二十
恍惚の表情に甘味な匂いを感じると、未来の壺に重なるチューリップは花咲いた。世界が夜を迎えて時間が経っても、満月に輝る湿った肌色しか真夜中を示さない。桃が段々と色づく中に、荒い風の流れが耳元をつく。気付けば、朝日の登る窓が見えた。
昨日の言葉の力を感じ取れば、半月前まで短い髪の毛の長さに驚きを隠せず、燃え尽きたはずの森林から細々とした巨木の元がここにあることを当然と思った。焼け落ちた家屋の下敷きからのけ上がったのだろうか、そりあがったのだろうか。一月経っても理解し難い。透き通る面は瞳に隠れる暗闇を隠すのにちょうどよく、白さの輝きがそれを助長する。繁茂する無垢な目線の痛さときたら表面の輝きで悲哀を送り、願ったのだ。
工場から排出された有毒物質が傷にしみこみ犯していき、歪に異形に湾曲した人形の足にもう、過去の面影は残されてはいなかった。
惨劇の向こうに微笑む女神が待っていたなら、嬉々として飛び込むことを容赦しない。名残惜しさは二度と後味に登ってくることはないだろうし、梯を外せば空中に浮かぶだろうが、関係ない。山脈の麓ほど大事で、価値のものもないだろうが、みえるのは氷河のごとく頂上のみ。救えるものも内部のみ。外面の屁理屈は忘却する他ない。しかし、諦めれないと申し上げるなら、目隠しを差し上げる。
先生と一人の旅路は一夜にして終わった。それがどうして、一年後の巻末に繋がるのだろうか、いや繋がることはない。誰も気づけるわけがない。世界を見渡せる一番の灯台から、過去を観れると思った。ガラスを破りたい。この薄くて硬い灯台の守り神を。




