第十八話 道 中編
「──事は大きく動きを見せるか」
村を少し外れて、森の中を歩いていたマシューは、聞いたことのある声を耳にする。声の主は白髪の大男。カナン山での戦闘を終え、オーリンやシュザと共に村に戻って来ていたスウェインという名の戦士であった。
「おっちゃん、誰と話をしてるんだ?」
スウェインに近寄ったマシューは、その場に一人ポツンと佇むスウェインを見つけて、ふとした疑問を抱く。
「んー、坊主はたしか……マシュー、だったか?」
いたのかと言う風に、特に驚くでもなく自然体のままに応えるスウェイン。スウェインの巨体に隠れて見えていなかったものが、マシューの方を向いた時に姿を現す。スウェインの腕には、一羽の大きな鷹が止まっていた。
「なんだそれ! 凄くでっかいぞ!」
「はっはっは、これは鷲という動物でな、こう見えて下手な人間より賢いのよ」
「へー、ってことは、今話してたのはそいつ? 人の言葉も解るの?」
「あぁ、ある程度はな。それにこいつは空を飛ぶ。半日で一つ二つの街を巡れる程にな。都市間の連絡に有用というわけだ」
「なるほど。でもそんなのを扱えるなんて、おっちゃんって結構凄いやつなのか?」
「くっく、そうだぞ。俺はとっても凄いやつだぞ」
スウェインは大きな口を噛み締めるように笑うと、腕を天に伸ばし鷹を空へと放った。
「街にはちょっとした伝手があるから、今回の件も応援が望めるだろうよ。問題はそれだけではすまんのだろうが、手を拱いている理由にもならねぇからなぁ」
「緑青鬼の呪い……俺は嫌だな、ああいうの」
「ふっ、生きてると不条理な事ばかりが目についていけねぇ。あいつらはそれでも決断をしたんだ。結末がどうなろうとも、そこに後悔はないだろうよ」
「それでも理不尽だよ。呪いなんて……」
「まぁ、そうだよな」
マシューの忌憚なき言葉に、言葉を返すスウェイン。どんな事でも気軽に話す二人の関係性。マシューとスウェインは出会った時から馬が合っていた。出会った瞬間にスウェインへと試合を挑んだマシューに、スウェインがその場で受けて立ったという出来事もあったのだが、そもそもの考え方や物事への捉え方が似ているのかもしれない。
「そういえば、お前達は今日発つんだったか?」
「うん。……そうだ、おっちゃんも来ない?」
マシューの曇りのない、無邪気な言葉に目を瞬かせるスウェイン。
「はっはっは! それもいいなぁ、とても楽しそうだ。だが、残念なことに仕事が入った。なーに、お前のその感じなら、どこかの街でまた会うこともあるだろうよ」
「そう? ちょっと寂しいけどね」
「あまり言うな、別れ難くなるじゃねーか。おっちゃんはやらなきゃならん事が多いのさ」
「……そっか」
「そうだな、マシュー。お前の旅が一段落したら一度ルードに来い。俺の住まいは帝都にあるから、来たときにはいつでも相手をしてやる」
「ほんと?」
「本当だ。さあ、準備に戻れ。道というものはどこかで通じているから道と言うのさ。互いが願う限り、それはいつか必ず通ずるものよ」
「わかった!」
元気よく走り去るマシューを見て、優しい目を見せるスウェイン。
「くく、面白いやつだ」
スウェインは口元に手をやり笑みを隠す。
思わぬ所で思わぬ約束をした。
願いは叶えねばならんのであろう。
それは前を歩く者の努めとして。
「スウェイン副団長……」
近くにある茂みより、スウェインだけに聞こえるように声が掛かる。
「リーンか、先の知らせは受けている。詳細を頼む」
「グリーク団長は第四の大災害、不滅の魔竜との激戦を、その類稀なる大いなる魔導を持って退け、さらには命をも賭し、相打ちとなって戦死されました」
「……そうか。陛下は何と言われてる?」
「魔導兵団の再編成に伴い、副団長である殿下がお立ちになられることを望まれております」
「……大陸を蝕む蛇の尾は未だにその全容が見えん。探索班を殺した存在は知れたが、繋がりまでは掴めぬままだ。しかし、魔竜の件が解決したとなれば、ルディ・ナザクは帝国より去り、フィテスの道へと戻るのであろうな。やはり帝都に戻らねばならんか……。リーン、用意を頼む」
「仰せのままに、スウェイン・ヴァン・ミドナ殿下」
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次回更新は来週月曜日夜の予定となります。
『魔導の果てにて、君を待つ 第十八話 道 後編』
乞うご期待!




