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第三十五話 うつろうものたち 前編





『やはり……望みし幻想に囚われるか』

 暗闇にぽつりと灯される明かりの下、空間を見ているものがあった。人と変わらぬ大きさではあるが、金細工のように美しい毛並みを持つ一頭の獣。高貴なる金色を纏う獣の瞳に灯る色に、感情は見えない。


 ただ目の前に広がる暗闇を投影するかのように、うつろがのぞく。


『夢かうつつか幻か』

 金色の獣が言葉を紡いだ時、その獣へ向かって漆黒の魔獣が襲い掛かる。大きさでいえば単純に比較しても金色の獣の十倍はある魔獣は、獲物を喰らえるという愉悦の表情を面に張り付けたままの姿で真っ二つに切り裂かれた。


 己の身体に起こった異変を理解出来ぬ魔獣は、不可解な事が起きたということだけを理解したのち、世界からその存在を抹消される。


『──ヴァルザよ、貴様が全てを託した人間種は、やはり困難に打ち勝つことは出来なかったようだ。だが……我の生み出した獣達も、事ここに至っては同じか』


──


『結局……あれを呼び寄せてしまった時点で、我等は詰んでいたのだ。この大地が生まれし時と同じように、泡沫の如く消えゆく定めか』


──


『この局面においても、まだ信じるというのか?』


──


『ふん。だから我と貴様は気が合わぬのだ』


──


『ナーダも未だに動いてはいるようだが、救いの光は見えぬよ』


──


『我がか? 昔とは違うのだ、ヴァルザよ。今の時代のものどもでは貴様の言うそれも不可能であろうよ』


──


『もはや執念だな……貴様のそれは』


──


『ふん……結末を見届けるのが我というのも、皮肉なものだ』

 かたちなきものと対話をしていた金色の獣は、何かが動く音を聞いて、視線を空から外す。


──


『まあいいさ。結局、今の時代に残ったのは我の方なのだ。ここからは好きにやらせてもらう』





 * * *





「ここは……」

「なんだか変なとこだなぁ兄貴」

 オーリンとマシューの二人は、魔導門を通じて見知らぬ場所に降り立っていた。門からは溢れんばかりの魔導が零れ出している。今も二人の背中を押すように、あたたかい力は空間を埋めてゆく。


「光が見えるが……この気配は。何かが戦っているのか」

「ヤンのおっちゃん達が来るまでまだ掛かりそうだけど、どうする兄貴?」

 戦いと聞いてその響きにマシューは鼻をならす。マシューの言葉を受けて手にしていた槍を地面に下ろすオーリン。


 背伸びをして身体をほぐすマシューは、放っておけば今にも飛び出しそうな雰囲気がある。きらきらと輝く瞳は、一つの答えしか受け付けていないと言わんばかりに、オーリンを捉えて離さない。


 そうこうしている内に、周囲に散らばる魔導の光が蝶の形をとりながらぽっかりと空いた穴の先へと進む。


「マシュー、行くぞ」

「そうこなくっちゃ」

 背に括っていた長剣を一息で抜ききると、マシューはオーリンの隣に歩みを進める。オーリンも両手で掴んだ槍を肩に乗せると、息をく。


 二人が歩みを進める度に、魔導が世界を灯してゆく。

 それは、真っ暗な世界に彩りを与えるようで……。


「アインハーグを出てから久しぶりのピリピリ感だなぁ、兄貴」

「あぁ、だが気負いは動きを悪くする。あるがままにゆくぞ、マシュー」





御愛読頂きましてありがとうございます!


次回更新は来週月曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第三十五話 うつろうものたち 中編』

乞うご期待!

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