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第二十三話 グアラドラ 後編





 日に照らされて、花の良い香りがする。


 ハル・ニストリカは、オーリンから見てもとても不思議な空気を持っている少年であった。彼の側にいるととてもゆったりとした時間が流れているような、そんな感覚に陥る。それは、ただ落ち着いているというだけでは全てを言い表せない不思議な感覚。


 年齢に似合わぬ落ち着きようは然ることながら、その内側からは滲み出るように、高等なるまなびが見え隠れする。言動から所作に至るまで、ハル・ニストリカという少年は、貴族の子息と言われてもおかしくない程に全てが洗練されていた。


 グアラドラの地を歩く一行。その先頭をオーリンとハルがゆく。


 次を歩くのは、エミリオとフー、二人の幼子に左右から手を握られているマシューであった。マシュー自身、年下の弟が出来たような感覚が嬉しいのか、楽しそうに手を引いて歩いている。


 さらに後ろには、その光景を微笑ましく見ている二人の女性。ナーニャとクインの二人であった。積もる話もあるのか、時折楽しそうに後ろを振り向くエミリオとフーの言葉にも受け答えをしながら話に花を咲かせている。


 最後尾を歩くのはシュザ導師。先頭のオーリンからは少しばかり離れている位置にある彼の表情は、その距離も相まってあまり見えなかった。見た目には普段と変わりがないように見えるが、何か考え事でもあるのか、グアラドラに着いてから口を開く回数が減ったようにも見える。


 後ろの様子を見る為に振り返っていたオーリンは、再び視線を先頭へと戻す。するとハルが此方をじっと見ていることに気付いた。


「何か気になることでも?」

「いえ、実は僕、オーリンさんとずっと会いたかったんですよ」

「俺と?」

「はい。最果ての地であるグアラドラから動くことのできない僕とナーニャ姉さんは、魔導を通じてグアラドラの外の事を知るのですが、魔導がオーリンさんを見つける度に、楽し気に伝えてくるんですよ」

「魔導が伝えてくる……か」

「ええ、付け加えるならば、オーリンさんの傍はとても居心地が良いと。それを聞いたせいか、この地に長く居た魔導の大半がどんどんオーリンさんを探しに出て行っちゃって、なかなか大変だったんですよ」

 笑いながらそう言うハル。オーリンとしては今の話を聞いてもピンとはきていない。

 そもそも魔導とは一体何なのか、という話になってゆく。


「あー、話を聞いていて不思議に思うのだが、魔導とは、それ自体が意思を持っているのか?」

「彼らはいつも対話を求めています。どこにでもあるけど、どこにもない力。それが魔導。彼らの存在に気付ける者にのみ、対話が出来る不思議な存在」

 話を聞いていく内に腑に落ちる所もある。だけれど、なぜそのようなものが存在するのか。


「それはまるで、生き物……のような」

「肉体を持たず僕らと近しい考え方をする、友達、といった方が近いかもしれませんね。まぁ、全てヤン導師からの受け売りですから、細かいところは違うのかもしれませんけど。でもオーリンさんも本当は気付いているんでしょ? 彼らが、とても良い子だってことに」


 ハルの言葉に、オーリンは自らの内に在る魔導に語り掛ける。

「君たちが俺に力を……貸してくれていたのか」

 自らの掌をじっと見つめるオーリン。

 淡く発光する緑の魔導は、オーリンの問いかけに反応するように、優しく力を与えてくれる。


「とても喜んでいますよ。オーリンさんはやっぱり良い人だ。会えてよかったです」

「ハル……いや、何といえばいいのか。……ありがとう」

「それこそどういたしまして、ですよ。あっ、話に夢中になってたけど、着いちゃったみたいですね」

 ハルが手で方向を示したのは、草原のなかにぽつんと存在している、一本の木であった。

 それは大木というほどの大きくはなく、森の中にあれば隠れてしまいそうな、そんな変哲のない木であった。


「これは?」

「ちょっとコツがいるんです。よっと、さあ入りましょうか」

 木に手を当ててハルが手を差し伸べると、それは唐突に姿を現した。

 同時に無邪気な子供たちの声がそこら中から聞こえてくる。


 それはとても大きな館であった。外観は古めかしく、それまでの歴史や積み重ねられた年月を感じさせる、少しくすんだ所もあるが、手入れの行き届いた赤煉瓦あかれんがの館。館を囲むように、色とりどりの花が一面に咲いている。


 その不思議な館は二階建てで横に長い形をしていた。至る所にある窓から顔を覗かせるのは、物珍しそうにオーリンを見ている多くの子供たちであった。身を乗り出して拍手のように手を叩いている子もいれば、オーリンの視線を感じて隠れる子もいる。だがそれらから共通して感じられたのは、何ものにも染まっていないという、純粋さであった。


「夢とは、与えるものでも与えられるものでもなく、純粋に生きた結果、辿り着ける居場所なのかもしれない……。かつて魔導王が言った言葉です」

 館を前にしてハルがどこか得意げに胸を張る。


「改めて歓迎しますオーリンさん。ここが魔導王レフ・ガディウスと聖女サアラ・フォンの育った、グアラドラ孤児院です」





いつも本作を御愛読頂き、本当にありがとうございます。


次回更新は来週月曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第二十四話 拓くもの 前編』

乞うご期待!

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