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迷子になりました

……

…………

……なんだろう、さわがしいなぁ、と。

そう思って、僕は目を覚ました。

目を開けても閉じても暗い。ここは暗い。だんだん耳が聞こえるようになってきて、人の足音や話す声がしてきた。それと、食べ物の匂いとか、街っぽい匂い。

その時、ようやくここが箱の中なのだと気づいて、頭の上にある壁──箱の上部を押すと、それはあっけなく開いた。

眩しい。




そして、光の差す方へと歩いていくと、そこは異世界だった。いや、たとえ話でもなんでもなく。


「……ぇ」


犬のような耳や尻尾が生えた人、金色や銀色どころか青や赤色の髪の人、翼を広げて空を飛ぶ人、それから、普通の人間っぽいのに炎に包まれている人。

ああ、もしかして、まだ光に目が慣れていないから幻覚が見えるのかな?さっきまで路地裏の箱の中だったもんね。

僕は目を擦った。……景色は、変わらない。


「……ど、」


「どこここおおおおおおお!?!?!?」


結果として僕は、道の真ん中で突然大声を上げる変な人になってしまった。




「いや、いや、うん、まぁ……」


今度は道の端っこで座って独り言を言う人になる。どうやらこんな異世界でも、僕は危なそうな人の部類に入ってしまうらしい。道ゆく人(人?)が、僕にことごとく不審な目を向けてくる。

周りを見てみれば、よく分からない記号が踊る看板、青色の毛皮と肉を軒先に吊るす店、遠くに見える時計台と、虹色の水を噴き出す噴水、空中を泳ぐ金魚のような赤い小魚、そして何より、空に月が、2つ。

……いや、うん。もちろん僕だって男の子だから、こういう世界に憧れを抱いたことはあるし。今のところは驚き半分、嬉しさ半分、といった感じだ。もう少し冷静になったら、嬉しさの方だけ立ち消えそうだけど。

僕が今着てるのは、黒色の制服。万が一にでも裸じゃなくって良かった。だなんて気にしている図太い僕もいる。

元の世界なら目立たない格好だけれど、この世界ではそうじゃないんじゃないか……と。連想ゲームで、そこまで考えて、はたと気づいた。


……僕、前の世界の記憶が全然ない……!!!


僕はとても焦りました。どうしよう。もともと住んでいた国の名前すら、というかそもそも自分の名前だって覚えてない。全く!どうしよう!

これは、困る。どう困るかはぱっと思いつかないけど多分困る!


「と、とりあえず、困るから動かなきゃ……」


多分僕は迷子になったのだ、と。とりあえず一旦、そう自分を納得させて立ち上がった。とりあえず。明らかにそうじゃないことははっきりしてるけど、とりあえずだ。




それからしばらく歩いて、約数分後。この時点で、ひとつだけ分かったことがある。


僕は迷子になった……!!!


それは今この変な世界にいるのが「ただの迷子」だったことが分かったとか、そういうわけじゃない。

本当に迷子になった!異世界で!何にも見知らぬ異世界で!!!

僕は道のど真ん中で横になった。ああもうだめだ。絶望した。僕は前にもこうだったのか?とすら疑いたくなるほどのマヌケっぷり。変な人だと言われても気にするものか。僕は多分もうダメなのだ。


ああ、消えてなくなりたい……もしくは白昼夢であってくれ。そう願いながら目を閉じる。

頬を撫でるそよ風。だれかの、話し声。


(……あれ?人の声?)


そうして道のど真ん中ちゅうのど真ん中で、僕が大の字になっていた時だった。

誰かと誰かが大声で話している声が聞こえてくる。耳をすませてみれば、僕でも分かる言葉だ。

もしかして、この世界は言葉が通じる?

それともこの声の人たちだけ話が通じるのかもしれない。たまたま外国の人だったとか。……そうだったら大変なことになる!

僕はむくりと起き上がり、話し声がする方に走った。


そして後悔した。


(喧嘩だったー!!!)


どうしよう。曲がり角から少し顔を出して見てみればなんと言うことか。男の人2人と女の子が、なにやら怒鳴りあっていた。

なんだか今日は同じようなテンションのアップダウンを繰り返している気がする。だがここでまた寝転がるにはいささか危険すぎる。何と世知辛い。

やけくそで、そっともう一度覗いてみる。男の人達はオオカミみたいな耳と尻尾が生えていて、強そう。多分年上。

でも、女の子は……多分僕と同い年。普通の人、みたいな。


(これは、これはまずい)


勝てるわけがない。もし男の人達がこれ以上怒ってしまったら、女の子はきっと……あの……めちゃくちゃにされてしまう。ああどうしよう!

僕は曲がり角に隠れて、密かにパニックになっていた。

普通に僕も多分勝てない。叩かれるのは怖い。ああでも!

なんだか体がむずむずする!


……気がつけば、僕は走り出していた。

壁の陰から出て腹から声を出す。3人全員が、ギョッとしてこっちを向いた。

この隙に彼女が逃げてくれたらなんて思ったけど、そりゃそうだよね!

そのまま少し細い方の男に掴みかかる。


「誰だお前──」


なんだか言っているが、夢中な僕にはよく聞こえていない。

もう一度、彼女に向かって叫ぶ。


「はやく、はやく──!!!」


……その声に、彼女が目を見開いた、気がした。

はじめまして、酸味しぃです。

大幅リメイクに際して、前回の版は削除しました。新たによろしくお願いします。

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