三
換気扇の音だけが響く部屋に緊張した空気が張り詰める。
「時代は変わったものだ」
橙色の灯に照らされる白ギツネの仮面を履き、声を変えた壮年の男は焦げて折れ曲がった鉄の腕を持って悔しそうに言った。
対面する優しい顔を貼り付けた耳長の若く見える女はただじっと待っていた。
「それで?何を?」
仮面の男は二分ばかり経って言う、同時に女は魅惑の唇を動かす。
「後進の育成をお願いしたいの、これからこの国はさらに困難に薔薇の中に入っていくでしょうから」
人を魅了する笑顔を顔面に貼り付けて言った。男は一切動かずに女の目を見た。
耳長は体を回る狂気に身を動かしそうになったがじっと我慢して正面だけを見た。
「蛇のようですね」
美しい桃色の唇を動かして女は言う。しまったと女は心の中で思ったが何を吟味してるか解らない男の視線に耐えかねて顎を上げた。
対して、男は仮面の中で目を細めて言葉の真意を探ろうと必死に、殺気立てて見続ける。
「何の後進だ、今は沢山いるよな?超能力に魔法に──」
「分かり切っているでしょう!」
かれこれ数時間座り続けた耳長は痺れを切らして橙色の蛍光灯が照らす机を綺麗な手で叩きつける。
のっそりと仮面男は立ち上がった。
「俺だってクソみたいな海外には思い出の詰まったこの国を捨てさせるわけにはいかない、でも俺は必要ないだろう、充分」
言葉を切って男は続けようとしたところに耳長は割って入った。
「まだまだかかります、空に追い出された時、それが我々の勝利です」
男は仮面の中で額にシワを寄せてコンクリートの天井を仰いだ。手を上げてくるくると椅子を回転し出し回りながら言う。
「おばさん、戦争する気か」
逆に殺気を瞬時に出して女の顔を歪ませた。
狭い部屋に風が吹く。
「今日の夜は一段と綺麗ですね、いつまで続くでしょうか。弱い国には守る術が乏しいんです」
開けた窓に腕を組まして耳長は言いヒルのように輝く街並みを望んだ。
仮面の男は自らの手で白ギツネの仮面を外し女を押し除け手に持った、歪んだ鉄腕を胸に寄せて言った。
「お前はこの街が好きだったな」
男は気持ちを一周させて過去を思い出し頬に涙を流して言った。
「能力者同士の戦争は大勢死ぬ、良いのか?」
耳長は決意の顔と声を聞いてハッと気づく、女は手を指輪の入った手を握りしめて舌を噛んだ。
「私たちの生きる道はこの国にしか無かったんです」
優しい顔した男は涙を拭って仮面を付け直した。
鉄の腕を月明かりに照らされる机に置いて扉に向かって勢いよく歩き出しす。
「所詮人間は自己保身さ、結果は最初から決まってる、俺の新しい住処を紹介してくれ」
耳長の女は部族のために白ギツネの仮面男を連れてコンクリートジャングルに往く。
鉄の腕は遺された。
街は大阪です。