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いつも通り



ーーーー「じゃあ帰ります、ご迷惑お掛けしました……あっそうだ、どうせコイツ金出してないですよね」


そんな声がした後、紘がゴソゴソと動くので、おぶられている司の体も揺れる。


(あー…そういえば金出してねぇな…)


揺られながらそう思うが、眠い事もあり声には出さない。

紘がポケットから財布を取り出し、中身を見ると、札は一万円と五千円が一枚づつしか入っていなかった。五千円札を取り出し、三人の前に差し出す。


「これで足りますかね」


「えぇっいいっすよ!俺も払ってないし!」

「お前は出せ!河合からはもう貰ってんぞ!」


ゴッ


ブンブンと両手を振って断る藤川の背中をを吉羽が横蹴りすると、藤川が大袈裟に痛がる。


「痛いんだけどー!これ背中のどっか大事な骨折れたよ絶対!」

「アホなこと言うな。今度行く店、お前の奢りにすんなら出さなくていいけど」

「…絶対高いとこ行くじゃんそれ」


渋々藤川も財布を出して、千円札を数枚吉羽に手渡した。


「一条の分はいいですよ。黒田さんから貰うのは申し訳無いし、五千円じゃ多いです。」


本当に気にしなくていい、という感じで吉羽が微笑みながらそう言ってくれるが、そこまで迷惑は掛けられない。


「受け取って下さい。飲み物も買ってくれたし、後は迷惑代って事で」

「でも…」

「後から司に倍で請求するんで!」


ハハッと笑いながらそう言うと、「…それなら」と言って金を受け取ってくれた。チラリと紘が自分の背中にいる司を見ると、半目でうつらうつらしており、起きているのか寝ているのか分からない状態だった。


(どんだけ寝る気だ)


「ここまで一条を悩ませる相手って凄いですよな!どんな人なんだろ」

「え、司なんか言ってたんですか?」

「なんか恋愛について悩んでるみたいですよ。その話になった途端ガバガバ飲み始めましたし」

「………そうなんですか…」


ここに向かう時に考えていた通りだった。やはり司は紘のことで思い悩んでいた。


「じゃあ…」


金も払ったし今度こそ帰ろう。そう思い、会釈をして歩き出す。


「今度黒田さんも一緒に飲みにいきましょー!」


藤川が大きい声で、黒田の背中に声を掛けると、


「もちろん。行きましょう。潰れない程度に!」


振り返って笑いながらそう言い、紘と司は公園を出た。







「黒田さん、良い人だったな」

「だね〜、わざわざ潰れた友達迎えに来てくれるなんて」

「俺も酔い潰れたら河合か吉羽呼ぶから!迎えに来てくれよな」

「「行くわけないじゃん/だろ」」

「とか言ってぇ、結局迎えに来てくれるんだろ。分かってるよ俺は」

「「………………」」

「せめてツッコめよ!」


主に藤川がやんややんや騒ぎながら、三人も帰路につく。







「……ん」

「〜♪〜〜♪」


歩いている揺れで目が覚めた。紘は歩きながら、なんの曲かわからない鼻歌を歌っている。司の小さく漏らした声に気づいたのか、紘が声を掛けてきた。


「お、司起きたか〜」

「起きた」

「お前どんだけ飲んだんだよ…」

「覚えてない」

「はぁ…」


起きたての司のあまりに雑な受け答えにため息が出る。


「まぁ会社で仲良くしてる人いて良かったよ」

「……おぉ」

「え、何今の間。違うの」

「……いや、仲良いっつーか、」


(ただ家に帰りづらくて行っただけだし…)


だがそんな理由、紘本人に言えるわけがない。誤魔化すように紘の肩に顔を埋めた。


「……?なんだよ。でもみんな優しいな。あんまり迷惑かけんなよ」

「今日はたまたま飲みすぎただけだ。…明日、お礼言わなきゃな」

「おぉ、そうしな」


そんな会話をしていると、紘の家はもう目の前だった。司をおぶったまま鍵を取りだし、器用にドアを開ける。


「ふぃ〜〜!!到着!!」


玄関に入って司をゆっくりと下ろし、紘が伸びをしながらリビングへ歩いていく。


「あ、紘」

「ん〜?」

「お前も、…ありがとな」


リビングへ向かおうとする紘を引き止め、ボソボソっと礼を言った。


「……」

「…なんだよ」

「……司が…お礼を言うなんて…」

「は?お前俺をなんだと思ってんの」

「暴君だろ」

「あのなぁ…」

「嘘嘘、いいよ気にすんな」

「…ん」


ケタケタ笑いながら、紘はリビングに行き、ソファにダイブする。その後ろを司もついて行き、キッチンに入り水を飲もうと冷蔵庫を開けた。すると、紘が買ってきた惣菜達に目が行く。


「なにこのおかず。めっちゃあるけど」

「ん?あぁ今日の俺のご飯達」

「うわぁ…油モンばっか…大学生のメシかよ。胃もたれするぞ」

「お前絶対それ言うと思った」


想像していた通りの司の反応に、思わず顔がニヤついてしまう。


「ほぼ買ったまんまの状態じゃん。やっぱ老化?」

「ちげえよ。やっぱいつも司の料理食い慣れてると、スーパーの惣菜は進まないわ。司の飯美味いもんな」

「はっ?」


急に褒められ、変な声が出てしまう。普段も料理を出せば、「美味い」と言ってくれるが…改めて褒められると照れくさい。


「……当然だろ。誰が作ってると思ってんだ」


動揺を隠すように、強めの口調で答えた。


「流石!一条シェフ!!いつもありがとうございます!」

「これからはもっと感謝して食えよ」

「わかってるって〜」


どんなに司がキツい口調で話しても、紘は冗談だとわかっているから怒らない、むしろノッてくれる。紘は司にとって大事な友人で、だからこそ今の関係を崩してしまうのが怖い。今まで少し気まづかったけれど、自分が酔い潰れたお陰で、普段通りの会話が出来ている事に少しホッとした。


(これからは…か)


大事な友人だと思っているのは紘も同じだ。「これから」という言葉が聞けて、思わず笑みがこぼれる。司の中で、紘の家を出て行くという選択肢は無かったようだ。


(今は普段通りに戻っていい。急かしちゃダメだ)


今のところは、告白のことについては触れない事に決めた。


読んで頂きありがとうございます!



藤川が酔い潰れたら、結局吉羽も河合も迎えに行ってあげると思います。


あの3人は会社の同期と言うより、友達って感じの関係だと思って書いてます。

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