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みんなでお昼

「……眠っ」


朝日が眩しくて目が覚め、のそのそと紘がベッドから降りる。いつもはスマホのアラームのやかましい音で起きるのだが、昨日の夜に設定するのを忘れてしまっていたようだ。眠気がなかなか覚めず、まだちゃんと目を開けることが出来ない。まずは顔を洗って目を覚まそうと思い、部屋のドアを開けた。


(…お?)


料理のいい匂いがする。だが、寝起きの悪い紘はそれを気にするどころではない。フラフラと洗面所に入り、冷たい水で顔を洗った。


「ふぅ〜」


スッキリした顔で、いい匂いのするキッチンへ向かう。


「おはよー」


そう言いながら、水を取りにキッチンに入ると、ジャージ姿の司が味噌汁をお椀に注いでいる所だった。


「はよ。起きんの遅くね?」

「目覚ましかけんの忘れてたの。なんでお前、昨日あんなだったのに朝起きれるわけ…?」

「昨日だって最後の方は普通だっただろ。寝たら良い感じになった」

「なんだよ良い感じって。まぁずっと寝てたしな」


コップに注いだ水を飲みながら、キッチンの向かいにあるテーブルの方へ向かうと、テーブルには既にご飯とハムエッグが二皿づつ置かれており、司が後ろから味噌汁が入ったお椀を持って来てくれる。


「ありがと」

「ん。先に食ってて」

「じゃあいただきます」

「どうぞー」


そう言いながら司は自分の部屋に向かった。紘が「いただきます」と言うと、司は毎回「はーい」やら「どうぞー」やら、何かしら返事をしてくれる。ご馳走様の時でも同じだ。それが何となく嬉しくて、紘は食事の時の挨拶は欠かさない。

自室でスーツに着替えてきた司も、紘の向かいに座り朝食を食べ始めた。ハムエッグにソースをドボドボかけながら、紘が司をちらりと見る。


「今日の夜飯何?」

「は?早。今朝飯食ってるとこだろ」

「俺の一日のモチベーションは夜飯で決まるんだよ」

「残念だけど、今日はあなたの残した惣菜がメインです」

「うわぁぁアイツらのこと忘れてた!なんであんなに買ったんだよバカじゃないの?」

「知らねえよ。買って残したのお前だろ」


司は冷静にツッコミを入れて、朝食を食べながら自分の犯した失敗を悔やんでいる紘を冷ややかな目で見る。


「…まぁちょっと適当に何か作ると思うけど」


ボソッと司がそう言うと、自己嫌悪していた紘の表情が明るくなる。


「マジ?やった!流石に二日連続で油っこい惣菜だけはキツいもん!」

「だろうな…って…紘、時間大丈夫?」

「え?…うぉっヤバっ今日一限なんだわ」


寝坊した癖にいつも通りに朝食を食べていたら、いつの間にか家を出なければいけない時間になっていた。「ヤバいヤバい」と焦りながら、残っていた味噌汁を一気飲みする。


「ぶはぁ!ご馳走様!」

「お粗末様。皿片しとくから急げ」

「サンキュ!」


紘がドタドタと自分の部屋に入り、凄い速さで着替えて出てくる。


「じゃあいってきます!」

「おー、いってらっしゃい」


紘が玄関から大声で声をかけ、そのまま家を出る。忙しない紘がいなくなり一人になった司は、目の前にある紘が置いていった皿をボーッと見つめていた。


(あいつ、急いでても残さねえよな)


向かいにある皿は、どれも綺麗にまっさらだ。司が作った料理を紘が残した事は、記憶を遡っても出てこない。一度、漫画のように塩と砂糖を間違えて野菜炒めを作ったことがあったが、


「なんだこれ!野菜ゲロ甘でやべえな!!ウケる!」


とゲラゲラ笑いながらも完食してくれた。なんなら残した司の分まで。


(あんなんだったら女からモテるだろうに…なんで俺なんだ)


頬杖をついて悶々と考えても、相手の考えていることなど分かるはずがない。


「あぁ、俺もそろそろ出ないと」


時計を見て立ち上がり、二人分の食器をシンクに置く。身支度を整えて、司も家を出た。







「おはようございます」


自分の部署へ入り、挨拶をしながらデスクへ向かう。いつもならデスクに着いたら座ってすぐ仕事を始めるが、今日は少し違った。


「なぁ、吉羽」

「なに?」


隣のデスクでコーヒーをちびちび飲んでいた吉羽がこちらを向く。藤川、吉羽、河合の三人で、一番司と席が近いのが吉羽だった。


「今日もいつもの二人と昼飯食べんの?」

「おぉ、多分そうだと思うけど」

「俺も一緒していいか?」

「もちろん」


吉羽が二つ返事で了承してくれる。


「じゃあ詳しい話はまた昼に」


そう言って、仕事に取り掛かった。







「ふぅー!!腹減ったな!何食う?」

「俺はなんでもいいよ」


そう話しながら、藤川と河合が一緒に吉羽のデスクにやって来る。


「一条も一緒に食うって」

「いいかな?」

「えっ当然じゃん!一条何食いたい?」

「うーん…聞かれるとすぐに出てこないな…」

「俺ら何でも良いから藤川決めていいよ。一番うるさいし」

「だな。どこがいいの」

「じゃあ近くにある定食屋にしよ!一回行ったけど割と美味かったんだよね。ハイ決定」


先導するために藤川が前を歩き、その後ろを三人がついて行く。藤川が言っていた店は勤めている会社からほど近い所にあり、昼食を食べに来たサラリーマンで賑わっていた。タイミングよくすんなりと案内され、席についてメニューを開く。近くに会社が多くある為か、比較的リーズナブルだ。


「悩むな〜……割と種類ある」


そう言って河合がパラパラとメニューをめくる。個人店の為店内はそこまで広くないが、メニュー数は豊富だ。


「俺唐揚げ」

「俺はアジフライ」

「お前ら決めんの早くない?メニューちゃんと見てんの?」


メニューを数秒で閉じた藤川と吉羽を、河合がメニューから目を離さずに茶化す。


「俺は…鯖の塩焼きにしよっかな」

「一条、じいさんじゃん!!!!!」

「美味いよ?割と好きなんだよね」

「鯖に失礼だろ。鯖の塩焼きに謝れ」

「焼き魚って俺自ら頼んだ事ねえな〜」

「まぁ俺も店入ったら揚げ物とかいっちゃうかも。最近、体脂肪率が大変な事になってそう」

「俺も〜体重の増加が止まらねえ」

「まぁ二人とも身長割とあるし、今んとこは大丈夫そうだけど」

「「今んとこはな〜」」


メニューが決まった三人で雑談をするが、なかなか河合が会話に入ってこない。


「河合まだぁ?早く決めろよ〜」

「いや、ちょっまって」

「なんで昼飯でそんな悩むんだよ」

「色々目移りしちゃうんだよな…」

「種類多いからなぁ」

「だよね〜。一条みたいに焼き魚もいいな…」

「もう店員さん呼ぶから来るまでに決めろよ。すいませーん!」

「もう少し悩ませてくれたっていいじゃん!お前それ女性にやったら怒られるからな!」

「女の人とお前は違うだろ」


すぐに店員を呼ぶ吉羽に、河合がブツブツ文句を言うが、その間に店員が注文を取りに来てしまう。それぞれが自分の注文をしている間、河合は急いでメニューをパラパラめくる。


「あ〜…うん。俺は鰈の煮付け定食でお願いします」

「じいさん二号」

「鰈に謝れ」


読んで頂きありがとうございます!!



司は着替えてから派、紘は寝てたまんまの格好で朝食を食べる派です。


吉羽には姉が二人いるので、実はサラッとレディーファースト出来ちゃう人です。披露する相手がいないだけで…

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