同僚とご対面
司の同僚を待たせているのでゆっくり歩く訳にもいかず、小走りで近所の居酒屋へ向かう。
(やっぱ俺のせいだよな…)
一人でいるとどうしても思考がネガティブになってしまい、小走りも段々とスピードが落ちる。
(俺が迎えに行くのも嫌かな……いや、今はそんなこと考えても仕方ない)
どんどん沈んでいく気持ちを無理矢理引き上げて、また急ぎ足で店へ向かった。
☆
「ふぅ……っと…どこだ?」
店の前に到着し、軽く乱れた息を整えながら辺りを見回す。外の風に当たる、と藤川が言っていたので、店からはもう出ているだろう。
「ここら辺で座れる場所つったら…」
近くに小さめの公園がある。その公園にはベンチも置いてあるし、行くとすればあそこだ。目と鼻の先にあるので、今度は走らず歩いて向かう。
公園が近づいてくると、賑やかな声が聞こえてきた。
「やべぇ…全てが懐かしい…。おい!ブランコ乗って靴飛ばし大会やるぞ!!」
「よっしゃ。じゃあ負けた奴明日の昼飯奢りな」
「やらないよ。なんで吉羽も乗るんだよ…やる訳ないだろ革靴で」
「ハァ〜〜??河合ってノリ悪ぅ〜」
見ると、スーツの男達がまるで小学生のような会話をしている。夜も遅く街灯も少ない為、顔までは分からないが、四人だ。二人は遊具ではしゃいでおり、二人はベンチに座っている。
(あれか…?)
暗くて司が居るのかわからず、近づくのを躊躇ってしまう。また司に電話を掛ければ誰か出てくれるだろうと思い、自分のスマホを取り出した時、
「黒田さん、ここいるってわかるかな!?」
「え、何お前公園にいるって言わなかったの?」
「黒田さんからの電話出た時点ではどこ行くか決まってなかったからさ〜」
「バカ、店の前で待ってたらどうすんだよ。一旦戻るぞ」
「あっ確かに…やばっよし戻ろ!」
(あ、うん、絶対あそこだ。)
サラリーマンの会話の中で紘の名前が聞こえ、あのグループだと確信する。軽く走って近づいた。
「すいませんお待たせしました!黒田です」
「おぉ黒田さん!すれ違いにならなくて良かったぁ!俺、藤川です、電話に出た。場所言ってなくてすみません〜〜!」
藤川が頭の上で手を合わせて謝る。電話口でも思ったが、藤川はとてもフレンドリーだ。数回会話をしただけで、場を盛り上げるタイプの人だな、と分かる。
「いやいや、迷ってないんで大丈夫ですよ」
「これ、よかったら」
ベンチに座っている人からホットのお茶を差し出された。まだ少し温かい。
「俺らが買うタイミングで一緒に買ったんで、ちょっとぬるくなっちゃいましたけど…あ、俺河合です。」
「吉羽です」
「どうも、黒田です。すいませんありがとうございます」
「いえ、みんな買うついでだったんでお気になさらず」
(めっちゃ良い人達じゃん…)
藤川以外の二人からも挨拶をしてもらい、ようやく全員の名前がわかった。
ニコニコと物腰柔らかな話し方をする方が河合。吉羽は、少し前に藤川とふざけていた時と大分雰囲気が違う。初対面の人とは中々話せない人のようだ。ベンチに座っている河合の隣をチラッと見ると、
「おぉ…」
想像以上の酔っぱらいがそこにいた。ベンチに浅く座り、背もたれに思いっきり寄りかかっている。
「ちょっとだけ起きてここまで来たんですけど、座ったらまた寝ちゃいましたね」
河合が微笑を浮かべてそう言う。
「そうなんですか…おい司、起きろ」
司の肩を揺らして声を掛けるが、全く起きる様子はない。
「帰るぞ〜起きろ〜」
何回か声を掛け、さっきより激しめに肩を揺らすも効果はない。
「起きろって!!」
スパァンッッ!!!
優しく起こしても無駄だと思い、項垂れている司の頭を引っぱたく。近くで見ていた三人は目を見開いた。
「うぉ、いい音した…黒田さんつええな」
藤川がボソッとそんなことを言っていた。
「……う…いっでぇ…」
「ほら帰るぞ」
叩かれた頭を擦りながら、ようやく目を覚ます。司の腕を引っ張り立ち上がらせようとするが、座ったまま立ち上がろうとしない。
「えーーー、無理。」
「は?」
「歩きたくねぇ。車は」
「俺も家で飲んでたんだよ。近いんだから歩いて帰れるだろ」
「はぁ?使えねえな……あれ、なんで紘いんの」
「今かよ!!わざわざ迎えに来たんだよ!」
「はーん」
「…コイツ…」
まだ眠そうな声で暴君のようなことを言ってくる。立ち上がらせようとグイグイ腕を引っ張るが、「眠いから歩けない」と言って全然立ち上がる気が無い。
「はぁ……ほら、おぶってやるから」
「………」
司の方を背にしてしゃがむと、素直にのそのそと紘の背に乗る。「よいしょっ」と声を出して立ち上がった。人をおんぶするなんて久しぶりだ。
(おぉ、こいつ見た目の割に重いな)
「るせぇよ」
思わず声に出していたようで、背中にいる司に怒られた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!
初期設定で、紘はもっとガツガツした、めげない攻めまくるキャラにしようと思っていたのですが…話が進むにつれてすぐ悩むナヨナヨ君になってしまいました。