六
異世界?に来て早一年、そろそろ旅をしたいと思えるほど余裕が出てきた。いや何もこの王都から出るというわけでは無い。
ならどうするか、人間には広い王都を飄然と旅するのだ。正確には人族。酒飲みのドワーフやら弓の上手いエルフにもこの王都は広すぎるのだ、何せ王国騎士団でさえ三つに区域を分けてそれぞれ無干渉で見回りを行うほどなのだ、どこぞで見た都市国家の並ではなかった。
そのような広いところであるから、ただ街を飄然と渡り歩いて日帰りで散歩らしきことであっても旅になるわけだ、これを思いついた時には木造の家屋が少し震えるほど一瞬叫んだものだ。後でシュナから“五月蝿い!”とほっぺたをひっぱたかられたけどね。
さて、仕方が決まればよし。しかし問題がある、執事として高名な御屋敷で働かせてもらってる身としては休むのは少し気が引けるというもの、そこでだ、だいたい二週間後かそこらあたりで主人がご家族とピクニックに行かれるからその時に多少休暇が貰えるはず、ついてこいと言われたら連いて行かなくてはならないが。
それはともかく、休暇さえ貰えれば旅に……日帰り旅に出る。
ツーウィーク、英語なんていらん。
運命の二週間がやってきた、その間に色んなことがあった。例えば払暁時、衛士に関防を抜けた革命軍の間者と勘違いされて詰所に連れてかれ取調べを受けたのは新鮮だった、結局メリーさんに来てもらって執事ですと言い分を信じてもらえた。
二つ目は家のペットの小竜が脱走して屋敷まで連いてきてしまったことかな、愛しのシュナがわざわざ屋敷にまで来て受け取って帰ったのはかわいい──大変そうだった、多少馬小屋の一部が燃えたり探していた鶏が食われていたりと問題があったものの主人は本を蒐集する事しか興味がないから許された。
そんな事があったが運命の女神は味方してくれた。休暇だ、二日間の休暇が貰えた、一日は家で過ごすてしてもう一日はぶらりと日帰り旅行をしよう。ああ、飄然と、気に入ったなこの言葉。
そうと決まれば仕事に精が出るというもの、土産用の銅貨も欲しいしね。
二人の息子さんと三人の娘さんの部屋の掃除や主人一家の一回数キロの洗濯を三回、朝食のフランスパンとジャムとヨーグルトを出してココアを添える、夕食は昼の二時からグレヒ産の高級馬肉をじっくり焼いてマルタ産のマスに似た食感の魚とその他調味料の焼き肉ソース、庭の家庭菜園から採れた野菜類を御子息に沢山入れる。
みたいな感じで毎日の仕事をこなす。
その週の給料はやっぱり過去最高額だった。やったぜ。