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第二十六話 ヤン 中編





「それがレフ……、魔導王や、ヤン導師がやろうとしていること?」

「あぁ。……しかし、この試みにも、ひとつだけ問題があった。世界にある魔導はこれまで大地に生を受けた魂の総量に比例する。過去からの恩恵を受け取って、今を生きる者たちの力を合わせても尚、終焉の大災害を相手にしては、……少しばかり荷が勝つ。分かったのは、どれだけ手を打とうとも、聖女サアラが視る未来視の内容が覆ることはなかったということだけ」

 ヤンの言葉にオーリンは出かけた言葉を留め、口をつぐむ。語られる内容は厳しい現実を知らしめるように、大災害の驚異が個人の手に余ることを示していた。


 それでも、言葉を発するヤンの表情は絶望に染まってはいなかった。それが気になって、オーリンはヤンの次の言葉を待つ。


「次に考えられたのが、魔導門であった。魔導門とは、過去と現在だけではなく、無限に広がる未来にまでも通ずる道を拓き、彼方かなたより此方こなたへと魔導を誘う。其れは、世界を魔導で満たすための、夢の結晶となるはずであった」


「なるはずであった……とは?」

「多くを失い、失意の内にレフ兄に誘われてグアラドラに招かれた、亡国の王グラム・フィズ。レフ兄に次いで多くの魔導に愛された彼は、その後、グアラドラにおいて最初の導師となった。多くの者たちが彼の扱う魔導と武芸を学び、王国の基盤が出来上がってゆく。そして、訪れるグラムの死。魔導門は未完成のまま世界を揺蕩うこととなった」


「最初の導師……グラム。……そうだ! グラム・フィズとは一体?」

「永遠なる友、グラム・フィズ。それはお主が感じた通り、お主の祖先なのである。グラムは常闇の王との最終決戦の折に、死んでしまった。とても強く、絶対に死なぬと言われていた者が、全てを守る為にその生命いのちを落とした。あぁ、今でもあの光景を思い出す。グラム……優しい人の名前。その名にいだかれて、レフ兄を含めた全ての人々の精神は、今も彼の庇護の元にある」


「グラム王国か!」

「うむ。最初に言い始めたのはエドであった。いつもの冗談かとも思ったが、なるほどどうして。希望の象徴であり我らの友であったグラムの名は、新しく造る国の名前としても相応しかった。そして、グラムの想いを知るオーリン、お主がここに辿り着いた」


「あの光景は、グラムが俺に見せたかったもの……」

「この時代を生きる者たちが魔導に触れ、虚無と戦えるよう自立へと誘う」


「……それは」

「世界では今でもどこかで争いが起き、同じ人であっても容易に人を傷付ける。大災害も、人間も、結果だけ見れば、そう変わりはないのである。だがその状態では、全てを無へと還す存在と相対した瞬間に、自我を呑まれてしまう。その先に未来はない」


「その為の自立……」

「……拓く者が必要であったのだ。この時代を生きる者達をすべからく救う為に、新たな景色を見れる者が。そしてそれは叶った。グアラドラにある門をお主が拓いた時に、今までの全てが実りと成した。とても長かった──けれど、待ち続けた甲斐があった。五百年前に蒔かれた種は、芽を出し大樹となりて、葉を豊かにし、枝を遠く外へ外へと伸ばしていった。それは天を覆う程に雄々しく雄大であり、無数に枝分かれした未来は、生きる為の大きな力となる」


「生きる為の大きな力……可能性」

「……レフ兄は、後の世を救うため自ら門の奥深くに至り、約束の日まで内側を魔導で満たす事を選んだ。本当は止めたかった。だが、幼い我の言葉で決心を変えることは叶わず。結局今の世まで残ったのは、駄々を捏ねていた幼子の我ただ一人。もう一度会いたいと願い続けて、随分と遠くまで生き長らえてしまったのである……」


「ヤン導師……」

「だが、それももうすぐひとつの結末を迎えよう。お主たちは何としてでも必ず生き残らせる。それが、五百年を生きてきた、我の導き出した答え。さあ、参ろうではないかオーリン。我らが王の元へ」





本作を御愛読頂きまして、ありがとうございます。

ブックマークもありがとうございます、最大限の感謝を。


次回更新は来週月曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第二十六話 ヤン 後編』

乞うご期待!

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