十八
私は目の前が真っ暗になった。
ある日のこと、私は普段と変わらない生活のルーティーンの始まりに立っていた。起きたら歯を磨いてぱしゃっと顔を洗い、朝ごはんの用意をしてご飯が炊けるのを待つ。お茶を沸かして弟を起こして歯を磨かせる。親はもう出かけたから居ない。赤いランプが点滅してご飯が炊けると電子レンジで具材を温めて食卓へ出す。弟がまだ寝ぼけた顔でやってきた。
「オネェちゃんご飯ちょうだい」
「ちょっと待ってね」
作っておいた卵を切っていつもの形にして弁当箱に詰める。昨日用意した具材が冷蔵庫からなくなると、私は最後の皿を持って食卓についた。
「ありがとう」
あぁ、笑顔。
走馬灯のようなものなのか、この心地よさを一生味わっていたいのに。
あぁ!
もう思い出したくない。
『ありがとう』
そんな笑顔にならないで、ならないで、私の隣で寝て、起きて、食べて。お願い、お願い……。
「お母さん、残念ですが──」
ああぁぁぁぁ!
「息子さんはお亡くなりました」
ああ、あぁ。
お弁当の感想聞いてないよ。また、まだ、聞いてないよ。卵焼き、頑張って作ったんだよ。
わたしが、遅く起きていれば、いれば。
「申し訳ありませんが、貴方の父親について──」
笑顔を、見せてよ。
「電車が脱──」




