五
帝国とカヤのスパイ合戦は苛烈を極めていた、更に統合政府の諜報員も加わり混沌たる状況と化している。
帝国地下都市、この広い帝国の近空間には大小様々百位上の巨大な縦長い地下都市が広がっている、その中でも別格の広さと長さを持つのが帝国首都地下都市である。
地上はほぼ全て人間の手が入っていない広大な大自然が広がるが、フィルターによって防げないほどの猛毒がうずくまく人間にだけ死の地とかしている。酸素ボンベなしではものの数分で死滅するだろう。
そのような星に小惑星を除く帝国唯一の領土であり首都はこの惑星に存在する。
ネーラ・カルサはカヤの諜報員として首都に潜っていた。
「新造艦……それは本当か?」
「ああ、そうだ。いつもとは違う砲を作った、レールガンだ」
フードコートには昼時だからか人がごった返し隣の席の声も聞き取りづらくなっていた。
カルサは協力者からいつも通りに金品の代わりに工廠に勤める男から情報を聞き出していた。カルサの頭の中には新造艦についてで埋まっていた、それ故か耳の尖った店員の行動に気付くことはない。
「レールガン……これを」
カルサは懐から見た目的に一般的に普及している電池を渡した、中身は強力な効能のある液体が入っていた。
受け取った男は不敵な笑みを浮かべ席を立ち人混みに消えていく、カルサはそこで初めて六つの目が向いていることに気付いた。
膝を叩きゆっくり腰を上げ、三人から遠い方向へ走り出した。
強烈な痛みを伴い機械的に強化した脚力はカルサが逃げるのに十分役立った、それでも尚生身で追い縋る色白い二人からはどうにも逃げ切れそうには無かった。
そこでカルサは店々の間に入り地図には存在しない部屋へ入ることを決める、銃弾は見事に彼の足を捕らえたが機構部に当たり弾き返された。
二人の暗殺者は二手に分かれカルサの行き道を塞ごうとする、しかしいるはずのカルサは忽然と消えていた。
「やはりか」
息を上げずに二人は再び人混みに混じっていった。
「ぜぇ、くっそ」
悪態をドアノブを叩きながら言う、うぃんうぃんと換気扇は羽を回し部屋の空気をこれでもかと循環させており、四畳の部屋には雑多な小道具が机の上に整然と並んでいた。
「ここも見つかるか」
幼少期から鍛え上げられてきた直感は危機的状況が差し迫っていると脳裏に響かせる。
カルサは手始めに黒いリュクを地面から引っ張り上げ机の手前から物を入れていった。
こつ、こつ。
カルサの耳に使者の足音が聞こえてくる、眼を開いて扉を見る。
「早過ぎる」
懐から一発限りの拳銃を取り出し扉の右に立った。
こつ、こつ。
こつ。
足音が止まる。
カルサはリュクを扉の前に置きすぐには開かなくした。
とん、とん。
額から汗が落ちる。
どん!
カルサの目は扉の淵から片足が見えた。
刹那、空いた扉に体を急に傾け一発の拳銃を放つ。
ぱん、と青白い壁によって弾き返された。
使者は顔を仮面で隠しカルサにはよく見えなかった。
「リベルN型、よくカヤが使うやつだ」
仮面の使者は片腕の太い拳銃をカルサに向けた。
うぃんうぃんと羽根が回る。
ドン!
血が噴き出し腕が飛ぶ、体も地面に打ちつける。
「さぁこい」
残った腕を掴まれ無理矢理立たされる。
その音を聞きつけてか無数の足音がこちらに向かってきていることが分かった、カルサは朦朧とする意識の中で家族の写真をじっと眺め続けた。