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第二十四話 拓くもの 前編





 歩くたびにそこかしこから子供たちの笑い声が聞こえてくる。オーリンは今、グアラドラ孤児院の中を歩いていた。板張りの廊下は踏む場所によって、ギュッギュッという小気味よい音を鳴らす。院内は外観を見た時点である程度の広さを想像できていたが、思ったよりも広く取られていた廊下をオーリンは歩いてゆく。


 孤児院内での自由な行動を許されたオーリンは、この場所が一体どういう意味を持つ場所なのか深く知ろうとしていた。孤児院というものがどういう存在なのかは理解している。だがそれも、誰かの知識を聞きかじった程度のもので、実際に深く触れる機会は今までなかった。


 院内は一室一室が大きな部屋で区切られており、街にある学校によく似た造りであった。それは日々の生活と学びが一体化したような場所。講義のために文字を書くのであろう黒板があり、長い机を取り囲むように椅子が並んでいる。


 今が昼前であったのも手伝って、子供たちが互いに助け合っている姿を見ることもできた。年長と年少が互い違いに班分けをされ、出来上がった食事を力を合わせて運ぶ姿は微笑ましくも見える。孤児院ということを考えれば、小さなことから大きなことまで、その全てが生きるという事に繋がっている。


 懸命に日々を営む。その裏にある漠然とした不安にオーリンは思考を巡らせる。手足をバタバタとさせて必死に動き回る少女とふいに目が合う。


 オーリンはごく自然に口元に浮かんだ笑みを見せる。それを見て一瞬固まった様子をみせた少女は、オーリンに見られたのが恥ずかしいのか、足早にその場を後にする。少し離れた場所までいくとそれを見ていた年長に笑いかけられ、少女は今起きた事を興奮気味に話しているようだった。


 そんな光景を見てオーリンは懐かしさを覚えた。スルナ村で出会った少女、マルクの最初の頃とどこか似ていると、記憶を手繰った先で思い出す。


 グアラドラに着いてから出会ったエミリオやフーと違って、孤児院の子供たちは総じて恥ずかしがりやが多いのかもしれない。子供の適応力を考えればそれも今のうち、ではあるのだろうが。


 窓の外を見ると、ハルが子供たちに囲まれている姿が見えた。


 一緒にいるクインも久しぶりの帰郷せいか、ひっきりなしに話しかけられているようであった。マシューも先ほどまでは一緒にいたと思ったが、今は姿が見えない。


 自由奔放なマシューのことだ、予想以上の体力を持つエミリオ達の相手に疲れて、一時的に姿を隠したのかもしれない。


 ハル曰く、現在いまグアラドラにいる導師は三人だけだという。ハルとナーニャ、そして現在、魔導門の中にいるヤン導師の三人。その中でもグアラドラに常駐しているハルとナーニャは、子供たちの教育係としての役割も担っていた。対応を見ればなるほど、と思うオーリンであったが、グアラドラ孤児院に大人がいないという点を不思議に思った。


 ハルに詳しく聞いてみると、ある程度の魔導を修めた者は、各地を転々としながら、孤児みなしごや、問題を抱えた子供を見つけては、手助けをする為の旅に出るという。そしてそれが慣習として根付いているのだと。


 それは魔導王が決めた事なのか、聖女が決めた事なのか。いつから始まった事なのかも分からないと、ハルは言った。


 だけれどもオーリンには分かることがあった。


 グアラドラで育ったものは皆、魔導王や先人たちの背中を見てただ同じことをやろうとしているだけなのだと。それはきっと、親鳥の仕草を見て雛鳥が真似をするように自然なこと。


 知らなかったことなのに、ずっと前から知っていたような不思議な感覚。かつてこの場所にあったという魔導がオーリンの中で生きているのならば、それが影響しているのかもしれない。


 目に入るもの。耳にするもの。触れる声に、吐き出される呼吸いき


 命が繋がり紡がれて、現在いまも続いている。

 それはオーリンが長い旅路の中で知った、生命いのちの形。


「あぁ、……みんな、ここに生きているんだな」





いつも本作を御愛読頂き、誠にありがとうございます。


次回更新は木曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第二十四話 拓くもの 中編』

乞うご期待!

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