season1 プロローグ
始まりました
「はああああああ!!」
【勇者】が持つには見た目が禍々しい剣が【魔王】の体を切りつけた。
「ぐうっ!」
「奏!」
「ホーリーフィールド!」
魔王の体を覆う【闇の衣】に亀裂が入ったのを勇者の少年が確認すると、すぐさま後ろに控えていた【聖女】の少女が聖なる力場を生成した。
「マジックブースト……プラズマストーム!」
「ぐおおおおおおおお!!」
【大魔導士】の少年が強烈な電撃の魔法を放つと、魔王の体をズタズタに切り裂いた。
「良し! 効くぞ!」
「ナイス!」
その言葉と共に【バトルマスター】の少女が目にも見えない速度で魔王に肉薄すると、魔王の体に次々と拳を叩き込んでいく!
「調子に……乗るなぁぁぁ!」
魔王は少女に向かい闇色に輝くその手の平を強引に振るう。
少女は危なげなく後ろに下がると、回復しない魔王の体を確認し薄ら笑いを浮かべた。
「流石、光君お手製の手甲ね。バッチリだわ」
「ああ、だが……ここからは【聖剣】の出番だな」
勇者はその手に似合わない禍々しい剣を地面に捨てて、それとは別の神々しい輝きを放つ剣を握っていた。その剣こそ、魔王に最大級のダメージを与えられると言われる聖剣だ。
「こーいちー、やっぱそっち使うの?」
「ほ、ほら、攻撃力とか見えないし……」
「光印の魔導剣のがいいと思うが?」
「あれ魔力すっげえ喰うの! しんどいの!」
「勇者が泣き言を言うんじゃない!」
「まあ作った本人も『呪いの魔剣とかと変わんないかも』って言ってましたから」
「いいけど、ちゃんと制御しろよ? ここで暴走されちゃ敵わないからな?」
「この聖剣なら、魔王の魂までも断ち切ることが出来る! 聖剣が教えてくれたんだ! 今こそ自分を使えって!」
「我を前に雑談とは……」
「おっと」
勇者パーティは苦々しく呻く魔王に改めて視線を向けた。
「俺達は、お前を倒して……必ず帰るんだ!」
再び始まる激闘……いや、死闘。
異世界から召喚された少年少女達が魔王城に侵入して約半日。
彼らの奮闘の前に、とうとう魔王は断末魔の悲鳴を上げたのであった。
~ 王都ダランベール ~
「……神託を受けました。コウ達が無事魔王を倒してくれたとの事です」
【大神官】の少年が、同じクラスメート達を連れて国王に報告をすべく、謁見の間に集まってきていた。
「やってくれたな……コタロウ、ヒロミ、マサキ。お前達もよくみんなを支えてくれた」
「問題ありませんよ。第一コウ……コウイチ達が頑張った結果です」
「そんな事はありませんわ。コタロウも含めて、サポートに徹した皆様のご助力あっての事です」
「……王妃様、有難うございます」
感謝の言葉を受けると供に幸一達の体が光に包まれていく。
「どうやらお別れの時みたいですね」
「……皆に直接礼を言えぬのが心残りだな。コタロウよ、この場におらぬ5人にも感謝の言葉を、余の代わり礼を伝えてくれぬか」
「分かりました。我々の方こそ、お世話になりました」
「我がダランベール王国は、貴方達の献身を決して忘れません」
コタロウ達3人が笑みを浮かべる中、徐々にその体を覆う光が強くなり3人を飲み込むと消えていった。魔王討伐に訪れていた4人も同様である。
~ 現代:学校の教室 ~
「おお、戻った! はは! 制服だ! 懐かしいっ!」
「わースマフォだあー! 久しぶりだなぁ」
「2年ぶりだもんなぁ」
「女神様の言った通り、時間は変わってないのね。飛ばされた日の放課後、間違いないわ」
「帰りたいなぁ。パパ……は仕事か、ママになら会えるかな?」
「……川北さんと相良さん、やっぱりいないね……」
「死んじゃったもん……」
「……」
教室内に沈黙が訪れる。
「ねえ」
「ああ……残念だが」
「そうじゃなくて。いや、そっちも不味いんだけど……」
「ん? あ!!」
「ええ!? なんで!?」
全員が顔を見合わせて周りを検めて見渡した。
「光君は!?」
「みっちー!!」
「光!?」
「「「 いねぇ!! 」」」
自作の馬車に揺られて、オレは王都を背に移動していった。
揺られて、と言ってもこれはオレの作った魔導馬車だ。揺れもほとんどないし、馬も錬金生物である。
時間は、深夜。
魔王が倒され、女神様がオレの仲間達を返した日。オレは自作の工房で薬の調合を行っていた。
薬の調合はデリケートな物だ。素材一つ一つの状態はもちろん、清潔な場所で。更に他人の魔力や空気中の魔素を可能な限り排除しなければならない。回復薬程度の調合であれば、その辺は気にしないで済むがあの時オレが調合していたのは【奇跡の回復薬】だ。
一口飲めば体力・魔力共に最大限まで回復させ、肉体の欠損まで再生させることの出来る最高級の回復薬。
クラスメート達が傷付き、帰ってきた時に必要になると思い調合をしていたんだ。
オレ以外の魔力の影響なんぞ受ければ、確実に失敗する。
だから工房に籠って作業をしていた。
結果として……【奇跡の回復薬】の調合には成功したが……帰りそびれた。
女神様の魔力を、オレのいた工房が弾いてしまったんだ。
女神様も頑張って時間を引き延ばそうとしたり【神界】の結界を強化する為に使用する予定だった魔王の死んだときに拡散された魔力を使ってオレの工房ごと魔力を包んで移動させようとしたり。
だがオレの工房は鉄壁だった。
工房は魔王軍との最前線での補給基地も兼ねていたからそりゃあもう鉄壁だったのだ。流石はオレの作品。
結果、女神様は諦めた。ちなみにもう一度お願いしますと丁寧にお願いしたところ、300年程魔力をためるから待ってくれと素敵な笑顔で言われた。
ちくしょうめ。
こうしてオレは置いてけぼりをくらったわけだ。
「思い出すだけでため息が出る……」
仕方なく、王国騎士団連中と一緒に王都に帰還。
勇者パーティのメンバーだったオレも本来帰るはずだったのだが、残ってしまったオレがいたので王宮は大混乱。
国王は爵位をだとか領地をだとか娘を嫁にとか、騎士団長は国家専属の錬金術師にとか武具の作成をとか養子に来いとか。大臣は凱旋パレードとか国民にお披露目とか他国との外交の切り札にとか娘と娘を嫁にとか。
すごかった。
面会・謁見・面会・面談・相談・謁見・面談と終わりのないループにはまって、なんか色々肩書を貰う羽目になった。
オレ自身の事ならともかく、他のクラスメート達の功績までオレの物になりそうな勢いだ。ハッキリ言って居たたまれない。
それに作らなければならないものがあるからこんなことで時間を取られたくない。
なんやかんやあってようやく出来た空き時間。こっちの世界に来た当初にお世話になった国お抱えの【ビルダー】の爺さんに相談したら素敵な言葉を頂いた。
『面倒なら逃げればいいんじゃよ』
流石は師匠!
普段はただのジジイだったが、この一言でジジイの株は爆上がりだ。
『【マスタービルダー】のお主なら生計を立てれるじゃろ。蓄えもあるだろうしの……ワシの孫が領主をしとる。店を開けるように一筆書いてやろう。ああ、お主の名や立場はもちろん伏せておく。元々ワシやワシの弟子がヤンチャしてた土地じゃ、多少非常識な腕の持ち主でも領民は慣れたもんじゃ』
そうやって色々と手続きを取ってくれることになった。
もちろん秘密裏に。
『あとは名前じゃの……お主の名前は既に国中に知れ渡っておる。ヒカリはライト、道長、ロードでよいか。ライトロードでいいかの? ああ、構わんか。じゃあこれも渡しておくぞぃ』
錬金術師ギルドのギルド会員証だ。【A】とある。
『冒険者ギルドと変わらんぞぃ』
冒険者ギルドのランクは【F~S】だ最上級じゃなければ悪目立ちする事も無いだろう。
そして今。師匠にお膳立てをしてもらい、師匠のお孫さんの治める領に絶賛夜逃げ中である。
「色々と作らないといけないものもあるしな……」
死んでしまったクラスメート2人を蘇生させるアイテムも作らなければならない。
ジジイの領地には生命に関する魔物や植物が多くいる為、彼女達の蘇生に必要な素材の中で判明している物のいくつかが手に入る事も分かっているから居を構えるには最適だ。
その後は元の世界に帰る為の魔道具。こちらは見当もつかないが……とりあえず2人の蘇生が優先だ。
その領地は魔王軍との前線基地だった場所から離れているし、オレの顔を知っている人間もいないだろう。
なんだかんだ言って黒髪は目立つので念のため髪の色も染色料を使って青くしておいたし。
こっちの世界にきて2年、色々と素材は手に入れたが足りない物も多いし不明な物もある。
オレは気を引き締めると、新天地へと馬車を進めていくのであった。
オレは女神の加護を受け、異世界に取り残されたビルドマスター。
名前は『光 道長』
今の名前はライトロード。そして職業は錬金術師だ。
さしずめ、おいてけぼりの錬金術師と言ったところか。
うん……色々頑張ろう。
~ ダランベール城 ~
「姫様! ミリミアネム姫様! ミチナガがいませんっ!」
「ええ!? どういうこと!?」
「お、お手紙が机の上に……」
薄着のセクシーなランジェリー姿の女性が道長の書いた手紙、というよりも走り書きを姫に見せた。
『探さないで下さい』
ビリリリリッ!
「全騎士団員に通達! 衛兵達も総動員よ! なんとしてもミチナガ様を探すんですっ!」
「はっ!」
「あと、セリアーネ」
「はっ!」
「そんな恰好でミチナガ様のお部屋に何をしに行ったのですか? こんな夜中に」
「うっ!?」
「あんた抜け駆けしようとしたわねええええ!!」
「ちが、これは! 副長や団員達に強引に!」
「言い訳無用よ!! その乳もいだりますわ!」
「おやめ! やっ! んっ! ひ、ひめ!」
「良いではないか~! 良いではないか~!」
「ひゃああ~~」
……道長の逃避行が始まっていた。