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第三十五話 うつろうものたち 中編





「来る!」

 マシューが声を上げた。オーリンは何かが飛んでくるのを感知して咄嗟に身体を逸らす。直後に目の前を光が通り過ぎる。オーリンは状況を把握できずにいたが、反射で動いていた指先が器用に槍の柄を運ぶ。マシューもオーリンとは反対側に飛んで難を逃れていた。


 オーリンがすれ違いざまに見たのは鋭く光る黄金の爪であった。鋭利な爪は通った空間に光の残像をのこしながら、翻ってなおもオーリン達を狙うように突き進む。


 自然体のまま腰を落とすオーリン。柳のような靭やかさを持つ身体は、大地と一体となり全てを受け止める力へと瞬時に変換される。槍の穂先が光を捉えるように僅かに漂うと、一点で静止した。そんな中光を迎え撃とうとしたオーリンの目の前に影が落ちる。気が付けばマシューがオーリンの前に立っていた。無防備に映る姿は、迫りくるただ一つの光をじっと見据えて微動だにしない。


「マシュー!」

 危険を感じ取ったオーリンはマシューに声をかけるが、オーリンの言葉でマシューがどく様子はない。オーリンが目を見張ったその時、光の到達に合わせてマシューが一息に剣を振るう。


 凄まじい勢いで迫りくる光はマシューの行動を見て突如動きを変化させる。マシューの振るった剣にぶつかる直前、急制動を掛けた光は地面を削るように黄金の爪を大地に穿ち、前方に押し進む風だけを放りながら身体をその場に押し留める。


 風がオーリンとマシューを吹き抜ける。ぼやけた輪郭をなぞるように光は徐々に狼に似た形を取り、金色の姿を晒す。金狼は音もなく二歩、三歩と足を進めた後、オーリンとマシューへと視線を投げた。


『この気配……』

 金に輝く瞳はマシューが居る場所の、さらに後ろにある何かに向けられていた。


「随分と手荒な歓迎だな」

「兄貴、あの狼強い」

 一分の隙も見せずに、オーリンは金狼の動きを警戒しながらも目の前に広がる光景を視界にいれる。真っ白な霧が壁となってひと所の空間を占領している。中からは間断なく光が漏れていて、それが先ほどオーリンが戦闘の気配と感じたものの正体であるようだった。金狼は沈黙のまま在り、張り詰める空気に注がれた熱量が場を包み込んでゆく。


『……貴様もか、ヴェルカ』

 金狼はそうつぶやくと背後に在る霧の先へと躊躇いなく四肢を進める。全身が霧に呑み込まれる直前に振り返った金狼は、オーリンとマシューに来れるものならばついて来てみろと言わんばかりの挑戦的な表情を見せる。


 魔導の揺らぎは霧の先を示している。金狼の思惑に乗せられているという自覚もある。だがオーリンの中で既にやるべきことは決まっていた。それはマシューも同じようで、金狼がヴェルカという言葉を放った時に跳ねた心は、マシューをどうしようもなく突き動かす。

「あいつが呼んでいる……俺、行かなくちゃ」

 マシューの呟きに頷きで返すオーリン。


 この先に行けばもう後戻りは出来ないという予感がオーリンの中にあった。

 それでも、二人は渦中に身を投じる。


 全ては本能が求めるままに。





御愛読頂きましてありがとうございます!

次回更新は金曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第三十五話 うつろうものたち 後編』

乞うご期待!

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