三十一
青い星のさきに零れている黒い海、私の嘘は健在なのが残念な景色だった。
視線を下に向けると原っぱのただ中に机が一つだけ、人によっては寂しく見えるだろう。そよ風に揺れる葉を触るとひんやりとして気持ちいい。できればずっとここに居たい、そう思えるほどだ。
「悲しいかな、夢は長く続かない」
否定、私の胸に事実を否定する私そっくりの天使が現れた。彼女は無理やり高い声を作りながら言い、一生をここに留められると、そう言った。
悪魔の誘い、魅惑の果実を手に取ると途方もない嘘がこの小奇麗な世界に解き放たれてしまう。避けたい事態の一つだ。
「見てよ。あの月を……地平線に顔を埋める巨大な銀の珠玉を」
天使は誘い続ける。
椅子が用意された。なのに、机の周りには何もない。
下手な天使だな、私だったら机の前に置いているよ。心の中で思うと、天使は顔を真っ赤にして起こった。はしたない罵声、黒っぽい世界に必要ない存在だ。
役立たずの劣等感、椅子に対して抱いた思いはとても生き物が受け入れて良い感情ではなかった。涙が、なんの涙が声に鳴らずに目から溢れて……滝のように。
瑞々しい大地に滴り落ちる。
嘘を洗い流してはくれないか。
疑義たる嘘の太陽が浄化で消えれん。
「自分を騙すって、難しいね」
電車の線路を走る。
いつもの音はどこか大きかった。
心の中には居場所を失った感情が幾つもある。両手を見るたびに剥がれかけのネイルが胸を刺し、締め付けられる。
私は座り込んだ。周りには誰もいない。私だけの世界がこの駅に出来ている。頼んだわけでもないのに、首から下げたスマホに振動を振るう。
彼は、いつも絢爛だ。
氷解していく想いはしぶとく月を支え、目を閉じると目の前に机があった。中には崩壊した文字の羅列が刻まれている。
「汚い」
所詮、月。
私は目を開け、机に飛び乗った。




