第三十三話 狂戦士 後編
「フェイ隊長、全組、配備完了いたしました。しかしながら、現場より退いて良かったのですか?」
「うむ、元々超級種より上の存在、大災害に比するモノが現れた時には、第十八組及びエミリオ・ワーズワースが相手をする手筈となっていた。迂闊に手を出してしまえば、奴らの魔導に巻き込まれる」
「しかし、ワーズワース様ですか。先代皇帝陛下崩御の時より、帝国の中枢から退いて久しい将軍が今回は良く参戦して頂けましたね」
「元より自由気ままを地で行く奴だ。役職に縛られてはいたが、あいつの理由なんぞは風が吹いただけでもころりと変わる。気にするだけ無駄だ。さて、無駄話もここまでにする。エミリオの部隊が怪物を降したらそのまま一気に奈落を制圧するぞ。気を抜くな」
「はっ! 了解しました!」
* * *
「こいつを開けるのは流石に無理みたいだ」
レインは目の前にある石の扉を開けようとしていたが、どれだけ力を入れようともぴくりともしない。レインはそれでも心残りがあるのか、しばらく扉を見つめた後に降参の言葉を放った。
先ほどまで怪物相手に猛威を振るっていた狂戦士の力は発現していないようだが、通常時でも並外れた筋力を備えているレイン。第十八組の中でも最も強いその腕力が通じぬとあれば、一行はレインの言葉をそのまま呑み込むしかなかった。
「狂戦士の力は、自分の意志で管理できないの?」
シルバスは思いついた疑問をそのままレインにぶつける。
「んー、まぁ無理だろうな。なんというか、生命の危機に陥ると頭の中が真っ白になって、無性に目の前にいる奴を倒したくなるんだよ。全てが終わって目が覚めた後には、力を使い果たして腹が減ってる身体のみが残るというわけさ。万事が万事それの繰り返しだ。俺としてももう少し融通が利けば、助かるんだがね」
「そうか」
再び考え込むシルバス。シルバスはレインの力を用いて怪物を攻略する事をいち早く考えているようであった。
レイン自身には狂戦士となった時の記憶は残っていないようだが、それすらも慣れたものなのか、普段通りの調子を崩すことはない。
「やはり難関ではあるが、大通りの怪物攻略が一番手っ取り早い手段、という所に落ち着くわけだな。さて、この手札でどうしたものか」
エミリオの言葉を受けて、お手上げといった感じで手を上げるレイン。ユリスもシルバスと同じように考え事をしていたが、その瞳に幾ばくかの決意を宿らせると、思いついた事をエミリオに話す。
「一つ気になることがあります」
「聞こうか」
「怪物の特性は、邪眼と言霊、そして圧倒的な自己治癒能力で間違いはないですか?」
「ああ。神話になるような代物であるから、どこまでが真実なのかは正直分からんがな。戦ってみて判明している部分に関しては間違いはない」
「怪物の放つ言霊ですが、魔導を研究している時に、僕は群れとなって現れる魔獣達が、互いに声で会話をしているのではないかと考えたことがありました。それを遮断できれば増援を呼べなく出来るのではないかと。それと同じ理屈の応用ですが、風の魔導を使って空間そのものに働きかけ、言霊の力を無効化出来ないかと」
「ほう……そうか、なるほどな。そもそもの音の発生を消すことによって、強制的に破壊を行えない状態にするわけか」
「はい、その時編み出した魔導が今回の怪物討伐に使えるかもしれません。レインさんが自身の声だけで怪物の言霊を相殺していた事を考えれば、高確率で対処できると思います」
「であれば、邪眼は私の魔導で潰せると思う」
シルバスはそう言うと、自身の左手に砂の魔導を生み出す。
細かく流れる砂が金銀に煌めくと、宙を舞いエミリオの視界を閉じてみせる。
「声を潰して、眼も潰す。であれば後は……」
「俺と隊長とで、あいつのバカみたいな体力との我慢比べというやつですね」
手を叩きながらあっけらかんと言い放つレイン。
攻略の糸口が見えたのか、その表情は実に愉しそうだ。
「……うむ。少し前であれば無理だったかもしれん。だがこの門から流れ出る魔導を利用できればあるいは、押し切れるか。怪物の攻撃手段を二つ潰せれば残るのはその図体だけ。レイン、狂戦士にならないように被弾無しで行けるか?」
「そこはどんと任せて下さいよ。意識を失ってたせいか、全然働いてないですからね、俺。これじゃあ、只のただ飯食らいの木偶の坊ですよ」
「よし、戦闘中は音が消える場所に注意をしろ。そして一瞬たりともあれの身体から眼を離すな。何かあったらケツは俺が拭いてやる、遠慮はいらん、派手にいくぞ!」
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次回更新は来週月曜日夜の予定となります。
『魔導の果てにて、君を待つ 第三十四話 前編』
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