるつもりだったそうだ。
世界樹に攻め入ってきた巨大な悪魔の魔物と勇者である稲荷火幸一が戦った際に、足場にしていた巨大な枝を誤って叩き斬ってしまった。
その巨大な枝の一部をエルフ達からもらったのである。
セーナの弓以外にも、魔道具やオレの工房の材質に大量に使われている。
「そう、でも珍しいわ」
「怪我をしたエルフ達に片っ端からハイポーションぶっかけて回ったからなぁ」
エルフとはそのほとんどが一騎当千の猛者集団だ。小さな子供でもその戦闘力はそこらの冒険者に引けをとらない。
魔王に闇の衣が無ければ、エルフが10人もいれば魔王に勝てたのではないかと思う程の戦闘能力を保持している。
マジで冗談抜きで、スーパー戦闘民族なのである。
エルフは世界樹の守りを重視しておりそれ以外の興味が基本的に無い。
世界樹から続く神界へのダンジョンの守護ではなく世界樹そのものの守護だ。神界には興味ないし、神々にも興味はない。魔王が現れたといっても、世界樹に危害を加えて来なければ放置するのが当たり前と考える連中である。
ただし一度戦闘を開始されると、相手を殲滅するか自分達が全滅するまで止まらないような危険な側面も持っているのだ。
女神様がエルフをきちんと制御出来ているなら、オレ達が呼ばれなかったんじゃないかと思う程に。
彼らが世界樹の守護の次に興味があるのは、食事だ。
昔は興味がなかったらしいが、ある一定の時期を境に人間社会の多様性のある料理に目を向けたのである。
それらを入手する為に、外貨の獲得を目的にその戦闘力を売っている。
このイドリアルさんもその一人だろう。
あと嫁盗り、婿盗り。
エルフ達は常に強者であらんとしている。外界に自分達にとって有益である血を見つけると、それを取り込もうとするのだ。
そしてそれらの能力が顕著に表れるのが『冒険者』達だ。
エルフ達は強くも見目麗しい、その容姿を利用し高い能力を持った人間を攫い、囲い、子を成すのも外に出る目的の一つにしている。
搾り取られたクラスメートがいたとかいないとか。
怖い種族である。
「同胞がそんなに苦戦を?」
「流石のエルフでも3か月もの間攻め続けられたら疲れるでしょ」
魔王は悪魔の王だった。
オレ達と同じようにこの世界とは別の世界から来た異世界の存在だったという。
その異世界の悪魔の群れを際限なく呼び出して戦力にしていたのだ。エルフ達がどれだけえぐい戦闘力の持ち主でも、一つの世界から丸々投入された戦力が相手だ。終わりのない戦いに疲労しないなんて事はない。
結果として、魔力の枯渇や回復アイテムの不足によりとうとう世界樹のふもとまで攻め込まれた過去があった。
ギリギリのところで間に合ったオレ達はエルフ達を回復させて回り、元気になったエルフ達が逆襲を開始。
その混乱に乗じ、聖女の白部奏と大神官の時巻小太郎の二人が魔王の元の世界に通じる穴をなんとか塞いだ事で戦いは完全にこちら側に傾いた。
流石に幹部クラスになると、エルフ達とも互角以上に渡り合っていたが、最終的には幸一が叩き斬って世界樹での戦いは終結。
その勢いに任せてエルフのパーティのいくつかが魔王城に攻め入り、魔王に返り討ちされた悲劇があったが、闇の衣という魔王の絶対防御の情報を持って帰ってきてくれたのだった。
彼らの尽力が魔王討伐の一翼を担っていたのは間違いないだろう。
「そう」
「元気になってからすごかったけど」
本当に。
ウチのクラスメート達も出鱈目な能力の持ち主が多かったし、ある程度冒険していたら普通の人間とは比較にならない力を持っているのも判明した。
ウチのクラスメート達の純戦闘タイプの能力者がエルフの里には腐るほどいるのだ、あそこは魔窟である。
「当然」
「エルフは世界樹の守護者ですからね」
「ん、これも本物。同胞が世話になった。ありがとう」
エンブレムを返してもらう。
エルフの長の魔力の籠ったエンブレムは偽造出来る代物ではないので納得して貰えたようだ。
伏し目がちになった顔を見る。
長いまつ毛と整った顔が魅力的な女性だ。
だが騙されてはいけない。彼女は魔窟出身の強者なのだから。
先ほども普通に矢を撃っていたが、地面に倒れたゴブリンの死体を矢で撃ちぬいてバウンドさせる程の力の持ち主なのだ、普通ではない。
もう一度言う、いくら美人だからといって騙されてはいけない。
「族長に認められた男、すごい」
「そりゃどうも。今度街で工房兼店舗を構えるので御贔屓にして下さい」
口を動かしながらも地雷魔道具の血のりを落とし、それが終わったら中身の確認だ。
これは薄い箱の形をした魔道具だ。蓋を開けて中に土や血が入り込んでないかも確認を行う。
問題の無い物は再び蓋を閉めて動作確認……まあ実際に踏んで動かす訳ではなく、側面のスイッチを押して風刃が出るかの確認だ。
最後に魔力を込め直して魔法のポーチにしまう。
それをいくつも繰り返していると、暇だったのか全員の視線がオレに集中してることに気づいた。
「何?」
「いや、職人だなぁと」
「そうやって道具を扱ってる姿を見ると、錬金術師なんだなとしみじみ感じるな」
「さっきの杖の魔道具も、すごかった」
「その肩の上で浮かんでるのも魔道具だろ? どんな事が出来るんだ?」
「その綺麗なお嬢ちゃん達はどこで貰ったんだ?」
「お前本当は貴族なんじゃないか?」
なんか色々話しかけられたけど面倒だったから適当に返事は返した。
とりあえず追加でゴブリン出て来る時があるから油断しないで下さいみなさん。




