二十一
カリストは貧相な九番街に生まれた。赤ん坊は冷たい風がドアを閉じても入ってくる石造りの二階建ての建物で、声を張り上げて泣き、周りの付き添いの人間は涙を流した。
彼は生まれて早々に郊外の馬小屋へ捨てられた。
母親は声を押し殺して寒い冬空の中、せめて暖かそうな藁にそっと置いて、すぐに走りさった。通りすがりの魔術師に拾ってもらえれば、生きながらえることが出来るという、母親の最初で最後のわがままだった。世の中は金のない人であふれているのに、捨てられた赤ん坊を誰が拾うというのか、生みの親は憲兵の前でそう問われたとき、憲兵の鼓膜を破らんばかりに泣き叫んだという。
初めて馬小屋を通りかかった小太りに商人はそもそも馬小屋を見ていなかった。
次に通った体格よりも小さな服を着る子供たちは、静かに眠る赤ん坊を見るが、首から下げた小さな剣を無造作に投げて立ち去った。
そのすぐ後に雨が降り出し、ぼろぼろの布を羽織った老人が通りかかった。赤ん坊は泣いていた。
老人は無言で雨に打たれている。
雷まで鳴り響く嵐の中、長い杖をぼろぼろの布のそこからか出して、何かを唱えて杖を数回振ると雨が止んだ。もう何回か振ると空が晴れて夕日が世界に出しこんだ。
老人は何も言わなかった。口を一切動かさずに、冷徹な目を赤ん坊に向ける。
カリストは泣き止んでいた。
「希望……か」
ぽつり。老人はそう予言した。
キース・カリスト教の聖書にはこう書かれている。
預言者"デイダラム"はプライ・カリストを見て予言した。この子は我らを殺し、億万の人々を導くだろう。死して尚、止まることはない。
彼が生れ落ちて二十年後、キース・カリストは老人を殺し、聖職者を虐殺し、商人たちを根絶やしにし、世界に平等をもたらした。
カリストが死んで百年後、人々は掘っ立て小屋で暮らしている。




