第十三話 残響 後編
黄昏にあり、星が瞬きのように一瞬だけ煌めいて、儚く消えた。
願い、想い、待ち焦がれる。
繰り返される胸の痛みを、幾度経験をすれば待ち続けた未来へと辿り着けるのだろうか。
ヤンは、自身が生を受けてから今日に至るまでに経験した、何度目かの悲しみと向き合う。
最初に気が付いたのは、空を駆け廻る禍々しい波動であった。
動悸を覚える程の重圧は、今にも世界が崩壊するのではないかという危機感を、ヤンに抱かせる。
揺蕩う魔導に語り掛け、状況を探っていた矢先、その重圧は突如として霧散した。
心の揺らぎに答えるように流れてきたのは、ヤンがよく知っている懐かしい風であった。
それなりに長い時を生きてはいるが、ヤンがその身に受ける、心の痛みに際限はない。
いつ終わるともしれぬ時の中で、希望を探しては、導き、失う事を繰り返す。
一体、ヤンが歩いてきたこの道は、何処へと続いているのであろうか。
胸中に残るのはいつになっても慣れぬ、別れの痛み。
今となっては、ヤンですらも、何が正しくて何が間違いであったのかは分からない。
だが、ヤンは待ち続ける。
魔導王の目覚めを、ただ待ち続ける。
「世界はなぜこんなにも、儚いものであるのか」
寂しさを紛らわすように吐き出した、ヤンの問いに答えてくれる者は、もういない。
楽しそうに未来を語る友も、少しむずかしい顔をしながら話を聞いてくれた友も、もういない。
風が吹いた後、ヤンは微睡んでいた世界が、目覚めを迎えたような気がした。
「王よ。偉大なる我らが王よ。今こそ、彷徨える子らを救いたもう……」
優しい風は強い意志を伴って、微睡みから世界の目覚めを促す。
世界を漂っていた魔導は、風に吹かれてその力を強めていく。
少しずつ、世界に魔導が満ちていく。
それはヤンが今までに経験した事のないものであった。
「会いに行かねばならんのである。今こそ、全てを救う為に」
* * *
其は、よくその世界を見ていた。
光っては消えるもののある世界を、其は見ていた。
光り輝き、瞬きの一瞬の間に消えるその在り様を、其はじっと見ていた。
不思議なことに、其は何かを美しいと思う感情がなかった。
不思議なことに、其は何かに執着するという感情もなかった。
だけれども、気が付けば其はその世界を見ていた。
其は理解をする。
其が見ている世界へと、自らが行く事はできないと。
だけれども、其のいる所へと、光が迷い込んで来ることはあった。
その光は、其と同じように、其を見ていることに気が付いた。
其は、光が迷い込む度に、其を形成しているものが、迷い込んできた光を消していることに気が付く。
特に消したかったわけではない。
反応が見たかったわけでもない。
其の一部が勝手に反応しただけであり、そこに消失という結果が残っただけ。
もとより其に何かを羨むという感覚はない。
もとより其に何かを憎むという感覚もない。
故に其は見るだけ。
見るだけで、光が消えていく。
其は、ただの現象であった。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
今回のお話は次章へと繋がる分岐点ですので、少々短くなっております。
その中でも何かを感じて頂けたなら、幸いです。
次回投稿予定日は6月21日月曜日夜頃となります。
──新章突入
『魔導の果てにて、君を待つ 第十四話 ヤマツミの詩』
乞うご期待!




