十四
惜しげなく天は雪を降らした十二月半ば、それでも道路に雪は積もらなかった。
「なぁ蓮、もっと大きなモノにしようぜ」
蓮と呼ばれた男は手元にある小さな玩具をいじくり回すのに一区切りつけると大学生の女に体を向けた。教師の顔だった。
「俺には……まだない。小さな事から、積み上げる」
土佐華弥はよく結果のみを望む。それを実験室で再三繰り返した挙句に二階堂の逆鱗に触れることをしてしまった。あるまじきことに、コックを捻る順番を誤ってしまった。危うく部屋の一部が木っ端微塵に吹き飛ぶ寸前まで来るが、過去に同じ過ちを犯した二階堂が線が捻られているのに気付き、土佐の動作に割り込み爆発を防いだ。
その時、土佐華弥は見てしまった、二階堂のはるかに残念な瞳を。
「また同じ目、我慢すんのやめよ?」
「人は巻き込みたくない」
焦ったい、と土佐は思ってしまうが蓮の望むその先が一体、大きいのか、小さいかのすら釈然としない。だのに、彼に山を吹き飛ばせなどと言えるわけがなかった。理解したい、彼女のその気持ちが、儚い光と熱と風に思いを馳せることになったのだろう。
「……遠くに行こう、どこに行きたい?」
二階堂と土佐は夏の代わりにとった冬の長期休暇に旅行することにしていた。玩具を消費する為であった。部屋には二階堂の手元を含めると四つの瓶が丁寧に梱包されている。傍目からでは高級ワインが入っていると勘違いするだろう。
「アメリカ、ジョニーにも会いたいし」
「ジョニーは刑務所に入ってたかな……見舞いに行こう」
「へまったんだ、気をつけないとな」
二人は目を合わせて笑いあった、ジョニーを含め三人は同類の感慨を持ち合わせていたが、誰一人として人を巻き込む事は除外していたからだった。極められた刀身に取り憑かれる人と同じく、光と熱に風、力強い人類の叡智に虜になっていた。
ちりちりと雪を降らす十二月、外では子供の叫び声に似た歓声が聞こえて来る。大人も感じているはずだ、怖い事件が起こらないでくれと、しかし、蓮と華弥は五つ目を作り上げた。繁華街で悲鳴が上がる前に二人はアメリカへ飛んだ。




