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第三十七話 神殺し 中編





 爆音を鳴り響かせて、赤き巨獣が躍動を見せる。


 エミリオの魔導の直撃を受けて損傷を負った獣の右前足は、時間が経つごとに皮下より新たな肉の再構築をして見せていた。それでも、今回のエミリオの一撃には今までのものとは違い特別な力が作用しているのか、獣の足が回復する速度は目に見えて遅い。


 赤き獣(べへモス)は足が修復しきる前に、自身を突き動かす怒りによって、三本足のまま行動を開始する。


 重力という重さを感じさせぬ機敏さを見せると、赤き獣は残った足で壁を蹴りマシュー目掛けて跳躍する。古き年月を経てケルオテの大断層を強固に維持していた壁面も、赤き獣(べへモス)が一蹴りする度に粉々になって崩れ落ちてゆく。


「うはっ、とんでもなく速いなぁ。でも、俺についてこれるかな!」

 マシューは追ってくる赤き獣(べへモス)を正面に見据えながら、足で風を蹴り後方へと逃れてゆく。マシューの言葉へ返答するように赤き獣(べへモス)の緋色の瞳が怪しく揺らめく。その瞬間、マシューの視界は一面の黒に呑まれそうになる。反射的に自らの頬を強く張るマシュー。


「んがっっ。いてぇ、けど……怒った時のおっさんのほうが、何倍も怖いんだよ!」

 目に見えぬ攻撃を受けて奮起するマシュー。さらに突風が吹くと、マシューへの追い風となってべヘモスとの距離を離す。

「おぉっ?」

「面白そうだな、マシュー兄ちゃん。俺も混ぜてくれ」

 マシューが声のする方に顔を向けると、楽しそうな表情のエミリオが、空でマシューと並走するように飛んでいた。


「エミリオ! やっぱりでかくなったなぁ!」

「これには深い訳があるんだ! 細かいことは後で話すから、まずはあいつを何とかしないと!」

 赤い光がマシューとエミリオのいる場所を撃つ。が、二人の身体は互い違いに交差しながら、乱射される光を次々と避けていく。


「うわっと、色々と大変そうだ。でも、死ぬのは無しだからな!」

「あぁ、()()()()()の前では、もうあんな姿は見せないよ。絶対に」

 エミリオの顔を見て、マシューが満足げに頷くと、エミリオと共に赤き獣(べへモス)に向き直る。赤き獣(べへモス)は口元に赤い光を輝かせながら、見上げるようにマシューとエミリオを睨み続けていた。


「おっ、やっと俺の事も見てくれたな、伝説の獣よ。どうか俺の相手もしてくれ」

 エミリオもいつもの調子が戻ってきたのか、軽快に嘯く。


 赤き獣(べへモス)の右前足は既に新しく生え、完治していた。だが、四足になって全力で走っても赤き獣は標的に追いつく事が出来なかった。空が、赤き獣(べへモス)を執拗に拒む。マシューとエミリオが赤き獣(べへモス)の視線を引き付けている間に、大量の砂が舞い、鎖のように赤き獣(べへモス)の四肢を大地に縛る。


『グガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!!』


 赤き獣(べへモス)の口から吐き出る憤怒の吐息は赤く、目の前の世界を破壊して、怨嗟の声を撒き散らす。

 赤き獣(べへモス)の眼前の敵は、空を我が物顔で掌中に収めたばかりか、今や赤き獣(べへモス)の世界すらも侵略し、せしめようとしている。


 吐き出しても尽きぬ怒りが、赤き獣(べへモス)を縛る。そして──


──世界を揺るがす力が、赤き獣(べへモス)に迫る。

 それは、赤き獣(べへモス)によく似た獣の力で、地の果てより来たりて、赤き獣(べへモス)を滅そうとする。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 金色の髪の男が、余りにも強大な力を持って地面を削りながら走ってくる。

 唐突に現れた其れは、赤き獣(べへモス)の眼を見て笑った。


一刀両断ゴルディオンブレード!」





 * * *





『だが、それでもまだ足りぬ……』

 黄金の獣は変わらず、変わりゆく世界を見ていた。動くべき時を待つオーリンは、戦況を見ながらも、思考はまだ迷いの中にあった。


「……あんたの半身であるあの存在は、本当に力でしか止められないのか?」

『たとえ万の言葉を用い道理を説いた所で、止まりようもなし。あれは我と頒かたれてから随分と時を喰らった。それによって、本来不変であるはずの神性までもが変質した。内に秘めたる不滅に影響を受けているのか、元よりそうであったのかはわからぬがな』


「何か別の手段はないのか?」

『本当に不思議な奴だ。人も獣も、元来持つのは弱肉強食のことわり。思うままに力を振るい、流れるまま生きれば苦難も少なかろうに。その本能すら制御するか』


「俺は、目の前に救いを求めるものがあるのならば、その全てを諦めきれんのだ」

『……既に不変であるはずの神々ですら、その多くが失われた。時は変化を求める。それは流れる水と同じように、押し留めることの出来ぬもの。過ぎたる考えは己すらも欺瞞の海に沈める。仮初を望むというのであれば、もう何も言うことはないがな』


「欺瞞か……。迷いが深すぎるのかもしれない」

『思案は必要。だがそれも身を縛っては意味がない。進まぬことには道は出来ぬ。征く事を忘れては、それ以上には到達できん』


「不思議だな。あんたと話してると思い出す男がいる」

『人間と同じと言われて、我が喜ぶと思うたか』

「いや。だが、ありがとう……行ってくる」

『ふん……見せてもらおう。貴様の決断とやらを』






いつもお読み頂きまして、ありがとうございます!

応援とブックマークに感謝です!


次回更新は火曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第三十七話 神殺し 後編』

乞うご期待!

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