第十八話 道 後編
燦々と照らしつける日の下に、大勢の人間が集まっていた。
「本当に世話になった」
カナン村の代表であるヴァルが、深々と頭を下げる。それに続いて、見送りの為に集まった村人達の全てが頭を下げる。その中にはガルムやハサンもいた。村からグアラドラへと続く道を前にして、皆がオーリン達の出立を見送ろうとしていた。
「何かあった時には、すぐにグアラドラへと来るといい。導師が出払っている事もあろうが、なんだかんだで誰かはおるからな。グアラドラだということで、何も遠慮をする必要はない」
シュザは仮面の縁をさすりながら、ヴァルに伝える。
「祖先の偉業に倣うのもいいが、解決できぬ時には無理をすべきではないぞ」
「耳の痛いことです」
ヴァルはシュザの眼を見て、その言葉を深く心に刻む。
「オーリン、お前とはまたどこかで会えるような気がする」
ガルムが清々しい表情でオーリンに声を掛ける。
「奇遇だな、俺もそんな気がする」
互いに出た言葉に、笑い合うオーリンとガルム。
「また会おう、ガルム」
そう言って拳を前に出すオーリン。
「ありがとう。オーリン」
二人の拳が合わさる。
そこには、かつて迷いを見せていた男の姿はなかった。
「オーリン・フィズは、カナンのこれからが良きものであるように、願っている」
「ガルム・カナンも……お前の未来が良きものであることを願おう」
「熱いねぇ。燃えてくるぜ」
離れて見ていたスウェインが口笛を鳴らす。
「いいのですか? スウェイン様は」
遠慮がちにハサンはスウェインへと声を掛ける。
「とりあえず援軍が来るまではカナンを見届けるさ。俺の仕事の方も準備がいるもんでな。もう少しだけだが、世話になる」
「それはそれは、心強い事です」
「おう。任せとけ」
「おっちゃんまたなー」
「おうよ! またな、マシュー!」
マシューが無邪気に手を振る。
豪快に笑って返すスウェイン。
オーリンはグアラドラへと続く道を歩きだす。
少し遅れて、お辞儀をしたクインが出発する。
マシューは慌てたように走り出し、その様子を面白そうに見ながらシュザが続く。
先頭に追いついたマシューはオーリンの顔を見て言う。
「兄貴、これからあの村は大丈夫なのかな?」
マシューの言葉に、オーリンは足を止める。
「──きっと大丈夫さ。一度は違えた道を歩んだとしても、その全てが互いを思い合っての事。より良い明日へと向かう為に、話をして、ぶつかり合って、本気で生きる事を決めたんだ。それが──」
オーリンは振り返ることなく、大きな一歩を進める。
「──それが、共に歩くということ」
一歩。
また一歩。
果てはまだ見えぬとしても、道の続く限り旅は続く。
人生という、困難であるのにそれでいてどこか優しい、とても面白い旅が。
* * *
「──王国に入り込んでいたあれの気配が失われた」
「は、なんとも呆気ない。随分と簡単にやられてしまったのだな、あの化物は。所詮はただ長い年月を生き長らえているだけの、道化にしか過ぎんか」
「──」
「なんだ不服か? 聖魔の。もはや貴様がどれだけ足掻こうとも、流れ行く時代の潮流を押し留めることなど不可能だというのに」
「──仲間割れはそこまでだ、大罪の。大局を見ればあれが失せたことも小さな綻びでしかない。だが、大いなる目的を遂行する為には、それが極々僅かなものであったとしても、慎重に手直しを加えていかなければならない。我等の大望が叶うその日までは」
「相変わらず臆病だな、大蛇の。結局辿り着くところはグラムもルードも叩き潰すだけの話だというのに。結末に何ら変わりはない」
「大罪の。貴様の子飼いも動けるようにしておけ。既に事は重大な局面に至っている」
「言われずとも手は打ってある。障害となりそうなものには全てな」
「──我等結社こそが、グラムの魔導王やルードの皇帝などというお飾りではない、真に偉大なる王を戴き、今こそ大陸に覇を唱えん。全ては──」
『我等が王の御心のままに』
* * *
周囲の気配が無くなった暗闇の奥深くで、一つの存在がムクリと起き上がるように形を造る。
──素晴らしい。我の貴重な身体が持っていかれた。だがそれも今となっては好都合。このままゆるりと戦いを見届けるとしよう。何、時間は無限にあるのだ。今はただ、心地良いこの絶望を愉しもう。ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
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次回更新は木曜日夜の予定となります。
『魔導の果てにて、君を待つ 第十九話 遠雷 前編』
乞うご期待!




