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文化祭



「今日、お礼言った」


カチャカチャと夕食の支度をしながら、司が紘に言う。夕飯のメニューは紘の残した惣菜と、司の作った中華スープ、サラダだ。紘は、箸やスプーンをテーブルに置かれているランチマットに並べている。既に温められた惣菜たちは、テーブルの中央に置かれていた。


「お!偉い!偉いぞ〜」

「うざ…」


主語がなくても通じたようだ。紘がキッチンに行き、犬を褒めるようにわしゃわしゃと司の柔らかい髪を撫で回す。料理をしている時だった事もあり、心底嬉しくなさそうな顔で紘の腕を払う。


「いいから早く持ってって」

「ハイハイ」


二人分の皿に均等に盛られたサラダを、紘がテーブルに持っていく。その後ろをスープとご飯の乗ったお盆を持って、司もついてくる。綺麗な栗色の髪はぐちゃぐちゃになったままだ。テーブルにお椀を配膳し、二人とも向かい合わせで席につく。座ろうとした時、


「あ、飲みもん忘れた。お前お茶飲む?」

「俺は大学持ってったペットボトルあるからいい。ありがと」


座る直前で気づき、また立ち上がりキッチンへ戻る。戻ってきた司は、グラスを二つ、一つは空で持ってきた。


「コップに移した方がいいだろ」

「気が利くねぇ。サンキュー」


そう言って空のグラスを紘に差し出すと、紘は笑顔でそれを受け取り、ペットボトルのお茶をドボドボ注いだ。


「じゃあ!いただきまーす」

「はい。いただきます」


席に座った司を見て、二人で同時に食事を始める。


「またあの三人と飯でも食いに行くの?」


先程の話を掘り返して、紘が言う。


「えぇ?…そんな話はまだしてない。今日昼飯一緒に食っただけ」

「いいねぇ楽しそう。お前会社で毎日ぼっち飯決め込んでそうだからさぁ」

「…気楽でいいだろ。そこまで仲良くない奴と一緒に居ても気疲れするだけ」

「でも今日の昼飯楽しかっただろ〜?」


ニヤニヤしながら紘が聞くと、司は嫌そうな表情を浮かべる。


(何だこの顔ウザってぇ…)


ウザったいが、嘘はつきたくない。


「……まぁ」


照れ隠しのようにボソッと肯定の言葉を口にすると、紘のニヤニヤ度が更に増した。


「よかったじゃ〜〜ん。また誘ってもらえよ?」

「お前の顔ウザイからこの話もうやめ」

「え〜なんで〜」


司が自分に向けられる、あまりに生暖かい表情に耐え切れなくなり会話をブチッと切った。紘は唇を尖らせて文句を言っていたが、すぐに新しい話題へ切り替える。


「そういえばさ、来月の真ん中か下の方で、多分うちの大学の文化祭あるっぽいんだよね。司、久々に母校来ない?」

「よくそんなフワフワした情報で誘えたな。全然確実性ないんだけど」

「いや〜おれ大学のイベントとか全く参加しねえからさ!わかんねえんだわ!」


ハハッと清々しく紘が笑う。司と紘は同じ大学に通っていて、紘は自分の通っていた母校で働いている。


「今まで参加してないんだったらなんでまた」

「なんか俺の講義受けてる生徒が模擬店出すらしくてさ、めちゃくちゃゴリ押しされたんだよね」

「へぇ」

「何やんのか詳しく聞いてなかったけど…うちの大学の模擬店の飯、割と美味いらしいんだよね。一回くらい行こうかな〜って」

「はぁ」

「司行く気ないな?」

「いやだって、大学だろ?そんな若者が大量にいる場所、おじさんは行きたくない」

「え〜行こうよ〜!!おじさん二人で文化祭回ろうよ〜!」

「きっしょ」

「お前まだ私服来たら生徒だって!」

「適当に言うな。完全アウトだろ」


何度も誘っても、司は全く揺らがない。別に紘もそこまで行きたかったわけじゃないし、なんなら自分の職場だ、一人でも回れる。だがここまで頑なに断られると意地でも行かせたくなる。


「そういえばお前のゼミの教授だった王先生、覚えてる?」

「もちろん。懐かしいな」


司は大学で中国語を勉強するゼミに入っており、その時にお世話になった先生の名だった。


「王先生、もうすぐ定年で辞めるみたいだからさ、顔出せば?」

「あぁ…先生もうそんな年齢か…」


大学を卒業してすぐの頃は王先生と何回か連絡を取る事もあったが、仕事が忙しくなり段々とそれもしなくなっていた。


「………………え〜」


(王先生の名の効果は絶大だったな)


さっきまで頑なに拒否していた司が、長い時間を置いて悩み始めた。ずっと会っていない恩師に久々に会いたい気持ちもあるのだろう。


「王先生もお前に会いたがってたぞ」


大学内で紘と王先生が鉢合わせると、司の話がよく出る。「一条君、元気にしてる?」と必ず言っていた。


「……えぇ……………じゃあ行く」

「よっし!決まりな!まぁ微妙だったらすぐ出てもいいし」

「そうだな。ちゃんと日にちいつか聞いてこいよ」

「オッケーオッケー」


少し渋りながらも行くことを決めた。やっと司を説得できて、話している間少し止まっていた箸をまた動かす。


「大学の文化祭って何やるっけ」


司がそう聞いてくるが、紘もイマイチ分からない。前回参加した時といえば、まだ司も紘も大学生の時だ。大学に就職してからは、講義と受験以外のイベントには参加していない。


「えーなんだろ。サークルがなんか出し物やったり、ご飯系の模擬店が並んでたり?俺らが学生の時も軽音のライブは盛り上がってたよな」

「へぇ〜そうなんだ。俺学生の時も行ったことねえから」

「あれ、そうだったか?」

「わざわざ大学行くより休みたかったんだよ」

「司らしいな…俺は何だかんだ毎年行ってた。じゃあ司の初!大学の文化祭!だな」

「この年でウケるな」

「いいじゃん。そういえばこの前王先生がさ〜…」


その後も、懐かしい大学時代の話が盛り上がり、空になった食器を片付けるのはそれから2時間後だった。


読んで頂きありがとうございます!



司は人混みがすごく苦手です。デパ地下はもちろん、少し混んでるスーパーでも嫌がります。

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