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第三十四話 獣の神 中編




「──!」

 エミリオは唐突に鳴り響いた音を聞いて、沈黙の魔導を行使しているユリスを振り返る。エミリオの考えている事を察して、ユリスはそれに答えるように首を横に振った。


 ユリスが扱う沈黙の魔導の効果が失せている様子はない。現に、言葉を発したエミリオの音も、ユリスの声も、それらが形を持ち現象として世界に生み出される前に、すべてが掻き消されている。だというのに、不快な音は今もなおエミリオ達の鼓膜を叩く。


 音は怪物べヘモスを侵食している黒穴と連動していた。

 浸食が大きくなればなるほどに、空間に満たされていた魔導の理も不規則に歪められてゆく。


 怪物べヘモスの視界を奪っていたシルバスの魔導は、一瞬でその黒色に侵される。頭部は原型を保っているが、苔色であった怪物べへモスが持つ元々の色は失われ、漆黒に呑み込まれていた。ユリスの魔導に照らされた怪物べヘモスは、突如としてその場に現出した暗闇に喰われているようにも見えた。


 エミリオは怪物べへモスの動向を窺いながら、慎重にユリスへと指示を送る。


「──《ユリス、頼む》」

 手のひらを下に向け、事前に打ち合わせをしていた通り、緊急事態の時に決めていた合図を送るエミリオ。ユリスはエミリオの合図を受けて、周囲の光源を維持したまま沈黙の魔導のみを解除する。


 レインはエミリオ達の動きで状況を察知すると、怪物べヘモスの背から飛び降り距離を取ろうとする。その動きに反応するように、レインを追って怪物ベヘモスを包み込んでいた漆黒の影が蠢くように追尾し始める。レインは一気に速度を上げ、髪の毛の一本すら触れさせないように、上体を低くしながら滑るようにシルバスの隣へと走る。


「シルバス、危ないぞ!」

「拡がれ──銀鎖瀑糸ぎんさばくし!」

 なおも追撃の意志を見せる影を遮るように、シルバスの魔導が網の目状に拡がりながらレインを守る。影が魔導へと到達した瞬間、シルバスはそこに込められた異常な力を感じ取る。影が持つ力は、対峙するものを変質させる力。


 ぶつかりあい交錯した時、銀砂は構築していた魔導ごと分解され霧散する。

 レインはシルバスを抱えるように引き寄せると、力を込めて飛ぶ。


「──天波てんは

 エミリオは剣を閃かせ、集めた魔導の光を波として放ちレイン達を狙っていた影を消し飛ばす。

「助かった!」

 レインはエミリオに腕を上げて無事である事を示した。





──グ、ググ





 音を立て、力がぶつかり合う。





『──愚カ……』

 引っ張られるように、さらに伸びようとしていた影が怪物ベヘモスの元へと一瞬で引き戻される。全てが元あった場所へとより戻された時、漆黒で埋め尽くされていた怪物ベヘモスの身体は、季節に色付く葉のように、鮮やかな緋色へと染まってゆく。


『愚かなり

 聞こえてくる怪物べへモスの声。その内には事を為そうとした何ものかを嘲笑う音色が含まれていた。


『我が身を喰らおうとする等。天地に遍く六合りくごう六極りっきょくに置いても度し難し。その行い、万死に値する』

 揺ぎ無く不変である喰らうもの(ベヘモス)が、不遜にも自らを喰らおうとしていたモノを圧殺する。


 鮮やかな赤に、美しい肢体。獣が持つゆるやかなる曲線と艷やかな体毛。

 それが本来の姿であるように、宝玉のように美しく煌めく緋い瞳が、遍く全てを睥睨する。


 咆哮が上がり、獣の神(ベヘモス)が顕現を果たす。





御愛読頂きましてありがとうございます!


次回更新は来週月曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第三十四話 獣の神 後編』

乞うご期待!

※火曜日更新に変更となりました。

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